Market Hack

いよいよ来た出版界が恐れていた日

アメリカで『7つの習慣』などのベストセラーを出しているビジネス書作家、スティーブン・R・コヴィーが大手出版社サイモン&シュースターを袖にして直接、アマゾン・ドットコムのキンドルと独占的に契約し、新刊を配信するのだそうです。

このニュースは本をつくるさまざまなプロセスに携わる人たちにとってはバビロンの凋落を予言するHandwriting on the wallに相当する、不吉な予兆かも知れません。

もちろん、本の持つ良い点というのも沢山あります。手に持った触感が良いし、充電しなくても、ワイヤレスの接続が無くても読めるという点です。

その反面、本の持つ欠点もあります。

例えば分厚い本だと重すぎるとか、値段が高いとかなどです。

アメリカの場合、本の値段は「時価」なので単純な比較は出来ませんが、新刊書の多くが22ドル程度の価格設定で、それがボーダーズのような大手書店(常にバーゲンセールをやっています)に出たらスルスルと13ドルくらいに値段が下がるというのが普通です。でもeブックの場合、多くは最初から9.99ドルで売りだされます。

出版社と著者がどれだけの割合で売上の分け前を折半するかという基本的なエコノミクスはこれまで余り変化しなかったと思うのですが(僕は詳しくないので、知りません)今後は名前が売れている著者ほど出版社を「素通り」できるので大きな変化が予想されます。

次にデバイスの話ですが、eブックの普及はまだ限定的であり、「心配するに足らない」と考えている業界関係者も多いと思います。でも来年、アップルが『タブレット』を出してきたら、気を付ける必要があります。なぜなら『タブレット』は、そもそもeブック・リーダーとiPhoneの区別そのものを取り払ってしまう可能性があるからです。イメージとしては「キンドルがiPhoneになった」風の使用感だと噂されています。

マーシャル・マクルーハンは「メディアはメッセージである」と言いましたけど、若し『タブレット』による本の「消費」が主流になれば、これまでの出版にまつわるあらゆる手順、すなわちブック・エージェントに原稿を持ち込んで、それが出版社に売り込まれ、編集者が赤を入れて、etc.という古来のプロセスが全部新しいものに取って代わられる可能性が高いです。

つまり本を「製造」し、「販売」する経路やサイクル(時間)が激変するのです。

レコードやCDに起こった事が出版界に起こる、その瞬間がいま、訪れているのです。

あなたも入札できる ゴールドマン・サックスの吸血イカ人形

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FTアルファヴィルは英国の経済紙、フィナンシャル・タイムズのブログです。

FTアルファヴィルは毎年、クリスマスの前になるとチャリティー・オークションを開催します。今年の出展品は記者のひとり、トレーシー・アロウェイの手による(?)Vampire Squid(吸血イカ)人形。

なお「吸血イカ」というのは世界の市民から愛される投資銀行、ゴールドマン・サックスにつけられたあだ名です。

あなたも入札に参加できますよ。

(写真出典:FTアルファビル)

コペンハーゲン国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が難航している

コペンハーゲンで開催されている国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が大荒れになっています。

なるほど会議場の外も世界に報道されているように数千人のデモ隊が行進し、数百人の逮捕者が出る騒ぎになっているのですが、もっと荒れているのは会場の中です。

そこでは中国やアフリカ諸国から成る新興国グループとアメリカや欧州各国から成る先進国グループが真っ向から対立しています。中国はあからさまにアメリカを非難、さらにアフリカの代表は会議の最中に会場を去り、抗議の示威行動に出ました。

中国の代表は「これまで先進国は何十年も温室効果ガスを出してきたのに、新興国が最近になって温室効果ガスを出し始めたからといって責任をわれわれに押し付けるのはおかしい。これは例えて言えば先進国がレストランで食事をしていて、デザートの時間になってやっと新興国の面々が着席したのに、勘定を払う段階になって先進国の面々が割り勘を主張して譲らないのと同じだ。我々は自分たちが食べていないメインコースの分まで払いたくない」とコメントしました。

一方、米国側の主張は「中国はもはや新興国ではない。経済的にも大人なのに未だ新興国の顔をして先進国からの補助金をアテにしている。これはおかしい」というものです。

先進国の多くは去年の金融危機以降、財政的にとても苦しくなっており、新興国へ巨額の補助金を出す立場にありません。一方、新興国は「協定違反だ」と支払うべき金額を支払おうとしない先進国を厳しく批判しています。

この騒然とした雰囲気の中で出席者全員がじんわりとかんじているのは「環境」というだけでどれだけでもホットマネーが集まってきた時代はとっくの昔に終わったという殺伐たる事実なのです。

