ゲストブロガー:速水禎|「SRIのすゝめ~未来の測り方~

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日本を代表するSRIファンドの運用を担当している。マーケットは大海、投資は自由と規律の航海。信条は、株価ではなく価値を買う。運用の最前線で毎日ツイートしている。

■おすすめエントリー
■ロボタイゼーションの到来■

これから中長期スパンで将来性の高い分野のひとつとして、私は現在ロボット産業の動向に注目しています。

では、今なぜロボット産業なのでしょうか。その理由は世界の人口増加と同時に進む高齢化を背景に、自動化、省力化のニーズが、今後ますます高まると考えていることです。少子高齢化の進む日本だけでなく、海外の先進国、新興国、途上国でも省力化、自動化投資は中長期的に続く、息の長い成長分野であると考えています。


現在、世界のロボット産業の主なユーザーは自動車メーカーと半導体メーカーで、ロボットは主に工場でのものづくりを支えてきました。そこで培われた技術をもとに、今後は脳神経科学など医療技術と融合しながら、一般の人々の暮らしに身近なロボットの開発が進み、家庭やオフィスにも活躍の場を広げて行くと、私は予想しています。

その普及の様子は、自動車産業において20世紀初頭にT型フォードの発売以降、クルマが大衆化していき、自動車の性能向上だけでなく、高速道路やガソリンスタンド、駐車場など社会インフラの整備が促進されていった姿と重なることでしょう。後に通勤、通学、ショッピングなど人々の生活スタイルまで変えていった、いわゆるモータリゼーションです。同じく20世紀半ばからパソコン、OS(Operating System)やアプリケーション・ソフトの普及、そしてインターネット、ブロードバンドへと発展し、現在に至るコンピュータリゼーションとも重なるでしょう。ロボット産業の発展は、それに続く第3の波として、ロボタイゼーションというメガトレンドを形成していくのではないでしょうか。

米国マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏は、2007年1月のSCIENTIFIC AMERICAN誌で、現在のロボット産業は、ちょうど30年前のコンピューター産業とほぼ同様の形で発展しつつあると指摘しています。そしてロボットが日常生活のほぼあらゆる場面に入り込む未来を思い描くことができると述べています。現在のロボット産業は、標準的なOS(Operating System)を欠いているため、有用なアプリケーション・プログラムがあっても、多様なロボットの上で実行するこができないという課題を抱えており、パソコン用OS事業で一度は世界を制したかに見えたビル・ゲイツ氏は、この分野に次の成長機会を見出しているのかも知れません。


■ロボット産業の成長ドライバー■

国連の人口予測によれば、世界人口は2009年の68億人から、2050年に91億人まで増加することが示されています。この予測資料を詳細に分析していきますと、実は人口増加と同時に、驚くようなスピードで世界的な高齢化が進むことが明らかになってきます。例えば60歳以上の高齢者人口は、7億人から20億人へと3倍になり、そのうち79%が途上国に住んでいると予測されています。また中国では、1980年代初めにとった「一人っ子政策」により高齢化が深刻化し、15歳から59歳までの生産年齢人口の比率は、今年2010年に、67.8%とピークをつけた後、2050年には53.7%へと低下していき、高齢化が急速に進むことが予測されています。

中国では最近、ホンダの変速機工場で5月に発生した労働争議を受けて、労使が2割強の賃上げで合意し、また従業員の自殺が問題となった台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の生産子会社富士康科技集団(フォックスコン)の深圳工場では、基本給を3割強引き上げると報道されています。こうした賃金コストの上昇は、中国における低賃金労働時代の終わりをつげており、生産現場における自動化、省力化、ロボット化の大きな推進力なると推測されます。

このように今後先進国、新興国、途上国で高齢化が世界的に進行していく中、工場での生産活動や生活インフラの保守点検などを支える人手の不足や、農業主体の経済からから工業やサービス業へと、産業の高付加価値化という社会的な課題を解決するために、自動化、省力化、そしてロボット化へのニーズが、これからますます顕在化してくる可能性が高いことが、国連の人口データの分析から読み取ることが可能ではないでしょうか。


■ロボット産業における日本の優位性■

さて今度は、ロボット産業の特徴に眼を向けていきましょう。仮にロボットの完成品を人間の身体に例えると、3つの要素技術に分けることができると考えられます。それは、人間の身体の動きを司る駆動系、神経の働きをするセンサ系、頭脳の役割をする知能系です。これらの一つひとつは、設計技術、機械技術、エレクトロニクス技術、ソフトウエア技術、精密加工技術、医療技術といった幅広い分野から成り立っており、ロボット産業は、これらの多くの技術を集結させた総合産業といえます。

そしてロボット産業のもつ極めて重要な特性は、各技術を相互に調整し統合を必要とすることです。日本のもの造りの現場と経営学の第一人者である、東京大学の藤本隆宏教授によれば、こうした典型的な「擦り合わせ」型産業は、日本の伝統的な得意分野である考えられています。(「日本のものづくり哲学」 藤本隆宏著、日本経済新聞社) 

