ジョージ・ソロスはポンドの急落で大儲けして、「イングランド銀行を破産させた男」というニックネームをつけられました。この事件(金融界では「EMS(ヨーロピアン・マネタリー・システム)危機」と呼ばれています)が起きた当時と現在の欧州の状況には似ている点が極めて多いです。

そこで92年に一体、なにが起こったのかを振り返ってみたいと思います。

【ドル安】
先ず1991年は世界的に景気が悪く米国のFRBは利下げを繰り返しました。このため米国の金利の先安観からドルは相対的に魅力の無い通貨となり、1992年の4月から8月までの間にドイツ・マルクに対して20%も下落しました。ドル安は欧州の「弱い国々」の間で輸出競争力の減退を招きました。

【フィンランド】
フィンランドは当時EMSのメンバーではありませんでしたが、ECU(ヨーロピアン・カレンシー・ユニット=共通通貨の基準となるバスケット)に同国の通貨、マルカをペグしていました。フィンランドはソ連と地理的、歴史的に近いことからソ連の崩壊でフィンランドの輸出は打撃を受けます。そこで91年末にバンク・オブ・フィンランドはマルカを12%デバリュエーションします。

フィンランドのデバリュエーションを契機として、投資家は「イタリアや英国は大丈夫だろうか?」と疑問を持つようになります。

【英国】
英国ではEMSに加盟した当時、英国の景気が良かったので、ポンドが強い時に交換レートが固定されました。その後、英国は米国同様、景気の悪化を経験し、失業率の上昇を招きます。

【オランダ】
1992年6月にオランダが国民投票でEC統合に関する欧州連合条約(マーストリヒト条約)を賛成49.3%対反対50.7%の僅差で否決します。それが「若し欧州が通貨を統合しないのなら、通貨統合に向けた厳格な財政規律や金融政策は維持する意味がない」という認識を生み、イタリア・リラ、英国ポンドなどの「弱い国」の通貨が下落することに賭ける投機を引き起こします。

【フランス】
オランダがマーストリヒト条約を否決した後、フランスでは9月20日に同様の国民投票が計画され、世界の投資家の不安が極点に達します。なぜならフランスはドイツとならんでEUの中核を構成するメンバーであり、そこでの否決はEUの通貨統合を極めて困難にするからです。

【ポンドの急落】
投票を一カ月先に控えた8月26日、ポンドはERM(ヨーロピアン・エクスチェンジレート・メカニズム)の下限まで下がります。そこでEUは緊急会議を開きますがインフレ抑制を最優先するドイツは利下げを拒否、話し合いによるERMのレート変更の道は閉ざされます。

【崩壊】
これを受けて9月8日、フィンランドはマルカのECUへのペグを放棄し、マルカは瞬間的に15%暴落します。イングランド銀行は9月16日にベース・レンディング・レートを10%から12%に引き上げますが、それがポンドを全く支えることが出来ないとわかると英国はEC金融委員会にERM脱退を申し入れます。

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以上が92年の欧州通貨危機のあらましです。

これを見て僕が感じることは先ず出発点として91年の景気後退に際して、米国の対応(テキパキと利下げした)とドイツ(インフレ抑制に拘泥)の対応の差がドル安を招き、それが国際間の輸出競争力の格差となって負のパワーを蓄積した経緯が目を引きます。

今年を振り返ると12月までずっとドル安が続きました。ドル安の背景は92年当時と酷似しています。

次に欧州の中で最も弱い国(当時はフィンランド)で破綻が生じます。これを今年に置き換えるとラトビアやギリシャの置かれている状況がダブります。

三番目に投機筋が問題に対し「覚醒」するイベントが起こります。当時はオランダの国民投票でのマーストリヒト条約反対がその引き金になりました。今回はドバイ・ワールドの債務履行猶予問題がインプリシット・ギャランティー(それとなくほのめかされた、政府による救済)の問題をハイライトし、それが同様のインプリシット・ギャランティー(ギリシャとEUの関係)に対する投資家の不安を煽りました。

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問題は次になにが起こるか?です。
92年の例をみてもわかるように通貨危機というのは先ず一番弱い国で破綻が起きますが、それがそこで止まらず、危機の連鎖がチェイン・リアクションとして次々に伝播してゆくのが普通です。その意味ではアジアの通貨危機、ラテンアメリカの危機も全く同じでした。

すると次に問題が起こる国はラトビアかもしれないし、ギリシャかも知れない、、、それがどこの国で起こるか?という順番は最終的な結末には余り関係ないのです。

僕の考えでは最終的に大問題となるのはスペインです。なぜならスペインはGDP規模がラトビアやギリシャより一回り大きいし、同国の抱えている問題(高失業率、不動産開発に極端に傾斜した経済構造など)は極めて深刻だからです。

2010年を通じて、この問題は世界の金融関係者の最も注目する「眼前に迫った危機」となるでしょう。