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農業帝国主義?

一週間以上前に『The New York Times Magazine』に「Agro-Imperialism?」と題された記事が出ました。

 

重要な話題だと思ったのですが、日本では取り上げられる気配が無いので紹介しておきます。

 

(以下抄訳)

  ■ ■

 

「農業帝国主義?」

将来の食糧の不足を懸念してサウジアラビアをはじめとする各国の投資家がエチオピアなどのアフリカの貧しい国々の土地を耕作の目的でどんどん買い上げている。これは「開発」なのか?それとも「搾取」なのか?

 

著者:アンドリュー・ライス


 

サウジアラビアの政府はマリ、セネガル、スーダン、エチオピアといったアフリカの国々に数十億ドルもの資本を投じてプランテーションを開始することを決めた。これらの案件の多くは国際世論の目の届かないところで進行している。

 

サウジアラビアをはじめとする各国がこうした事業に関心を抱いた理由は昨年の食品価格の急騰という、一時的な要因もあるが、それに加えて人口の増加や水資源の不足などの長期的な要因を憂慮してのことである。

 

世界の耕作可能な土地の9割は既に農業利用されており、未だ開墾されていない場所もその多くはエコシステムに対する影響などの理由からなかなか手のつけにくいところが多い。そこで世界で最後の「手つかず」の地域としてエチオピア、コンゴ、アンゴラなどを含むギニアのサバンナに展開する10万エーカーにものぼる土地に目を付けたのだ。

 

外国の投資家は政府ないしは私企業であるが、多くの場合、農業開発に必要なインフラストラクチャーの建設をそれらの貧しい国々の政府に約束し、新しい技術を持ち込み、雇用を創出し、生産性を向上させると約束している。

 

現実問題としてアフリカの総人口の3分の1はいまでも栄養失調であり、こうした外国からの提案を貧しい国々の政府は渡りに船とばかりに歓迎している。そこでタダ同然の値段で土地の譲渡に応じている。

 

カタール政府が新しい港の建設と引き換えにケニア政府から10万エーカーの土地を購入したことや韓国政府がタンザニアの土地400平方マイルを取得したことなどはニュースになったが、それ以外にも世界の世論が知らないところで無数の同様なディールが結ばれている。

 

過去30年以上にもわたって穀物の生産性は人工の増加を凌駕する形で向上してきた。このため食糧問題は過去のものになったという認識が世界の人々の間に定着した。しかし去年の穀物価格の高騰はそういう先入観を覆すものであり、アルゼンチンやベトナムといった、普通なら食糧輸出国までもが自国の国民を喰わせることが出来るかどうか不安になるような状況だった。

 

スーダンやエチオピアは火山灰に覆われた土地が多いがそれらの場所は土地改良によってお茶、コーヒー、ゴムなどの栽培が出来ると言われている。とりわけエチオピアは世銀によると現在土地の4分の3は開墾されていないが、それらは資本を投下して開墾すれば肥沃な土地になりうるとしている。

 

問題はそういう開発で誰が得をするかだ。外国の投資家たちが取得した土地はエチオピア政府から購入したものだか、もとを正せばそれらの土地はエチオピアが共産化したときに政府が国民から強制的に接収したものであり、現地の農民のものだった。農民たちは今でもそれらは自分の土地であると主張している。

 

共産主義が破綻した後の、現在のエチオピアでも個人の土地所有は基本的には禁止されており、農民は政府から土地利用権を取得して耕作をおこなう。この法律が資本力に勝る外国勢に有利に働いているのだ。

 

問題は不作の年が来て食糧に飢える農民が出てきたとき、外国の投資家は自分が収穫を持ち去る前にアフリカの人々を助けるか?ということだ。

 

(以下略)

  ■ ■

 

現在、上の記事にあるようにアフリカに進出しているのはサウジアラビア、中国、韓国などの国々の投資家です。彼らは土地を取得すると鉄条網を張り巡らし、その中で開墾を進めてゆきます。従って元々その土地に住んでいた住民は自分の土地にアクセスできなくなったりするケースが頻発しています。

 

現在のアフリカへの投資ラッシュは1870年代に始まる列強による植民地獲得競争にかなり似ています。当時、卸売物価指数が急騰しました。これはベッセマー法による製鉄が発明された後、急速な工業化であらゆる工業コモディティーへの需要が激増したことが背景にあります。

 

