いまアメリカの政界でガイトナー財務長官の人事がしきりと話題にのぼっています。

彼に対する批判はいろいろありますが、要するに議員さんにコテンパンにやり込められてぜんぜん議会をコントロール出来ていないという点に不安を感じる関係者が多いのです。

日本人はアメリカの行方を占う際、議会(law makers)の影響力を軽視する、ないしはぜんぜん知らない人が多いですが、キャピトル・ヒルでのパワー・プレイ(*)を理解出来なければアメリカという国がどっちの方向へ向かおうとしているのかは到底理解不能です。

その点、ガイトナーが財務長官に選ばれたひとつの理由は「彼はゴールドマン・サックスのOBではないから」というものでした。

今から考えると実にどうでもいい理由なのですが、金融危機に揺れた当時にあっては「ウォール街との間に一線を引く」という意味で極めて重要な考慮点であったことは言うまでもありません。

さて、現在の状況を見るとアメリカの資本市場は金融危機の混乱をなんとか抜けだし、表向きには安定化したように見えます。VIX指数が金融危機前の水準に近いところまで下がったことがその何よりの証でしょう。

しかしこのところの政界のトレンドはポピュリスト的な方向へ偏りすぎており、成長の源泉は主に政府によるばらまき政策に依存する、不健全な形になっています。アメリカ政府にだって無限にお金があるわけではないので、このやり方は2年も3年も続けられるものではありません。

すると持続可能な成長戦略(sustainable pro-growth strategies)が必要になってくるのです。問題は議員さんたちには実業の世界に疎いアフォが多いので議員さんが吠えればすぐ縮こまってしまうガイトナー財務長官や「お人よし」のバーナンキFRB議長では「全員が平等に貧しくなる」ような経済政策から大気圏離脱できるだけのパワーに欠ける点です。

そこで今、オバマ大統領が秋波を送っていると言われているのがJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOです。

ニューヨーク・ポスト紙(=日本で言えば「夕刊フジ」みたいなタブロイド→ゴシップの類の地獄耳は有名)によるとジェイミーは(請われれば、立つ)準備がある雰囲気です。

金融危機の際、銀行の幹部がキャピトル・ヒルに呼ばれて、公聴会でぎゅうぎゅうに糾弾されたときも、ジェイミー・ダイモンだけは超然とした態度で議員さんたちを嘲り、ルイ太陽王のようなオーラを出していました。

オバマ大統領の性格からするとこういう利用価値のある奴は唾を付けておくというのが彼の主義ですから、当然、万が一、ポスト・ガイトナー、ポスト・バーナンキというシナリオになった場合でも慌てなくて済むようにジェイミーに「OKサイン」を送っているというわけ。

さて、ジェイミーが財務長官に転身した場合、どのような変化が起こるのでしょうか?

先ずクリス・ドッドやバーニー・フランクといった議会における「金融の専門家」たちはお行儀を良くしてジェイミーの顔色を窺わないといけなくなります。なぜなら彼らは叩けば埃が出る身だし、政治家としてのパワー・ベースをジェイミーによって切り崩されたくないからです。

これまで死んだフリしておとなしくしていたウォール街は太陽王の降臨に力を得て、威勢を取り戻すかも知れません。つまり振り子がメインストリートからウォールストリートに振れ戻しする可能性があるのです。


(*)アイスホッケーでパワープレイと言えば相手の反則退場で自軍の人数が勝る状態のことをさしますが、ここでは政治、外交、ビジネスなどでの戦略的な駆け引きの意味です。