米国の書店チェーン最大手、バーンズ・アンド・ノーブル(一般書籍部門店舗数720)が身売りを検討していると発表しました。

同社のレオナルド・リッジオ会長は「本屋ビジネスの生き字引」とも言える伝説的な経営者です。
そのリッジオ会長はプライベート・エクイティー・ファンドのような手を組む先が出現すれば協同してバイアウトしても良いという意向を表明しています。

日頃から電子メディアにおされている新聞やマスコミはこのニュースを「電子書籍に書店が屈した」という風に報道すると思いますが、実際はもっと複雑な事情があります。


先ず同社株はロナルド・バークルという仕手筋から19%の玉の買い集めに遭っています。さらにアレシア・リサーチという投資会社からも16%の玉を支配されています。リッジオ会長本人は同社株の29.9%を支配しています。

つまりこの三者でバーンズ・アンド・ノーブルの発行済み株式数の65%が支配されているのです。

ロナルド・バークルはバーンズ・アンド・ノーブルが最近おこなった大学の書店部門の買収に反対しています。

この大学の書店部門は日本でいえば大学の生協の書店みたいな存在で、普通、キャンパスに隣接しており、大学の講義で使われるテキストを中心とした品揃えとなっています。これまでも「バーンズ・アンド・ノーブル」というブランドを冠していたのですけど、実際にはリッジオ会長個人の所有でした。

大学の書店部門(店舗数637)ではハーバード大学、イエール大学、ペンシルバニア大学、コロンビア大学、シカゴ大学などと提携しています。

この大学の書店部門のビジネスは歴史的に極めてオイシイ商売で、事実、バーンズ・アンド・ノーブルがIPOした時にはリッジオ会長がわざわざ大学書籍部門を別会社としてカーヴアウト(除外)し自分だけの持ち物としたため一部投資家からひんしゅくを買った経緯があります。

しかし電子書籍の登場や不況によるバーンズ・アンド・ノーブルの一般書籍部門の売上高の落ち込みなどでリッジオ会長は作戦変更を強いられました。

具体的にはリッジオ会長の個人所有となっている大学の書店部門をバーンズ・アンド・ノーブルに買い取らせ経営統合することでリッジオ会長がキャッシュアウトするとともにバーンズ・アンド・ノーブル本体は敵対的買収からの防戦を固めるという意図があったと考えられます。

因みに2010年のバーンズ・アンド・ノーブルの既存店売上比較は-4.8%でしたが大学の書籍部門の既存店売上比較は-0.3%と健闘しています。

最近のバーンズ・アンド・ノーブルの株価ですがPSR(売上げ対株価比率)で0.14倍と極端な低評価となっています。

アマゾン・ドットコムの時価総額550億ドルに比べるとバーンズ・アンド・ノーブルの9.5億ドルという時価総額はお話にならない水準です。

若し同社のビジネスが「徐々に安楽死するビジネス」なのであれば、そういう評価も仕方ないでしょう。

でもバーンズ・アンド・ノーブルの経営基盤は案外強固です。

手始めにバーンズ・アンド・ノーブルは顧客数4000万人を誇っています。とりわけ安定性の高い大学の書籍部門の顧客数は400万人です。

いま全米の書籍市場を俯瞰すると、一般書籍市場の市場規模は230億ドル、大学などのテキストブックは120億ドル市場、ニュース・スタンドは22億ドル市場です。

このうちバーンズ・アンド・ノーブルのシェアは一般書籍市場が17%、大学などのテキストブック市場は15%、ニュース・スタンドは1%です。

独立の市場調査会社、デジトレンズによると2013年には一般書籍市場のうち26%(60億ドル)、大学などのテキストブック市場の25%(30億ドル)、ニュース・スタンド市場の27%(60億ドル)が電子書籍リーダーに移行すると試算されています。

これらの電子書籍市場を合計すると市場規模は150億ドルになるわけです。つまり現在の書籍市場の26%が電子書籍になるという予測です。

現在のバーンズ・アンド・ノーブルの電子書籍市場におけるシェアは20%(2010年6月現在)であり、これをそのまま2013年の予想に当てはめるとバーンズ・アンド・ノーブルの電子書籍部門の売上高は30億ドルとなります。

バーンズ・アンド・ノーブルはeBooksotreというデジタル・プラットフォームを通じてiPadやアンドロイドにコンテンツを提供しており、言わば「iPad内にバーンズ・アンド・ノーブルのストア(電子店舗)がある」のです。

バーンズ・アンド・ノーブルのウェブサイトであるBN.comは700万人の月次ユニーク・ユーザーが訪れています。またBN.comの口座は1500万口座あります。

またバーンズ・アンド・ノーブルは書店のビジネスのノウハウを生かして電子書籍で新しい需要を開拓することもやっています。たとえば『ハーレクイン・ロマンス』などに代表されるロマンス・ブックは本屋さんでは2%のマーケット・シェアしかありません。

これは女性が本屋さんでそれらの本を買うのが恥ずかしいのか、面倒なのか、兎に角、何らかの理由で頭打ちになっているのです。

しかし電子書籍フォーマットになると自宅に居ながらダウンロード出来るので、このカテゴリーは知る人ぞ知る巨大ニッチに成長しています。現在、電子書籍では堂々20%のシェアを誇っているのです。この成功の背景にはバーンズ・アンド・ノーブルの電子書籍部門が電子版ロマンス・ブックスのタイトルの拡充をプッシュしたことが関係しているのです。

こういうきめの細かい事は書籍のビジネスを知らないアップルには真似できません。

現在の売上構成は90%が店舗、10%が電子書籍ですが2014年には69%が店舗、41%が電子書籍を見込んでいます。

つまりバーンズ・アンド・ノーブルは電子書籍市場でも一定の成功を収めており、よほどの経営上の失策をしない限り、今後も書店と電子書籍市場の両方でそれなりのプレゼンスを維持することは可能なのです。

問題は当面の電子書籍化への移行期をどう乗り切るかです。売上減になっている店舗の整理を大胆に進めてゆく必要があります。これは上場会社としてリストラを行うよりも非公開会社として断行した方がやりやすい面も多いです。

さて、PEを絡めてマネージメント・バイアウトというカタチになると負債を背負いこむことになります。現在既にバーンズ・アンド・ノーブルには約5億ドルの負債があります。ですから負債の返済能力が問題となります。

因みに同社のキャッシュフローは次のグラフのようになっています。
BKS1