ウォール・ストリート・ジャーナルの伝えるところでは4月3日のiPadの発売日に向けiPad版デジタル雑誌の広告スペースの奪い合いが起こっているようです。

その記事によると『タイム』誌のiPad版創刊1号から8号までの広告スペースはひとつのアド・スペース当たり何と20万ドル(1840万円)の値段がついているらしいです。

これはひとえにiPadというメディアの持つ美しいカラー・グラフィックスやデバイスの高級な質感などが広告主の心を捉えているからに他なりません。

今でこそ広告と言えば皆、グーグルを連想しますが、なにも検索広告やアドセンスだけが広告ではないのです。

化粧品、ファッション、自動車、インテリア、旅行などの業界にとって企業のブランド作り、イメージ作りは極めて重要です。

そこでは「pull型」の広告だけではなく、やはりどうしても「push型」のキャンペーンが必要になります。


グーグル以降のインターネットを通じた広告は「pull型」広告、つまり検索などによって顧客の方から来るタイプの広告(=これをアメリカのマーケティングの教祖、セス・ゴーディンはpermission marketingと呼んでいます)だけは素晴らしく開花しました。

その一方で「push型」の広告は「ウザい」、「余りにWeb1.0的でダサい」と消費者からdisられ、ずっと低迷してきました。

これはどうしてかといえばノートパソコンなどのキーボードのあるPCは基本的にはプロダクティビティ・ツール(生産性を上げるための道具)であり、エンターテイメント・デバイス(ゆっくり余暇をエンジョイするためのデバイス)ではなかったので、仕事をしようとする人の眼前に目ざわりな広告が飛び出してきても邪魔なだけで、かえって逆効果だったからです。

さて、iPadをスティーブ・ジョブスがお披露目したとき、ヤーバ・ブエナ・センターのシアターのステージにソファが持ち込まれ、スティーブはそのソファにゆったりと腰かけながらお得意のプレゼンをしました。

スティーブはものすごく周到にプレゼンを準備、予行演習する人なので、ソファが持ち込まれたのは単なる気まぐれや舞台の「小道具」では断じてありません。そこに強烈なメッセージが込められているのです。そのメッセージとは、「iPadは仕事をするためのツールではないから、このゴージャスなデバイスの持ち味をゆっくり楽しんでくれ」という事なのです。

このプレゼンテーションをみたアメリカの広告業者は稲妻に打たれたような衝撃を受けました。なぜならiPadの登場は昔ながらのPrint Ad(印刷広告)のルネッサンスを意味するからです。

例えば『ヴォーグ』というファッション雑誌があります。

『ヴォーグ』をパラパラとめくると広告だらけだということに気づきます。いや、むしろ広告こそが雑誌の主役であり、エディトリアル(=文章)は申し訳程度にしかついていないわけです。その代わり、ひとつひとつの広告は意匠を凝らした「作品」のように美しいです。

これまでのPCやスマートフォンやゲーム端末では、こういうゴージャスなグラフィックスによる訴求にはぜんぜん不向きだったのです。

もちろんiPadというカテゴリーはいままでにない、新しい分野なので今後も試行錯誤が続くと思います。『ヴォーグ』のような写真だけではなく、動画やインタラクティブな広告も今後はどんどん出てくるでしょう。