アブダビが100億ドルをドバイに用立てる 今回の事件でわかったこと

注目されたナキールのイスラム債の償還ですが、土壇場でアブダビが100億ドルを用立てすることで危機回避されることが発表されました。

ドバイ・ワールドはとりあえず貰った100億ドルのうち41億ドルをナキールのイスラム債の支払いにすぐ遣います。

残りは2010年4月までに返済期限が来る、さまざまな債務への準備とします。

結局、最後にアブダビ政府が出てきたことで、多くのナキールのイスラム債への投資家が当初から勝手に決め込んでいた(もしものときは石油リッチなアブダビが尻拭いしてくれるだろう)というシナリオ通りになったわけです。

このような「言外の保証」のことをインプリシット・ギャランティーと呼ぶ事は以前の記事で紹介しました。

このところ世界の投資家はファニーメイに代表されるようにインプリシット・ギャランティーが上手く作動しないケースを経験してきましたが、今回はポジティブな形で驚かされたわけです。

なぜ今回はインプリシット・ギャランティーが実現したのでしょうか?

それはアブダビが実際にお金持ちだからに他なりません。UAEはBPスタティスティカル・レビューによると978億バレルの原油の確認埋蔵量を持っており世界第6位です。また可採年数も89年とクウェートなどと並んで世界最長です。

つまり今回の事件はどちらかといえばリーガル・リスク、ないしはポリティカル・リスクの問題だったと評価できるかも知れません。

そのポリティカル・リスクですが、欧米投資家はナキールからペイオフして貰いさえすれば、後はアブダビとドバイの間でどういう確執があろうがそんなことには興味無いかも知れません。

でもここの部分は僕にとっては興味をそそられる部分です。つまり、今日のドバイのリリースに書かれていない部分でのアブダビ・ドバイ間のバトルというものがあった筈なのです。

今回、もうひとつ我々が学んだことがあります。それは欧米投資家はドバイを「ただホテルやコンドミニアムが無節操に建設された場所」程度にしか認識しておらず、ホテルやコンドミニアムは過剰供給されるわけだから無価値だと言う風に断定している面があることです。

これはアラブの人の考え方とは大きく異なります。

例えばクウェートやサウジアラビアのアラビア海側の工業都市をクルマで走れば鼻を突く原油の臭いに嫌でも気がつくと思います。グーグル・アースでこのへんの地域を拡大すれば、あちこちにドス黒い滲みのような石油まみれの砂漠地帯が延々と続いているのが確認できるはずです。

そこに住んでいる人はこの臭いから逃げる事は出来ません。

つまりそれらの土地は石油の上に「浮かんでいる」のであって、右を見ても、左を見ても石油だらけで、「もううんざり」するくらいなのです。

資源の無い日本のような国に住んでいると石油に対する渇望感は強いですが、サウジやクウェートに行って3カ月もすれば石油の海で溺死する夢を見ます。

逆に渇望感を覚えるのは冷房の利いたショッピングモールであり、プールサイドの良く冷えたカクテル(アルコールの入ったものにありつくことは、サウジでは夢のまた夢です!)であり、カフェやレストランで宗教警察の存在を気にせずに政治論議や異性の話題を楽しんだりする自由、、、そういう、普段、日本人の我々が当たり前に考えている事がとても手に入りにくいのです。

だからアブダビがチャリティー精神からドバイの面倒を見ることにしたという風に解釈しない方が良いと思います。アブダビはドバイの覇権を奪取したくて、「王手をかけている」のです。

原油トレーダーの間で話題になっている新しい造語、BRINK

ワシントンDCベースのオイル・コンサルタント、PFCエナジーのレポートが話題になっています。

そのレポートの中でPFCは「ブラジル、ロシア、イラク、ナイジェリア、カザフスタン(=略してBRINK)の各国では当初世界の投資家が予想していたよりも早いペースで増産が実現しそうな雲行きになっている。これは原油価格にとってネガティブ材料だ」と論じています。

   ■   ■   ■

なるほどブラジルでは確かにリオデジャネイロ沖で巨大な新油田の発見がありました。ただ本格的な増産が出来るのは未だ数年先だと思います。なぜならブラジルは長期的見地から最も効率良く石油を生産するべくリグ、フローティング・ストレージ・ユニット、チュービングなどを全て同一規格にして手順の簡略化、操業ノウハウの再現性の向上を目指しているからです。それらのスタンダード化された大型機器は納品までに長いリードタイムを要します。

ロシアは実績ベースでは近年、最も生産量を伸ばした国のひとつです。ロシア石油関係者の間では生産のピークアウトに対する危機感が強いです。これまでのトラックレコードを見るとロシア人はこと石油の生産に関する限り、「自己査定」の点が辛く、実際ふたをあけてみると良く頑張っているという事が多かった気がします。

イラクは中国やロシアの企業に採掘権を与えています。それらの契約は「汲み上げて、なんぼ」という生産量に対する駄賃を貰う形態になっている関係上、長期的なリザーブ・ライフの最適化などのインセンティブは働きません。つまりすぐにガンガン増産した方が勝ちなのです。だから変化率の点ではこの国がいちばん目覚ましくなる可能性があります。
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