FRB(米国連邦準備制度理事会)はone way betを極端に嫌います。

One way betというのは「強気一色」とか「弱気一色」という風に投資家のエクスペクテーション(期待)が極端に偏ることを指します。

もっとくだけた表現に直せば、「楽勝パターン」の状況をつくりあげてしまうことを嫌うのです。

なぜone way betが危ないか?に関してはいろんなシナリオがあるのでそれを全部紹介することは出来ませんが、ひとつだけ、一番危ないパターンを指摘しておきます。それは「FRBが後手後手に回る」シナリオです。

マーケットが「FRBの次の一手」を完全に読んでしまっていて、それを先回りしたポジションを建てる、、、FRBはマーケットに追従するかたちで「おもうツボ」の政策を打ち出してくる、、、するとマーケットはFRBが打ち出した政策を「遅すぎる」とし、「もっともっと」と催促するようになるのです。

中央銀行の手の内がすっかり見透かされてしまうと金利政策のトラクション(手応えがある事)はとたんに失われてしまいます。トラクションが失われると中央銀行は短期金利の上げ下げで市場をdictate(指示出し)することができなくなり、平たく言えば「ハチャメチャ」になるのです。

さて、現在の米国のトレジャリー・イールド・カーブを見ると下のようになっています。
イールド・カーブ
短期(画面の左側)が低く、長期へ行くほど高くなっています。
きれいな「正規のカーブ」が至現していると言えるでしょう。

このカーブには特筆すべき点が2つあるように思います。

①スプレッド(30年債の利回り-短期の利回り)がかなり大きい事
②短期の側の金利が限りなくゼロに近い事

そこで先ず①についてコメントすると、僕がアメリカの銀行なら、イールドカーブがこういう形を至現しているときは余りちからを入れて融資を拡大したり、外国の投資対象を求めて世界を彷徨ったりしないと思います。

そう考える理由は調達金利(=短期、つまり画面の左側)のコストが安いので、どんどん借りて、長期債(=画面の右側)を購入するだけで、ガッポリと金利差が稼げるからです。

つまり銀行の余資運用という業務に限定して言えば、今は「誰でも務まる」極めてカンタンな金利環境なのです。

なお、上で説明したような、「短期で借りて、長期に突っ込む」やり方をキャリー・トレードと言います。

最近の日本の読者は「キャリー・トレード」と言うと必ず外国へお金を持って行かないといけないように誤解していますが、実際には「元祖キャリー・トレード」は自分の国の中だけで行われる、上に述べたような例を指すのであって、異国の通貨を跨いだ国際間のキャリー・トレードは長い間、「亜流」ないしは「邪道」な畸形だと思われてきました。

さて、話を①に戻すと僕は2010年のマーケットは「まるドメ」化のマーケットになるように感じています。

つまりアメリカ人はアメリカ国内での投資機会を探ることを最優先するようになるでしょう。

僕がそう考える理由は、第一番目に上に示したように、「ただ債券抱えてりゃ、それなりに儲かるから、わざわざ外国に行く必要が薄れる」ということです。

第二番目としてイールドカーブがこのように正規のカーブになっているときは自分の経験からして国内(つまりアメリカ株)にワンサカ投資機会があることが多かったように思うからです。

別の言い方をすれば正規のイールド・カーブは景気の順調な拡大を暗示していますから、景気が良い時は企業業績もそれなりの数字が出るということです。

また短期金利と長期金利の金利差(スプレッド)がザックリとメリハリが効いて現れているということはデフレになりそうなカーブでは無いという解釈も出来るでしょう。少なくとも債券市場の参加者は、デフレのシナリオは否定しているように思えます。

それでは現在のイールド・カーブの状況に問題は無いのか?と言えばそれは、あります。

その問題が②です。

②短期の金利が限りなくゼロに近いということはオチャラケな言い方をすれば「FRBの次のアクションは100%確実に読める」ことを意味します。

つまりゼロ金利をマイナスにすることはできないわけですから、方向性として利下げはもう無いわけです。あるとすれば利上げだけです。

もちろん、正確に言えば金利がゼロになっても量的緩和政策などによってもっと金融緩和することは出来ます。でも最近のFOMCのステートメントなどを見ると来年の春までには量的緩和政策はだんだん終焉させる方向が既に打ち出されています。

またイールド・カーブ的に見ても、なるべく早く量的緩和政策は手仕舞うべきカーブのかたちをしていると僕は思います。

そこでFRBが3月頃に量的緩和政策に区切りをつけた際、ジレンマが出てくる可能性があるわけです。

それはつまり金融政策が「臨時措置」から「平常」の、FFレートだけに頼る手法に戻った瞬間、one way betの状態が起きてしまうというリスクです。つまり「FFレートは上がるしかない」という認識です。

その場合はFRBが後手後手にまわりやすいと思います。なぜなら現在すでにスプレッドは上にのべたように極めてhealthy、つまりオイシイ状態になっているからです。

実際、僕は現在の時点ですでに(FRBは遅きに失したかなぁ?)という漠然とした不安を抱いています。One way betにならないための金利としてはスプレッドから考えてFFレートで最低でも1.25%くらいは欲しいと思うからです。

現在の市場のコンセンサスでは「2010年の上半期はFRBは利上げしない」という意見が多いです。(唯一それに異論を唱えているのは僕の師匠のひとり、アライアンス・バーンスタインのジョー・カールソンだけです。かれはもっと早いタイミングで利上げが始まると見ています。)

若し2010年の6月までは利上げをせず、年後半から利上げするというのなら、FFレートで1.25%くらいの水準に到達するためにはかなりパンクチュアルに利上げしてゆく必要があります。これは「見え透いている」ので少し危ないかな?なんて感じるわけです。

でもこのへんの匙加減はベン・バーナンキ議長は研究し尽くしているはずです。

すると少々穿った見方になるかも知れませんが、「われわれ一般の投資家に未だ見えていなくて、バーナンキ議長には見えているものがあるのではないか?」ということを心配する必要があるのかも知れません。

で、ここからは荒唐無稽な僕の妄想なのですが、(バーナンキ議長は欧州を見ている筈だ)という気がしてならないのです。

僕がそう考える理由はバーナンキが大恐慌時代の世界経済の研究の権威だからです。

大恐慌時代の反省として、不況対策の「初動」もとても重要でしたが、それに輪をかけて重要だったのは、「早く動いた国(日本など)とモタモタした国(当時は米国)の金利政策のシンメトリーが失われた時、モタモタした国にリスクが集中した」ということでした。

翻って2010年を考えた時、当時と現在とでは主役の役回りがところを替えています。

つまり今回はアメリカの「初動」は極めて早かったのです。これと対照的に欧州は動きが鈍く、また不況対策も徹底していませんでした。

これは欧州の中で最も優等生のドイツやフランスの経済指標をベースにEUの金利政策が決められてきたことが影響しています。

また、サブプライム危機に入ってゆく過程での議長国がドイツだったこともストイックな処方に終始した原因のひとつだったかも知れません。

しかしそのような「中途半端な」不況対策の影響で、現在のEUでは「勝ち組」と「負け組」の経済格差が危険なほど広がってしまっています。

その環境で若しドイツなどからのプレッシャーで欧州の金利が上がり始めたら、スペインは壊滅的な打撃を受けるでしょう。(スペインの不動産は大半が変動金利)