ゲストブロガー:有馬めぐむ

arima日本で経済新聞社、出版社にて編集者、記者を経験後、2000年からフリーに。05年より海外取材や翻訳にも従事。国際会議の仕事で訪れたギリシャの魅力にとりつかれ、アテネに定住。西欧文化のゆりかごと呼ばれるギリシャから今日のアテネ、ギリシャ人の国民性、財政危機問題などを新聞、雑誌、ウェブサイト、ラジオ、テレビなど様々なメディアから発信中。「地球の歩き方 ギリシア/アテネ特派員ブログ」は週1回更新。

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ギリシャの人々に何がおこったか?

5月5日のゼネストでギリシャの首都、アテネが炎上、銀行員3人死亡というニュースは世界を駆け巡った。その後、日本のメディアからの注目も一気に加速、ここ数週間で本当に数え切れないほどの電話取材や執筆依頼を受けた。しかしその中で驚いたのが、ギリシャ問題に対する数々の誤解…。

「ギリシャの人々はシエスタをしたりして、あまり働かないのでこうなったんでしょうか?」「働く気がないからストやデモをしているのですか?」などという質問を投げかけてくる人もいて、失笑してしまう。確かに日本人の働き方と比べたら、ギリシャのテンポは超スローでカルチャーショックを感じることも多い。しかし欧州に数多くいるジャーナリスト仲間と話していると同じような話ばかりなので、特にギリシャに限ったことではないようだ。

大都市アテネのホワイトカラーでシエスタをしている人など存在しない。昼食だって手早くサンドイッチなどを15分くらいで食べるだけ。しっかり1時間、昼休みをとる企業はなく、公務員は別として、民間会社の人々はあくせくと働いている。ドイツをギリシャを「アリとキリギリス」に例えたメディアもあったが、あの東西ドイツ統一の経済混乱の際、ギリシャはドイツに経済支援もした。それらを念頭に入れれば、ただギリシャをキリギリス扱いするのはあまりにも単純だ。

実際、IMFの統計では、2000年頃から今までに至るまで、ギリシャのGDP成長率はドイツのそれよりずっと伸びを見せていた。だから突然の財政破綻発言は国民にとっても寝耳に水の出来事だった。莫大な政治資金が忽然と消えたのは、現首相のパパンドレウ家、前首相のカラマンリス家に代表される世襲制の特権階級的政治が繰り広げられ、ドイツのシーメンス社事件など、閣僚の汚職が星の数ほどあったからだ。日本の“消えた年金”ではないが、責任の所在はうやむや、名前のあがっている政治家は辞職もせずに国会に居座り続けている。これらのツケを払わされるのはごめんだと国民が猛反発するのは当たり前だ。

緊縮策で、月収3000ユーロ以上の公務員は賞与2ヶ月分がゼロに。3000ユーロ以下は1000ユーロのみの支給。例えば夫婦ともに公務員の家庭で、2人の月収合計が4000ユーロならば、賞与8000ユーロが2000ユーロのみになるわけだから、大打撃。住宅ローンが払えない、子どもを私学から公立に転校させざるを得ないなど、深刻な問題を引き起こしている。IMFが乗り出したからには民間でも給与カットがおこるのではと不安が広がっている。ガソリンの税率は23%に。輸送費などにコストがかかり、肉屋からスーパーにいたるまで、物価高。二重苦のスタグフレーションがおきている。小売店は続々と店じまいをしていく。


ギリシャの犠牲で道が開かれた

いくら公務員が多いから、ギリシャの政治家がひどい汚職をしていたからといって、一国の経済が突然、破綻するというのは、いささか不自然だ。ここには長年にわたるユーロという共同体としての問題が潜んでいる。

今回のEUとドイツのあまりにも遅い決断。ギリシャから火がついた財政危機で、最初の欧州中銀(ECB)の消極発言も驚きだったが、財政的に機動的に対応できず、EUのシステムの脆弱性が露呈した。経済危機はPIIGSの他の国に飛び火。他のEU加盟国が全てギリシャ支援賛意を示す中、ドイツだけがイエスと言わないことで、ギリシャ国債の暴落がとまらず、政府は支援要請へと追い込まれた。

「EUが、ドイツが、早い段階で決断していれば」との恨み節は毎日、ニュースで流れた。やっとのことで巨額支援は決まったが、ここまできてついにECBが危機に面した国の国債を買い取るなどの「最終兵器」発動の決定。「所詮ギリシャはEU全体のGDP比から見れば小規模な国。経済規模の大きい国で破綻が起こる前に、実経済での立て直し実験に利用されたのでは?」、「ギリシャの犠牲で道が開かれた。最初からこの措置がとられていれば」と嘆く声は大きい。


