「それにしても解せないよねぇ、日本の金融機関は。なんであんな魅力の無い投資対象を買い続けるんだい?」

米国のヘッジファンド仲間で集まると、すぐJGB(日本国債の略称)の話になります。

(またこの話か、、、)

たまたま僕が日本人だから、話の肴にされてしまうのです。毎回、こうやって日本国債バブルの件に話を振って来られると、いい加減、辟易するし、チョッとブルーな気分になります。

ジョン:「理詰めで考えればだな、、、日本国債はリスクに見合った分だけのリターンを貰えない証券だ。」

ここで言うリスクに見合うだけのリターンとは、利回りと言い直しても良いでしょう。

僕:「うん、でもそもそもそういう分析から資産配分を考えてはいないと思うんだ。」

マーク:「馬鹿言っちゃいけない!リスク・リターンのソロバン以外に、どんな計算があると言うんだい!」


僕:「それは、、、、(モゴモゴ口ごもりながら)、、、つまりその、ファンドマネージャー個人としての利害ってとこかな?」

全員:(?)

僕:「わかるだろ?運用主体として正しい判断を貫くということと、そこで働くファンドマネージャー個人の利害を最適化するということは、本来、別問題なんだ。」

マーク「お前の言っていることは、英語になってないぞ!(What a hell are you talking about?)」

僕:「ねえ、こんな話、もう止めない?」

全員:「いや、続けろ!(We have got to hear this!)」

僕:「つまり日本のファンドマネージャーは、良いパフォーマンスを出したところで、それが自分の給料に跳ね返って来る割合は凄く低いのさ。」

僕:「仕事をしていても、していなくても、兎に角、目立たず、無難にこなしていればそれで首になることはない。」

ジョン:「信じられない!」

僕:「たとえば日本の生命保険の会社が保険の不払いで社会から糾弾された事が昔あった。そのとき、生命保険会社は社員総出で過去の不払いの状態の洗い出しの作業をやったのさ。当然、第一線で運用をしているファンドマネージャーもそのペーパーワークに駆り出された。」

全員:「そんなバカな!だってファンドマネージャーは事務方ではないんだろう?」

僕:「いや、正確にはそういう区分はできにくいと思う。なるほど運用部門の分離、専門家の育成というのは進めているけれど、基本的に日本人のサラリーマンは人事異動で何処へでも飛ばされる文化というのは変わっていない。だからファンドマネージャーだろうが、保険不払いのデータを調べてくれと言われれば、NOとは言えない弱い立場だ。」

マーク:「、、、、(しばし絶句)、、、、だ、だけどその間、肝心のポートフォリオはどうなるんだい?」

僕:「それが、、、、問題は起きないんだ、実は。」

全員:「なにぃ?!“#$%」

僕:「つまりその、日本の運用業界における、良いポートフォリオというのは可もなく不可もなくというポートなのさ。」

ジョン:「わかった、つまりクロゼット・インデクサーということだろう?」

僕:「まあ、早い話がそういうことだ。だからポートフォリオの中身はほぼ全部、デッド・ウエイト(=重し)ばかりだ。だからファンドマネージャーが1ヶ月や2ヶ月席を外したところで、問題はおきない。」

マーク:「だけどより良いパフォーマンスを目指して、チョッと違うアプローチを試みる会社とかが、普通なら出そうだけどな。」

僕:「うん、でも日本の場合、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの組織の中の影響力のある人がモデル・ポートフォリオを示したら、業界中がそれを克明に研究し、それを模倣するポートフォリオを作り上げるのさ。だからジョンが言った、リスクに見合ったリターンを日本国債が提供していないというような考察は、そもそもファンドマネージャーの判断することではないんだ。」

ジョン:「ちょっと待て、だけどそれじゃ年金コンサルタントとかが黙ってないだろう?」

僕:「それが、、、、だ。コンサルも腐りきっている。」

マーク:「どういう意味だ?」

僕:「コンサルは上っ面の評価基準でだけしか運用主体の評価を出せていないんだ。」

僕:「例えば、こういう事があった。1990年代の半ばに、僕はシリコンバレーのブティック証券に移籍したんだ。その証券会社は日本の年金を運用している金融機関のブローカー・リストの番外に漏れていたんだ。そこで一案を計じて年金コンサルタントに入れ知恵をしたのさ。アクティブ運用を標榜している運用体が実際に会社訪問などの企業調査をせず、アクティブ運用だと名乗っているのは、おかしいとね。年金コンサルタントはすぐにその評価基準を採用して、一年に何社会社訪問したかを評価の基準に採用した。その後の数年、僕は少なくとも日本の生命保険会社のアメリカの会社訪問の50%を斡旋したと思う。」

ジョン:「つまり評価基準に対して上手く立ちまわる(gaming the system)ことが、高い評価につながるということだね。」

僕:「そうなんだ。その証拠にアメリカでは90年代の終わりにReg.FD(=公正なディスクロージャーを期すために、個別企業訪問などで新しい経営情報を投資家に出してはいけない法律)が定められて、会社訪問の意義が完全に失われたことは、みんなも知っているよね? でも日本の運用主体は新しい発見が無いことを知りながら、無駄な出張費を遣って海外企業の訪問を続けているのさ。なぜなら、それがコンサルの評価シートの項目に未だのこっているからだ。」

ジョン:「無意味だ、そんな事!」

マーク:「いやあ、今日はどんなに深く日本の運用業界が病んでいるか、よくわかったよ。」

僕:(ためいき)