これを境に欧州の列強の対外政策は大きく転換し、それまでは主に欧州域内で領土争いをしていたのが一転して地下資源を求めて植民地獲得競争に乗り出したのです。
 

アフリカをどう山分けするかの交渉はロンドン、ベルリン、パリなどに集まった代表たちによって行われました。しかし彼らはアフリカ大陸の実情に関しては極めて限られた知識しか持たず、国境線を定める場合も往々にして緯線や経線を基準とした直線の国境線を引きました。こうして定められたアフリカの植民地各国の境界線の実に2分の1は直線ないしは半円形の極めて人工的な国境線だったのです。こうして1876年から1900年までの僅か25年間にアフリカ大陸の79.6%が新たに植民地化されたのです。

 

現在の「農業帝国主義」の主役はアングロ・サクソンではなく新しくリッチになった中国、インド、韓国、サウジアラビアなどの国々です。従って「登場人物」は違うのですが土地をどんどんおさえてゆくスピードは植民地獲得戦争の当時と似ています。

 

最後に付け加えておくと、アフリカ側にも当然、問題があります。アフリカの多くの国には贈賄や横領などがあります。アフリカには「政府の政事は誰の利害でも無い(Government's business is no man's business.)」という態度があり、国の財産を盗むことが重大な罪であるという意識が希薄でした。特にそれが自分の属するコミュニティーや種族の為ならばそうした行為は正当化されるべきだというメンタリティーがはびこっていました。それは何故かといえばそもそも人工的な国境を引いてしまったことが国家意識の欠如につながったからです。

 

インプリシット・ギャランティーはシット(糞)だ

投資の世界にはインプリシット・ギャランティー(implicit guarantee)という言葉があります。

これは「とうぜん、ふくまれているだろう?」という、それとなしに納得してしまった保証のことです。

これを説明する際にしばしば引き合いに出されるのがファニーメイ債です。ファニーメイはもともとアメリカ政府の公社でしたが、民営化されて私企業になりました。だからファニーメイ債を政府が保証するのはおかしいのですが、「持家促進というのは大事な行為だし、もともとはお役所だったんだから、何かあったら当然政府がなんとかするだろう」という先入観が深く投資家に根付いていたわけです。

このような投資家の「思い込み」は去年の金融危機の時のようにそれが試されるときがくるととんでもない結果をもたらす場合があります。

さて、ドバイ・ワールドの債務に関しても:

「えっ?それってドバイ政府が当然ギャランティーするんでしょ?」

とか

「いや、アブダビがリッチだから、彼らが救うべきだ」

など、いろいろな甘い期待が投資家から出されています。
しかし、そういう風にそれとなしに決め付けたのは投資家の方であって、ドバイ・ワールドの側が政府のギャランティーを最初から明示的に謳ったものではないというのが僕の理解です。

アブダビとドバイを「一枚岩」と考えたのも、ドバイ政府が「インプリシットにギャランティーするはずだ」と考えたのも元を正せばそれらの証券に投資した機関投資家の無知と不勉強が原因です。

アブダビやドバイは当然、居直るのが正しいと思います。

「夢を売る男」 ドバイに今必要なのはお金ではなく移民法改革と所有権の確立だ

ハロルド・ロビンズはpulp fiction、つまり粗製乱造の通俗小説作家です。彼の書く本は常に成金とセレブと猟奇的なセックスがてんこ盛りになっています。空港の売店で搭乗前に機内で読み捨てにする雑誌や新聞を買うのと同じ軽い気持ちで買って行かれる駄本、それをベルトコンベヤー式に量産する方法を最初に編み出した男がハロルド・ロビンズなのです。

したがって僕が『The Dream Merchants』(「夢を売る男」)を手にしたのも中東のどこかの空港の売店だったと思います。

猛烈なサンドストーム(砂嵐)に閉じ込められた日、シュワイバの石油精製工場建設現場の仮設宿舎の2畳くらいのスペースで口と鼻をハンカチで押えながら(微粒の砂塵がたてつけの悪い宿舎の中にも吹き込んでくるからです)一気に読み終えてしまった記憶があります。

でも今から思えば、この「お下劣」な本に僕はとても影響されてしまったことは間違いないのです。まずグラマラスなハリウッドの様子が描写されています。妖しいおんなたちも出てきます。ほとばしるような出世欲に駆られた男たちが角逐します。

(なんだい、こんな軽薄な本。)

そう思いながらぐいぐい引き込まれてしまったのです。

(こいつは一回、自分の目で見届けないとだめだな、カリフォルニアという場所を。)

僕の読後感としては、それだけです。
でもこの時に自分の人生のコースは決まったと言っても過言ではないかもしれません。

「夢を売る男」は当時ベストセラーだったので、何かの機会に読んだ人も多いかと思うのですが、とりわけ中東では「これが自分にとって最も大事な本だ」と告白するにんげんには幾度も出くわしました。