ユーロ共同体のトリック

ドイツはギリシャ国債を多く保有している。それならなぜメルケル首相はなぜのらりくらりとギリシャ支援を渋り、ユーロの下落を“待って”いたのか。それはEUの共同体としてのからくりにある。「ドイツは劣等生のギリシャの面倒を見なくてはいけないから気の毒だ」などと思っている人がいるようだが、これは全く逆である。強い通貨と弱い通貨の国が一緒になった時、どういうことが起こるか考えてみれば明白だろう。米ドルとの関係性でも優等生のドイツが引き締め金利政策を採れば、EUメンバーの国もそれに習えをしなくてはいけない。結果、強いドイツ以外の国はどっと不景気になってしまうのだ。もちろんこれは当初から予想されたため、安定を図る取り決めもあったのだが、今となってはすっかりなし崩しだ。

ユーロが導入されて、ギリシャや他の南欧の国々ではメルセデス、BMWなどの車が買いやすくなった。家電製品だって、シーメンス、ミレ、ボッシュなど大半がドイツ製。南欧の国々はドイツにとって最高の顧客となった。

今回のギリシャ危機でのユーロ下落は、産業国のドイツにとっては、大歓迎すべきこと。ギリシャ国債を見捨てても国益への見返りは十分にある。ドイツ企業に勤めていれば、日本人だってそんなことは百も承知。日本国内のメディアに話をする際と、欧州在留邦人ビジネスマンのための経済誌などに寄稿する際、担当者からして温度差があるのはそのためだ。欧州在住でそのからくりをわかっていないビジネスマンなどいないだろう。

しかしメルケルはやりすぎてしまった。何もわからずギリシャ支援反対をを叫ぶ国民の叫びを利用しつつ、国益も過剰に得ようとした。二兎を追うものは一兎をも得ず。州選挙の結果は如実だった。

一方ギリシャは観光国。眩い太陽と青く澄んだ海には多くの観光客が訪れる。しかしユーロ導入で一気にインフレが起こり、「同じ地中海リゾートならトルコが安い」と観光客の大半は持っていかれてしまった。また欧州中の人々がバカンスに押し寄せるギリシャの地価は跳ね上がった。アテネ近郊の高級リゾート地ヴーリャグメニは現在ヨーロッパでも1,2を争う地価の高い地域となった。景勝地の別荘を買いあさったのは大半がドイツ人だと言われている。以前、ギリシャ人の別荘所有率はミドルクラスでもかなり高かったが、通貨統合後、ギリシャ人が別荘を購入することはほぼ不可能となった。


なぜギリシャはユーロのメンバーに?

ではなぜギリシャはユーロのメンバーになりたかったのか?そこには対トルコに根ざす深刻な問題が横たわっている。ギリシャはオスマン・トルコに約400年間占領されていた。過酷な占領時代には人口の約4分の1が虐殺された。壮絶な独立戦争の後、独立を果たしてからも軍事的ないざこざは耐えない。ギリシャにはEUの傘下での保護が必要不可欠だった。トルコは軍事国家の側面が強く、領空侵犯は日常茶飯事。戦闘機のスクランブルだけでも莫大な費用がかかる。海洋権益の問題も揉めている。実にギリシャは1年に40億ユーロも防衛費につぎ込んでいるのだ。全体の予算に対する防衛費の割合は巨大すぎて、小国でこんな軍事費を割いている国は欧州で他に存在しない。移民対策もそうだ。欧州の玄関口となるギリシャには毎日大量にアフリカ、アジアからの不法移民が船で押し寄せる。2500もある島々の海岸線をヘリで見回るのは、穴の開いた財布を持たせられているようなもの。「手分けしてほしいなら、EUには加盟してね」と言われてしまった。またこの戦闘機、潜水艦、ヘリなどの大半はドイツから購入しているのである。ここ数年で購入した潜水艦だけでも60億ユーロ!実にギリシャはドイツの最大のクライアントなのだ。


食い物にされ続けるギリシャ

今日のギリシャのある大手新聞の記事。「ジョージ・ソロスとその仲間たちは数年前からギリシャに目をつけていた。やせ細った七面鳥をもっと太らせよう。ギリシャ政府にゴールドマン・サックスが接触。皆でギリシャの国家資金を汲み出した。さあ太りに太った七面鳥(ギリシャの財政赤字)、今が食べごろ!ことし2月、ニューヨークではジョージ・ソロスとその仲間たちが、美味しい七面鳥を目の前に、パーティの準備を始めたのだ」。

食い物にされ続けるギリシャ。そして次の標的は?天文学的なギリシャの借金は返せるのか。解決策は?EUとの関係性、お隣トルコや中東の周辺国との距離はどうなっていくのか、などなど、次回考察してみようと思う。