Why Why Why?

11月27日にドバイ・ワールドが債務履行猶予の要請をして以来、ギリシャの債務問題などソブリン・リスクに対する投資家の関心が突然、高まりました。

もちろん、中欧・東欧問題や所謂、PIIGSの問題は以前から指摘されてきたわけですが、ここへきてその緊迫度は高まっています。

なぜなのでしょうか?


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まずドバイとギリシャの類似性について書きます。

ドバイはひとつの首長国ではありますが、同時に他のUAE(アラブ首長国連合)のメンバーのひとりという、アメリカで例えれば「州」のような存在でもあります。

すると「ドバイ政府」と言った場合、州を指すのか、UAEを指すのかがクリアーでない場合が多いのです。

一方、ギリシャはEUのメンバーです。もちろんギリシャはれっきとしたひとつの国家ですが、そのソブリン(国家)負債に関して「だれが面倒を見るのか?」という問題は一定の曖昧さを残しています。

なぜなら「そもそもEUのメンバーになるということはより大きな、EUの信用力を利用できるからだ」という理解が存在するからです。つまりギリシャとEUの間柄もドバイとUAEの間柄とおなじくimplicit guarantee、つまり「それとなくほのめかされた保証」関係にあるということです。

ドバイ問題が起こり、「UAEは保証しないよ」という事がアブダビから発表された瞬間に、そういうimplicit guaranteeの問題が世界のあらゆる地域に関して再点検された、、、その過程で、「まてよ、ドバイが問題になったのなら、ギリシャはもっと怖いぞ」ということに投資家が気が付いたというわけです。

ドバイの問題とギリシャの問題を比較すると僕はギリシャの問題の方が遥かに深刻だと思います。

そう考える第一の理由はドバイの問題は突き詰めて言えば不動産開発のポートフォリオの問題だからです。「パーム」に代表される数々のトロフィー・プロパティーをどういう風に処分してゆくか?基本的にはそういうコーポレート・リストラクチャリングの問題なのです。

これに対してギリシャの場合は何十年にもわたって続いてきた構造的な低成長や不健全な財政体質などが問題の根っこにあり、これはカンタンに解決策の見つからない、いわば絶望的な問題なのです。

ギリシャ問題がクローズアップされた直後にドイツのメルケル首相は「EUはギリシャを救済しない」と発言しました。これはアブダビの「アブダビ政府はドバイ問題に関与しない」という発言に酷似しています。

しかしアブダビとEUでは置かれている立場がぜんぜん違うのです。

先ずアブダビの場合、十分な資産を持っているのでいざ救済するとなるとカンタンに出動できます。

次にアブダビとドバイのせめぎ合いはUAE内部におけるリーダーシップの確執であり、そのパワーゲームの一環として救済劇を捉える必要があると思うのです。早い話がドバイはまな板の上の鯉であり、アブダビがそれをどう料理するか?それだけの話です。

EUとギリシャの関係はそれとはぜんぜん違います。

なぜなら先ずEUがギリシャに救済の手を差し伸べれば、当然、「それじゃスペインはどうなるのだ?イタリアは?ポルトガルは?アイルランドは?、、、」とギリシャと同等に「救済してもらう資格のある」国がぞろぞろ手を挙げる危険性があるわけです。

その全てをEUが救うことは出来ません。

また「救済してしまうと、ヘンなインセンティブを被救済国に与えてしまう」という懸念もあります。つまりPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)の多くは経済を健全にするための構造的な改革に対して手をこまねいています。

「何も努力していないのに、救うのか?」

そういう声があるわけです。

しかしEUを見渡してみると「小さい政府」の側に傾斜している国もあれば、社会主義的な「大きな政府」の公約のもとに政権に就いた政党が切り盛りしている国もあります。つまりEU全体としてそれぞれの政府の期待される役割に対する国民のエクスペクテーションは大きく異なるわけです。

一例を挙げるとギリシャの国民が街頭デモをした場合、彼らがEUに対して抱く不満というものを考えてください。

「EUは我々を見殺しにするのか?」

こういう感情がEUの結束、ないしは団結力にとって良い筈はありません。

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これは昔から何度も指摘していることですが、EUはそのような「寄せ集め軍団」なのです。

国家の期待される役回りとは何か?そこでEUに期待されるものとは?、、、こういう問題提起に対して各国の国民のエクスペクテーションには微妙な温度差があり、その差がいま大きな不協和音となってユーロをゆがめているのです。

これはユーロが誕生したときから運命付けられた、構造的な問題であり、寄せ集めの、便宜的な通貨である以上、どれだけECBの綱領で明快にその目的を謳ったところでカンタンに解決する問題ではありません。

その一例を挙げます。

たとえば来年、スペインの失業率は25%になります。

スペインの大学を卒業する若者は「あと少なくとも3年くらいは職にありつけないことを覚悟すること」というのが進路指導の常識になっています。

あなたが大学生ならどうしますか?

EUの基本的な考え方はお金、財やサービス、労働力の3つの要素に関して、EUという経済圏を作り、その中ではそれらの自由な行き来を確保することで米国などに対抗するスケールを出そうというものです。

だからEUパスポートを持っていれば、EUの中ではどこで求職しても違法ではありません。

これはスペインの職の無い若者が大挙して外国を目指すことになる可能性があることを意味するのです。

するとスペインの問題はいずれフランスなどの雇用にもプレッシャーを与えかねません。

ギリシャ問題は鎮火したとおもっても、草むらの下でメラメラとくすぶる野火のような問題です。2010年はEUのあちこちで火の手があがります。

だからユーロは基本的には安くなる。これが僕の考えです。