砂漠の中に築かれた豪奢を極めた街、それはまさに「夢を売る男」に出てきた光景そのものです。

つまりドバイという街は出世欲やリビドーや一攫千金を狙うものどもの欲望が渦巻いた処であり、究極の資本主義(extreme capitalism)の発露であるわけです。言葉を換えて言えば、いま日本に無いもの、日本人が失ってしまったものがすべてある場所がドバイなのです。

成功したいという執念がある限り、その場所は「おわり」ではありません。

石油が発見されて以来、中東という場所は外国に蹂躙されてきたし、いさかいは絶えなかったし、宗教的価値観とモダンな価値観が常にぶつかり合い、軋轢を生んできました。驚くほど多くの人たちが故郷や国を棄てて「出稼ぎ」せざるを得なかったのです。

ドバイはそういう人たちの自己実現の場であり、代理(surrogate)の故郷なのです。

だから黙っていても人々はドバイに集まって来るし、それは今後もそうでしょう。これはロスアンゼルスやラスベガスがどんどん大きくなったのと同じ理由です。

問題はドバイにやってくる労働者は必ず誰かに雇われていなければならないということです。街に失業者が溢れることを防止し、少数支配をゆるぎないものにするために失業者にはビザを更新しないのです。

このような制度は何もドバイに限ったことではなく、外国からの臨時労働者に依存しているサウジアラビアやクウェートでも同じです。

もともと精油所建設などのシチュエーションを想定して作られたこのルールはドバイの目指す国造りとは大きな齟齬をきたしています。なぜならドバイが作っているのはコンドミニアムなどの住居であり、また投資物件だからです。それらの物件の投資回収期間が10年や20年を想定しているのであれば、「失業したら、一か月以内にとっとと出ていけ!」というような法律があれば怖くてコンドミニアムなどとても買えたものではありません。

ドバイの不動産物件の売れ残り問題を解決する効果てきめんの方法は、従って移民法(immigration law)の改正と所有権(property rights)の確立です。これらを実施すれば、現在、売れ残っている物件は一カ月以内に全て完売まちがいなし。

なぜならドバイは不幸の海に囲まれた土地であり、中東で唯一、希望を体現している街だからです。

建設アレルギー 4兆人民元の景気刺激策とは別の切り口の現状打開策を必要とする中国

ドバイ・ワールドの債務リスケジュールとベトナムのドン危機が我々に残した教訓は:

 

ただ闇雲にコンドミニアムを建設すれば経済は万事OKという考え方には限界がある

 

ということでしょう。

株式市場は一転してOver building(過剰建設)にピリピリしはじめています。中国の場合、アインホーン風に言えば「もうルビコン川を渡ってしまったのかもしれない」ですね。

 

確かに見かけ上、中国の銀行各行の自己資本比率は十分なクッションがあるように見えるし、焦付きも異常な水準ではありません。しかし中国の場合、何を持ってnon-performing(遅延)ローンと呼ぶかの定義は曖昧で、会計基準の援用は杜撰です。

 

もちろん、中国の銀行監督当局はそういう問題を毎日ひしひしと感じています。だからこそ、今、大型増資を銀行各行に強要したり、バランスシートの改善に取り組まない銀行に対しては日常業務を大幅に制限する、決死の覚悟の行政指導を始めているのです。これは英断。手遅れになる前に断固とした措置を繰り出した中国の銀行監督当局はどこかの国のお役所とは違い、高く評価されるべきだと思いました。

 

しかし、建設しまくることで不景気を克服しようとしてきた中国のこれまでのアプローチはここへきて輝きを失い、色褪せた手法のように感じられはじめています。

 

中国の次の一手に期待したいと思います。

ドバイは再起できる

ドバイの政府系不動産持ち株会社、ドバイ・ワールドが債務履行モラトリアムを宣言したことで欧州の金融市場を中心にショックが走っています。

 

ドバイのバブルのクレイジーさを指摘し、それを糾弾することは簡単です。しかしドバイになぜこんなに資金があつまり、世界中から人が集まってきたのかについては通り一遍の理解しかされていないと思います。そこでドバイがなぜ今日のような姿になったのかについて書きます。

 

先ずドバイはアラブ首長国連合(UAE)の「都市国家」のひとつです。UAEは全部で7つの首長国から成り立っています。でもその中で規模が大きいのはドバイとアブダビだけです。

 

