今日ここに書くことは単なるオチャラケです。でも皆さんが何かを考えるきっかけになれば幸いです。

有名な株の小説に清水一行の「小説兜町」というのがあります。この小説は日興証券の営業部長、斎藤博司をモデルにしたものだと言われますが、出版のタイミングは昭和四十年不況(山一証券が一回目の破綻をしたときです)の翌年です。

再起をかけていた山一証券は景気付けのために「小説兜町」を一度に1000冊購入し、社員に配ったと言われています。

しかしこの小説が株式関係者やエコノミストにとって含蓄に富んでいるのはある国の経済の発展と株式市場の果たす役割、とりわけ公募増資という資金調達方法の持つ、マクロ経済や国民生活に対する意味合いについて考えている点です。

小説中の登場人物のひとりである経済研究所の評論家に清水一行はこういうセリフを吐かせています:


「大衆を資金調達の吹きだまりにしてはいけない」

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僕にとってこの小説や昭和四十年不況が極めて興味深い理由は現在の中国の資本市場の置かれた状況に相通じるものがあるからです。

例えば中国では今、中国農業銀行のIPOが動き出しています。将来、中国の銀行の貸付の一部が焦付き、不良債権が増えたときに備えて、未だ問題が表面化していない今のタイミングで増資を敢行することは中国政府にとってはgot to do、つまりどうしてもやり遂げないといけない課題なのです。

しかし先週行われた安定株主工作(=戦略機関投資家に対するハメコミ)はいまひとつ不調に終わったと聞いています。

大型公募で株式の供給が大量に増え、相場の需給関係が悪化するリスクが高まっているわけです。

(何とか相場にカツを入れる方法は無いか?)

つまり値決めのある7月いっぱいまで相場を活況にするような材料が今、強く求められているわけです。

今回の中国農業銀行のIPOを仕切っているのはドイツ銀行です。ドイツ銀行の投資銀行部門のヘッドはマイケル・コアーズという人ですけど、この人はずっとシンジケート畑を歩んできた人で、引き受けにまつわる権謀術数にかけては凄く長けています。

過去世界最大のIPOと言われる中国農業銀行のIPOは彼のキャリアのトロフィー的なディールになるわけです。

でも中国農業銀行が投資対象としては鼻つまみモノの、皆から敬遠される存在であることは別に金融関係者でなくてもチョッとでもまともに中国株を研究した人なら個人投資家ですら熟知しています。さらに中国政府が要求している発行条件は駄目な会社なりのディスカウントで売ることを許してくれていません。だから誰も喰いつかないのです。

このままだと中国農業銀行のIPOがズッコケるリスクが高い、、、それを挽回するには人民元変動を容認するコメントを出し、アワテモノの個人投資家を株式市場に殺到させるのがいちばん。

まあマイケル・コアーズくらいの人になるとその程度のアドバイスは中国政府にしていると思います。

小説 兜町(しま) (徳間文庫)
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