ゲストブロガー:有馬めぐむ

arima日本で経済新聞社、出版社にて編集者、記者を経験後、2000年からフリーに。05年より海外取材や翻訳にも従事。国際会議の仕事で訪れたギリシャの魅力にとりつかれ、アテネに定住。西欧文化のゆりかごと呼ばれるギリシャから今日のアテネ、ギリシャ人の国民性、財政危機問題などを新聞、雑誌、ウェブサイト、ラジオ、テレビなど様々なメディアから発信中。「地球の歩き方 ギリシア/アテネ特派員ブログ」は週1回更新。

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今週のギリシャは18日に支援金が届き、19日になんとかギリシャ国債の償還が完了した。200億ユーロ(EUから145億ユーロ、IMFから55億ユーロ)もの巨額支援だが、国債償還と危機に瀕している銀行の救済金にあてたらもう手元にはわずかしかないという。本当にギリシャ政府はすっからかんの状態なのだ。

日本のメディアもギリシャ危機の理由を探るため、公務員の数が多いとか、富裕層の脱税がいかに多いかを報じている。もちろんそれらは財政危機上の大きな問題ではあるが、まず前回に説明したEU共同体でのドイツ対南欧の経済の歪みの構造、ギリシャの立ち位置を認識してから、国内の公務員や脱税問題を語った方がわかりやすい。

狙われた「3%」

ギリシャがユーロ通貨圏に入りたかった事情は様々あれど、中でも防衛費の面で切迫した状況があったことは前回述べた。02年ユーロ通貨加盟を真剣に考えた際、「財政赤字をGDPの3%に抑えなければならない」という壁にぶつかった。そこに登場したのが、ゴールドマン・サックス。「とにかく今年さえしのげばなんとかなりますよ。うまく財政赤字の帳尻を合わせてさしあげましょう」。追い詰められたギリシャ政府はその甘い誘いにのってしまった(当時の政権は現政権と同じパソック、首相はシミティス。現首相パパンドレウは外務大臣)。財政赤字を3%以下に抑える“魔法”と引き換えに、観光国としては大きな収入源である空港税の30年分の収益や、将来の宝くじの収入をごっそり差し出すなどの密約を交わしてしまった。もちろん国民はなんの説明も受けていなかった。その挙句、ある日突然の「財政破綻寸前宣言」は、国民にとって衝撃的だった。

ゴールドマン・サックスはこの誘いをギリシャだけではなく、複数の国に持ちかけたと言われている。オバマ米大統領はこの問題を急遽、ゴールドマン・サックスに問いただしたというが、EUやECBは今もこの問題を「独自に調査中」だそう。このスローテンポには呆れるばかり。

ボンド危機、アジア通貨危機をつくりだした中心人物とされるジョージ・ソロスや、ヌリエル・ルビニーなどの世界を動かす投機家たちがギリシャに目をつけたのはまさに10年前、この「3%」という条件に着目したからだったという。

サブプライム問題に加担したも同然の格付け会社をもう市場は信用してないという声もあるが、これらの会社はこの度、ギリシャ国債を「ジャンク債」という紙くず同然の価値に引き下げた。数年前、彼らは同じギリシャ国債を「ダイアモンドの原石」と言ったのだ。

ことし2月、ニューヨークの最高級ホテル「プラザ・アテネ」に集結したソロスたちは、太りに太った謝肉祭の七面鳥(ギリシャの財政赤字)を前に南欧への進撃を開始した。長期に渡り入念に計画された市場原理主義の罠には、欧州の政治家が束でかかっても勝ち目なし、というところか。


EUとしての共闘姿勢

前回の記事を受けて「じゃあドイツが悪者なの」と単純に捉えてしまった読者も少数いたようだが、誤解と偏見に満ちたギリシャ報道の中で、ギリシャ側の事情というのも理解してもらわないと話が先に進まないし、EU共同体としての経済のからくりを説明しないと、ギリシャ自体が真剣に取り組むべき“猛”反省点に切り込んでいけない。このギリシャ危機から端を発した欧州危機は誰かを悪者にして、簡単に白黒つけられる問題でもないと思う。

ただこの“戦争”に欧州諸国が共闘するには互いに自国の利益ばかり考えていたら負けるのは目に見えている。「ドイツは経済リーダーとして、利益享受が多くあるのだから、不景気になったら突然、単独行動をとりたがり、周辺国を切り捨てるようでは、危機は世界に広がるし、欧州は新興国にさえバカにされかねない」。これはドイツ人の友人の弁である。

今月9日、オバマ大統領はメルケル首相との電話会談でその点を厳しく詰め寄ったという。その後メルケルの態度が急に変わったと言われたが、ここ数日の行動を見ているとやはり単独行動がお好きなよう。とはいえ、このユーロ安で欧州の大半の企業は恩恵を受けているし、ギリシャにも観光客を呼び寄せるチャンスではある。しかし…ギリシャでは当然、欧州主要国の報道は日本よりずっと豊富に入ってくるが、メルケルの態度や彼女の経済顧問を批判する声はドイツやドイツ寄りの国からさえも多く聞こえてくる。


