パレスチナ自治区ガザへ向かう支援船をイスラエル軍が阻止した事でイスラエルに対する国際的な非難が高まっています。

パレスチナ問題はイスラエルとアラブ側の長年の相互不信、憎悪、復讐心の上に存在する問題です。従って極めて複雑であり、事実は往々にして第一印象とは異なります。

今回の事件のどちらに非があるのかは知る由もありませんが、これはある歴史を思い起こさせました。

それは1947年にユダヤ人の「違法」移民を乗せたエクソダス号が英国海軍と衝突した事件です。
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(出典:ウィキペディア)

当時パレスチナは英国の統治下にあり、ユダヤ人の移民は厳格に制限されていました。しかしユダヤ人コミュニティはわざとこの禁を破り、英国統治に反旗を翻すために4000人の乗客を乗せてパレスチナへの渡航を企てます。

エクソダス号がパレスチナに着く40km手前の公海上で英国海軍はエクソダス号への強硬乗船を試み、これを阻止します。



この事件は或る意味でユダヤ人による英国への挑発でしたが、イギリスはまんまとこの挑発に乗ってしまい、国際世論の非難を浴びました。これが原因で結局イギリスはパレスチナの統治権を放棄してしまいます。

今回の支援船はトルコのNGOが人道的見地から支援物資をガザ地区へ送るというものです。

イスラエルは「パレスチナへ支援物資を送るのなら、一旦、イスラエルの港に支援物資を陸揚げすれは、それをちゃんとガザへ届けるのでそうして欲しい」と要請しました。

トルコのNGOはこれを拒否し、直接ガザへの配送を試みたわけです。

イスラエル側は今回の支援船の派遣はイスラエルを挑発する行為だとしています。つまり1947年にイスラエル自らが行った、世論を味方につけるための演出の手法をそのままパクッているわけです。

そういう「罠」だと知りながら、今回イスラエルはまんまと相手の挑発に乗ってしまったのです。

国際世論は案の定、反イスラエルに傾いています。

さて、今回の問題をトルコ国内で起きている政争という視点から見るとどうでしょう?

トルコは回教徒が多数派を占める国としては珍しくイスラエルと近い関係にありました。その理由はトルコがお隣のシリアやイラクのクルド族と仲が悪かったためにイスラエルの武器を輸入したかったからです。

しかし現在のトルコの政府はトルコの建国の父、ケマル・アタチュルクが目指した世俗国家(=つまり政教分離)や軍部の強力な指導による国家ではなく、回教のカラーをより前面に打ち出した政治を行いたいと考えています。

シリアやイラクなどの近隣諸国と仲良くし始めているのもそれが原因です。

これにはトルコ内部でも軍部を中心に根強い反対があります。

そこでトルコ内部の親イスラエル派(それはとりもなおさず軍部ということになりますが)の動きを封じ、「トルコ国内の世論を世界の側につける」ために今回の支援船を出したという風にも解釈できるかも知れません。

さて、ユーロ危機との絡みでトルコの問題を考えた場合、ひとことで言えば「EUはよりトルコを必要とするようになった」と考えて良いでしょう。

なぜならギリシャの財政問題を解決するひとつの極めて効果的な方法はギリシャ、トルコの双方が軍備を削減することだからです。これについては既に両国で話し合いが持たれ始めています。(歴史的にギリシャとトルコは仲が悪いです。)

EUが欧州連合としてのクレディビリティー(説得力)を取り戻すにはEUに参加することのメリットを引き続き世界にアピールし続け、モメンタムを失わないことが大事です。

そのためにはトルコやポーランドといった人口動態的に若い国々が共通通貨ユーロを使い始める事が懐疑派を黙らせる最善の方法なのです。

従って今回の事件はイスラエルのイメージの問題であると同時にトルコの国際社会での印象が良くなるか?という重要な要素をも含んでいるわけです。