米国証券取引委員会(SEC)対ゴールドマン・サックスの全面戦争は下手な映画よりオモシロイです。

先ずSECですが、一昨年のバーニー・メードフの「ねずみ講」事件では何度もタレコミがありながらしっかりと調査せず、「ウスノロ!」とか「怠慢!」という罵声を浴びまくりました。

そこでメアリー・シャピロSEC長官は「泥棒をつかまえるには、泥棒を使え!」というフランクリン・D・ルーズベルト大統領の名言(*)に従い、CDOのメジャー・プレーヤーの一社であるドイチェバンクの北米最高法律顧問(ゼネラル・カウンセル)を務め、ウォール街の内情に詳しいロバード・クサミをスカウトします。

クサミは1993年のワールド・トレード・センターの地下の爆破事件の裁判で検事を務めた人でもあります。

クサミはゴールドマンが組成したアバカス(=日本語では「ソロバン」)という名前のCDOの組成の仕方に関心を持ちました。

このCDOのアイデアはヘッジファンド、ポールセン&カンパニー(前財務長官ハンク・ポールセンとは無関係)からゴールドマンに持ち込まれたアイデアです。

ポールセン&カンパニーは米国の住宅抵当証券が崩れるというシナリオを立て、今、市中に出回っている住宅抵当証券の中でもとりわけデフォルトする可能性が高いと思われるゴミ証券ばかりを選びぬいて「これをパッケージングして投資家に販売するとおもしろいぜ。俺はこれらのゴミ証券は紙くずになると思うので、ショート(売り方)に回るけどね」とゴールドマンに持ちかけました。


ゴールドマンの担当者は「華麗なるFab様」です。彼はこのゴミ証券の「腸詰」が販売した先からボロボロになることを知りながら、いや、むしろそれを得意気に自慢しながら顧客に販売して回ったのです。その際、あたかも独立公平な第三者が「腸詰」の中身を選んだように見せかけるため、ACAという評価会社に証券のお墨付きをさせています。

クサミの主張は「或る証券をカラ売り(ショート)するのは別に違法ではないけど、自分がショートする証券をつくるためにわざわざゴミ証券ばかりをかきあつめて、それを投資家にそうとは知らせず販売して回るのは違法だ」というものです。

僕がここで大事だと思う点は今回ゴールドマンを起訴した男がウォール街のインサイダーであり、ゴールドマンのライバルのドイチェバンクの法務エキスパートだという点です。ドイチェバンクに勤めていたときは言わば「ソーセージ工場の衛生検査官」をつとめていたわけですから、どんな得体の知れないキワモノがどういう具合に混ぜこぜにされてきたか、その過程を良く知っていると思うのです。

さて、今日の腸詰の製造過程の話とは直接関係ないけれど、最近、僕が感じるのはゴールドマンの取締役会の貧弱さです。今回のウエルズ・ノティスのディスクロを怠った件などは、会社が会社ならCEOのクビが飛ぶ問題です。証券会社のくせにウエルズ・ノティスを受けたことすら公表しないというのは今回のCDO組成の際にポールセン&カンパニーの立場を公表しなかったと同様、ゴールドマンという会社のビジネスの進め方、メンタリティというものをよくあらわしています。

以前、ゴールドマンのCEO、ロイド・ブランクフェインは「われわれは神の仕事(god’s work)をしている」と豪語してそのKYさにさすがのウォール街もあいた口が塞がらない状態になりましたが、ここ数日のニュースを見ているとゴールドマンという会社のガバナンスは相当、たがが緩んでいる気がしてなりません。

(*)=フランクリン・D・ルーズベルト大統領は1929年の大暴落の経験から1934年証券法など一連の証券改革をしました。その際、仕手筋のひとりだったジョセフ・P・ケネディー(JFケネディーの父)を初代SEC長官に抜擢します。これはそのときの有名なセリフ。