ギリシャの進む道は…

 ギリシャ国民にしたって現時点では誰もドイツ批判などしていない。ビジョンのないギリシャ政府に一番憤りを感じているのだ。

 EUに加盟したことはギリシャにとってもちろんメリットもあった。トルコによる過酷な占領時代の恐怖はギリシャ人の中にDNAとして刻まれている。防衛面での圧倒的な安心感は、私のような外国人の想像を遥かに上回るものだと思う。

 また通貨面でも長期のローンを組まなければ買えなかった高級車に手が届き、家電製品も安くなって一般市民の生活レベルは飛躍的に向上した。不動産ブームも到来し、建設業界も潤った。しかしいったん不況になると、産業基盤のない国、輸出するものがない国は雇用の創出ができない。政府のとる対策は公務員の雇用を増やすしかないので、謎の外郭団体等が次々と増えていく。そしてこれは選挙の際の組織票に絡んでいるから泥沼だ。職員とその家族は、勤務先機関に絡む議員に投票しなければならない。

20世紀を代表する海運王アリストテレス・オナシスによって最高のエアラインの称号も手にしたことのあったオリンピック航空は、再び国営になってから万年赤字経営だった。昨年やっとMIGに買われたが、破綻寸前になるまで政府が自由に使い放題、官僚の天下りなどまさにJALと同じようなパターンを辿っていたのだ。

 04年にはネア・ディモクラティアに政権交代。カラマンリス首相が率いたこの5年は、腐りきった特権政治が蔓延し尽くした状態だったと分析される。最大なのはドイツのシーメンス社のスキャンダルだが、政官業の癒着は増え続け、巨額の公共事業資金が消えてしまった。

 ギリシャには人類の遺産、パルテノン神殿をはじめ素晴らしい遺跡、エーゲ海の島々などセレブにも人気のリゾートがたくさんある。観光メインの国として、サービス業の人間をきちんと教育する学校や、観光インフラ全般をもっとしっかり整備しようという構想があったにも関わらず、その資金は忽然と消えてしまった。もしその計画が実現されていれば、雇用も創出されただろうし、ギリシャはハワイのようになっていただろうと言われている。

 政治がアマチュアだったために、残されたのは年金の支払いにさえ困る追い詰められた政府とキャンセル続出で悲鳴があがる観光業界の悲劇的状況だ。

最近、ギリシャのメディアも盗人議員狩りへの目くらましか、富裕層の脱税を大々的に報じている。今週は女優にして建築家、閣僚だったアンジェラ・ゲレクー(発覚前に辞職)の歌手である夫が長年にわたり、巨額の脱税をしてきたというニュースが最も注目を浴びた。現時点で6000人が摘発されたが、このうちの500人はなんと5千万ユーロを支払う必要がある!

ギリシャのビジネス社会は、コネや賄賂がまかりとおる悪習がある。何事につけ申請や許可が必要な場合、あまりにも複雑な公的機関のシステムの中で、普通に手続きをしていたら何年かかるかわからない。このような人々は税金を払う代わりに「テーブルの下でお金を払ったり受け取ったりする」習慣にどっぷりつかっていた。イタリアの友人も同じようなことを言っているのでギリシャだけではないかも知れないが、欧州というのはまだまだ日本やアメリカの発想からは信じられないほど多くの因習が残っている面がある。

ギリシャに暮らす者としてこの国のよいところはたくさんあると思うが、同時に暮らしていれば、信じ難い公的機関のシステムにうんざりする機会はいくらでもある。でも敢えて“複雑にしなければならない”公的機関のメカニズムを抜本的に改革するには、EUにおけるギリシャの立ち位置をきちんとしないことには解決しないのではと思う。


ギリシャの将来、デフォルトの可能性は

14日にはトルコのエルドアン首相がギリシャに来て、メディアの報道は盛り上がった。もはや敵対の時代は終わり、経済協力強化、軍縮もしようと前向きな会談が行われた。しかし満身創痍のギリシャ、トルコにとっては絶好のチャンスだ。エーゲ海の権益やキプロスの分断問題など特にめざましい進展もなく、話し合いが対等に行われたという印象はあまり受けなかった。

サルコジ仏大統領がドイツとケンカをするたびに、思い出したかのように言い出す「地中海連合」に活路を開くことはできないのか。フランスはいつもギリシャ寄りではあるが、しかしこれもフランスがドイツにとって代わるだけだという。コスコなど中国資本もどんどん参入しており、めまぐるしい。中東の国々との協力や、アメリカとロシアの間でバランスをとってもっとうまく立ち回るべきなどと、議論は毎日なされている。

政治は崩壊、経済主導の市場原理主義を見せつけられると厭世的にもなるが、しかし今回こそ議論だけで満足せず、決断を先送りしないでギリシャ国民のひとりひとりがきちんと考えなければいけないと思う。巨額の借金だって、数学的に考えたら、デフォルトの可能性は大いに残っていると思う。多くの識者の意見も、デフォルトする、しないはほぼ半々の回答だ。

一度、EU共同体の国としての道を歩み始めたギリシャは、もう国内だけでは根本的な問題を解決できない。やはりEU全体でのスピードアップした 政治的経済的な発想の転換も必要不可欠だと思う。

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ギリシャ危機の渦中から~財政危機はなぜ起こったのか?~ - 有馬めぐむ