米国の金融関係者はFRBの仕事をしばしばストリッパーに喩えます。

ストリッパーは結局のところ裸になるだけだから、ステージの上で起こる事というのは退屈なほど「お定まりのコース」です。

でもその決まり切ったルーチンをなんの工夫も無く、惰性でやっていたら、観客はすぐにソッポを向くのです。

元ストリッパー出身の脚本家、ディアブロ・コーディーはNPRのインタビューでストリッパーという仕事について次のように語っていました。

ディアブロ:「ストリッパーの仕事って、日によっては完璧にお客さんを自分の思うままに支配することが出来る夜もある。そういう日は自分がパワフルで美しいと感じるわ。でも逆にお客が乗ってこない、まるっきりシカトされる夜もあるの。そういう日は屈辱的だし、みじめ。自分はまったく無力なんだって、そう感じるの。」

FRBは限られた政策ツールで市中の金利を操作し、時には景気を煽ったり、また場合によっては冷やしたりしないといけません。

下は財務省証券の利回り曲線(トレジャリー・イールドカーブ)のグラフです。

イールドカーブ


ここで重要なのは基本的にFRBが働きかけられるのは短期市場(=それをイールドカーブのショートエンド、つまり上の図の左端)だけだということです。

(ここでは量的緩和政策などの臨時措置を除外して議論します。)

すると金利を変更しショートエンドを操作することでロング・エンド(グラフの右側)の金利も自由自在に操れないといけないのです。

そういう風に市場を自由自在に操れる事を「トラクションがある」と表現します。

今回の場合、既にFFレートは限りなくゼロに近いので、FRBが出来る事というのは金利を上げることだけです。

所詮、結論は決まっているという意味でFRBは手の内を読まれているし、サプライズを創り出しにくいのです。そういう投資家サイドにとって「楽勝でFRBの考えている事が読める」状況というのは上のストリップの例でいえば、「客にまるっきりシカトされる夜」に相当します。これはFRBが最も嫌がることです

僕はかねてから「FRBは皆が考えているより早い時期に動き始める」と主張してきましたけど、そう考えた理由はそれだけがFRBが市場に対して誰がボスであるか知らしめる方法だからなのです。

なお、今回引き上げたのはFFレートではなく、公定歩合です。

公定歩合はFRBのディスカウント・ウインドウ(窓口)での直接の貸付です。アメリカの金融機関はディスカウント・ウインドウを余り利用したがりません。

なぜならディスカウント・ウインドウは他の資金調達方法が行き詰った人だけが利用する存在で、ちょうど「質屋」に入るところを他の人に見られたくないのと同じような恥ずかしさ、うしろめたさを感じるお金の借り方だからです。実際、ディスカウント・ウインドウは余り利用されていないと察します。

でもリーマン・ショックのときに銀行間の貸し付けが凍りついたときがありました。

その際、FRBはディスカウント・ウインドウでの貸付レートをFFレートと極めて近くする(一昨日までの金利差は0.25%)ことで「質屋」に駆け込みやすくしました。

別の言い方をすれば、普段は1%近い金利差があるFFレートと公定歩合の差が、0.25%しか無かったと言う事自体、きのうまでの状況が「異常事態」だったことを示唆しているのです。

だから昨日の公定歩合引き上げは「もはや戦後ではない」という宣言に似ているのです。もう一段と踏み込んだ説明をすれば、FRBの考えていることを市場にシグナルすると言う意味でのアナウンスメント効果は絶大でしたが、実際面でこれで金詰りになるとか、そういう心配はほぼ無いのです。

結論的には昨日のFRBの動きは踊り子がガーターベルトをチラッと見せた程度なのです。ずいぶんと慌てた投資家が多かったようだけど、この程度で失神しているようではまだまだウブすぎ。