あと11日で英国の総選挙です。

各有権者投票意向調査機関のアンケート結果を見る限りでは選挙戦は混沌としています。

もし皆さんが(この選挙が相場の材料として取り沙汰されるのは5月6日の本選挙まで)という風に考えているのなら、それは間違いです。

むしろ5月6日の総選挙は新しい時代の始まりなのです。

そこでは英国議会政治が危機に次ぐ危機を経験し、言わば映画、「インディアナ・ジョーンズ」のようなスリルとリスクに満ちた状態が日常化するでしょう。

今日はそれを説明します。

まず第二次世界大戦前まで遡った、英国の主要政党の議席数のグラフをご覧にいれます。
三大政党


青が保守党(トーリー党)、赤が労働党(レーバー党)、緑が自民党(LDP)です。黄色の破線は単純過半数の議席数です。

矢印で示しておきましたが、イギリスの議会政治において与党が過半数に達しなかった(これを「宙吊り議会(Hung Parliament)と言います」のは1974年の1回だけです。

それから黄色の円でハイライトしておきましたが、自民党の人気の上昇は(もちろん、ニック・クレッグ・マニアと呼ばれる、TV討論会以降の人気沸騰も無視できませんが)別に最近始まった事ではなく、何年もかけて静かに勢いを増したモメンタムであることに注目して下さい。

つまり今回の「宙吊り議会」は1974年のように統計的なまぐれでそうなったのではなく、恒常的で長期化する可能性があるのです。

アメリカでは民主党と共和党の力が大体、拮抗している状態がノーマルであって、(ものごとがきまらないことに対する国民の不満が募っているとはいえ)そのようなせめぎあい自体には免疫が出来ています。

しかしイギリスの国民や市場参加者はそういう状態に慣れていないということを先ず指摘したいと思います。

「宙吊り議会」になるとどの政党も過半数を支配しないので物事が決まりにくくなります。

その状態での第一党(現時点では第一党は保守党になるかもしれないし、労働党になる可能性もあります)が連立政権を求めず、単独で(これを政治のテクニカルな用語で言えばas a minorityとなります)議会を治めると決断した場合(=この可能性が一番大きいです)、法案が次々に却下されるリスクを負います。

これが重なると野党から不信任を突きつけられ、場合によっては総選挙のやり直しというシナリオもあります。

その場合、労働党はもう選挙活動資金を使い果たしています。また保守党も巨額の活動資金を費やしたのでヘトヘト状態です。

これを防ぐには過半数は取れなかったけど、なんとか議席数で第一党の座についた政党が自民党と組むことで連立政権を打ち立てるというシナリオがあります。

しかしこれには保守党の立場からも労働党の立場からも大きなリスクがあります。

それを説明するには英国の選挙システムを説明する必要があります。

主要6社の有権者投票意向調査会社の総計ではごらんのように黄色の自民党が得票数では30%の第二位を獲得すると予想されています。
opinion_poll

しかしその得票数がどう議席に反映されるかの予想(ここではベットフェアの数字を使います)自民党の議席数は80議席と、他の2つの政党から大きく引き離されてしまうという予想なのです。
Seat_Betfair

なぜここまで差が出るのでしょうか?

それは英国が小選挙区制を取っており、構造的に保守党と労働党が政権の座に居座りやすいシステムになっているからです。

実は最初のグラフで今まで英国の議会政治では「宙吊り議会」の状態が稀だったと説明しましたけど、その原因はこの古色蒼然たるシステムが少なからず関係しているのです。

自民党は「どちらの政権と連立政権を組むにせよ、比例代表制を今後の政治の優先課題として主張する」という態度を明らかにしています。(それは冷や飯を喰わされている自民党の立場からすれば、当然の主張ですよね?)

するとものごとが決まりやすいようにという配慮から第一党が自民党を連立政権に招き入れたとたんに、比例代表制の議論が高まり、「軒先を貸して母屋を取られる」ことに発展しかねません。

さらに自民党はEUへの積極的な参加を唱えている唯一の党であり、これはギリシャ問題などが喧伝される昨今、極めて対立を招きやすい争点です。

また自民党は巨大銀行の分割を唱えています。この点でもシティ(ロンドンの金融街)は自民党が連立政権に加わることに不安を覚えるでしょう。

当初の市場参加者のシナリオとしては歴史的に財政面で保守的とされてきた保守党が楽勝で総選挙に勝ち、過半数をおさえ、現実的かつ実施可能な臨時予算を早急に提出することで雪だるまと化した英国の財政赤字と膨張したイングランド銀行のバランスシートの問題に取り組んでゆくというものでした。

しかしこれまでの選挙戦の展開を見ていると、どうやらそういうシナリオは楽観的過ぎるようです。

むしろ長年くすぶっていた小選挙区制問題、ユーロへの参加の問題、シティの暴走をおさえる問題などが次々に噴出するリスクの方が高まりつつあるのです。