「擦り合わせ」型産業で、日本が世界で成功した代表例としては、自動車や精密機械などが挙げられます。一方、パソコンや携帯電話などは、世界的に規格が統一され、標準化されているため、完成品メーカーは世界から最も安い部品を調達し、接続し、組み立てることができ、日本よりもむしろ、欧米やアジア企業に強みがある分野です。しかし「擦り合わせ」型産業では、例えば自動車の「乗り心地」のように、エンジン、シャフト、車輪、ボディー、シートだけでなく、電装系統などを、設計・開発段階から相互に微妙に調整していかないと生み出すことはできない性格をもっています。藤本教授によれば、これは長期雇用、多能従業員、チームワーク、長期取引といった従来日本の企業文化の上に合理的に育まれた能力であると考えられています。

ロボット産業における日本の技術力の高さは、特許の出願件数でも見ることができます。特許庁が発表した「平成18年度特許出願技術動向調査報告書」によれば、1999年から2005年までの日本での特許出願件数ランキングでは、ソニー、松下電器(現パナソニック)、ホンダをはじめとする上位10社はすべて日本企業となっています。中でもソニーやホンダが上位に来ている要因としては、AIBOやASIMOなどペット・ロボットやヒト型ロボットの技術開発があると考えられます。また安川電機、川崎重工、ファナックといった産業ロボットメーカーも上位にあります。

米国での特許出願件数上位10社を見ると、日本と米国が各4社、韓国とドイツが各1社となっています。ソニーは日本と同様米国でも1位になっています。さらに欧州での上位10社は、日本が4社、ドイツが3社、米国が1社、スイスが1社、スウェーデンが1社となっています。欧州での出願件数1位は日本のファナックです。

日本ロボット工業会によると、世界の産業用ロボットの3分の2が日本で生産され、3分の1が日本で稼動しており、日本は世界の「ロボット大国」といえます。その日本の産業用ロボットの代表選手が、安川電機、ファナック、川崎重工です。これらの企業を中心として、多くの完成品、部品メーカーが日本には存在しています。

つまり、ロボット産業は日本がこれから世界をリードすることができる分野のひとつであると言えます。世界の体制が、米国の覇権一極集中型から、中国など複数の新興国が大国化へと進み、多極化体制とシフトしていく中で、ビジネスを取り巻く競争環境はますます厳しいものになっていくと考えられます。今、企業に求められることは、国境を越えながらも、国際的な比較優位の観点から、得意分野で勝つことであると、私は考えます。ロボット産業は、欧米企業にはない、日本の独自の強みを発揮できる分野であり、将来に自動車産業の次を担う、日本の基幹産業になるのではないかと私は考えます。


■ロボット産業、豊富な投資対象■

ロボット産業はその裾野が広いため、投資対象として豊富な銘柄が存在することも特長です。世界の産業用ロボット市場で四天王と呼ばれる、ABB、KUKA、ファナック、安川電機を中心として、エレクトロニクス、機械、ソフトウエア、医療などへと、ロボット関連ビジネスの裾野が広がっています。

ロボットを駆動するための機械系に減速機という基幹部品があります。これはロボットの関節部分に使われ、モーターの回転スピードを落とすことでトルクを上げ、重い荷物などを持ち上げる力を生み出す機械部品です。この分野は、ナブテスコ、住友重機、ハーモニック・ドライブ・システムズといった日本メーカーが圧倒的な強さを持っていて、世界の市場で活躍しています。

最近は生活支援、介護支援といったサービスロボット分野で、大企業、中小企業、ベンチャーなどが続々と事業参入してきています。実際に家庭内での掃除、洗濯、片付け、介護など生活用ロボット分野では現在多くの企業が事業化を争っており、例えばパナソニックは家庭用を含むロボット事業で、2015年に売上高1,000億円を目指しています。今後は産業用ロボットだけでなく、高齢化社会の到来に伴い介護やリハビリテーションの分野、さらにはオフィスビルの清掃やメンテナンスなどの分野でも、急速にロボットの必要性が高まってくると、私は予想しています。

さて最後になりますが、次世代ロボットの開発で、現在私が最も注目している技術が、BMI (Brain Machine Interface) です。これは、脳が活動すると出てくる電気信号を検出して、機械を操作する技術です。脳は、記憶や運動、感覚などをつかさどる機能を担っていますが、集中力を高めたり、身体を動かしたりすると、脳波や脳の血流量が変化するため、それらのデータをもとに人の意図を推定し、ロボットや家電、コンピューターの動作に指示を出すことができるようになります。

頭で考えただけでロボットを動かすという、まるでSFの世界にいるようなこのBMI技術は、すでにトヨタ自動車と理化学研究所、ホンダと島津製作所などが開発に成功しています。脳神経科学とロボット工学の協調によって開発が進むこの分野は、いまだにその多くが謎に包まれた脳のメカニズムの解明にもつながると考えられ、将来の覇権を左右する次世代産業技術の代表格であると、私は見ています。

今後もロボット産業の動向に注目していきたいと思います。

以上