昔からドバイとアブダビはお互いに競争心を燃やしあうライバルでした。

 

確か最初に石油が発見されたのはドバイの方が早かったと記憶しています。でもドバイから出る石油や天然ガスは僅かの量で、すぐにアブダビに追い越されてしまいました。現在でもUAEの化石燃料の大半はアブダビから出ます。

 

さて、ドバイは既に1970年代頃から石油の枯渇の運命を悟っていました。そこで商業やサービス業に自らの活路を見出そうとしたのです。幸い、昔からドバイはインドから現在のイラクに至る貿易航路の中継地になっていました。またペルシャ(今のイラン)からも目と鼻の先であり、古くからペルシャ人との交流もありました。このため早くから国際的で異邦人に寛容な土地柄を形成していたのです。

 

ドバイは運送会社や輸入業者の為に無税倉庫を運営し、港湾の役務サービスを充実させアラビア湾における輸入品の集積地を目指しました。

 

また昔、未だ旅客機の航続距離が短かった時代は、所謂、南回り欧州線やアフリカ大陸へ向かう便のレイオーバーの空港としてハブの役目を果たしました。夜中の2時に極東からの便で到着した旅行者が数時間の間、旅の疲れを癒すためにチョッとホテルにチェックインするというような需要も出てきたのです。ドバイの出入国手続きが比較的スムーズなのはこのような歴史的な理由によるところが大きいです。

 

こうして気がついたときにはドバイはサービス立国を目指す国になっていたのです。

 

石油が無くて貧乏になるのが目に見えていたはずのドバイに対してアブダビが敵愾心を燃やしたのは当然です。でもドバイは商売上手だし、垢ぬけているし、国際的になりました。その一方でアブダビは田舎っぺで垢ぬけがせず、愚鈍だと揶揄されたのです。

 

今回、アブダビがドバイを助けなかったのは、だから当然です。

 

でも債務のリスケジュールによって時間さえ稼げれば、アラブ諸国のお金持ちはドバイに投資を再開すると思います。また町の活気も戻って来るでしょう。それはドバイという町がちょうどニューヨークのブロードウェイのステージのように多くの人々にとって活躍の檜舞台だからです。

 

ドバイはもともとベドウィン(遊牧民)などが住んでいた土地ですから、サービス業を営むあらゆるノウハウが最初はありませんでした。そこで航空会社のパイロットや客室乗務員、レストランのコックや通関の事務員、ホテルの従業員などあらゆる面で外国人の労働力に依存せねばなりませんでした。

 

「ひとつ自分で航空会社を興してやろう」と考える野心家の欧米人が航空会社を旗揚げするのもドバイなら、ホテルの支配人になりたいという立身出世の夢を抱いてインド人が渡って来るのもドバイなのです。高学歴の若い女性の働き口が少ないエジプトからは独身の女性が客室乗務員として働きに来ます。このようにインド亜大陸、北アフリカ、欧州などの野心的な若者がキャリア・アップを狙って集まって来る町がドバイなのです。

 

その一方でイランやサウジアラビアの国民もドバイにチョッと息抜きにやってきます。その理由はドバイには自由な空気があり宗教や政治や人種に寛容だからです。スンニ派の人も、シーア派のひとも、ドバイに来たら争いごとは控えます。テロリストもドバイをターゲットにはしません。なぜならドバイはスイスのように中立を守り、誰でもが憩える場所だからです。

 

レバノンやイラクから来たビジネスマンはドバイに高層ビルを建て、投資しました。本当は彼らは自分の出身地であるベイルートやバクダッドの再開発をしたいのです。でも戦争などの理由で自分の国では夢が実現できないのです。「祖国に平和が訪れるまで、とりあえずドバイに投資しよう。そして祖国が平和になったときはドバイで蓄えた富で故郷を再興するのだ」中東の実業家は誰もがこのような考え方をするのです。

 

去年の金融危機以降、原油価格が下落したのでバブルは弾けてしまいました。でも原油価格は70ドル台まで戻してきています。この程度の原油価格が維持できれば、中東産油国が富の再構築をするのは不可能ではありません。実際、さんざん馬鹿にされたドバイの対岸のカタールで建設されたロイヤルダッチ・シェルのGTL施設は大方の懸念や嘲笑に反して、いま巨大なキャッシュフローを生み始めているのです。

 

中東の富はまだまだこれからも積み上がるし、アラビア湾沿岸地方が潤えば中東の人々は必ずドバイに投資します。それはどんなに浮き沈みがあってもパリやロンドンやマンハッタンの不動産には一定の需要があるのと同じ理由です

 

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