先日、アメリカのディスカウント航空会社、ジェットブルーのスティーブ・スレーターという客室乗務員が乗客のルール違反を咎めたことがきっかけで口論となり、ぶち切れた挙句、空気式非常すべり台を膨らませ、そのまま滑り降りて姿をくらませる事件がありました。

このニュースはすぐにネットを通じて世界に伝わり、スティーブさんは英雄扱いされました。

たいせつなお客さんを罵倒した挙句、職場放棄した自社の社員がネットで圧倒的な同情を集めた場合、ジェットブルーとしてはどう対応すればいいのでしょうか?


いろいろな考慮点が頭をよぎります。

(従業員を擁護すれば、職場放棄を是認することにならないか?)
(乗客に対して失礼があったことにどう対応するか?)
(ジェットブルーの就業環境が過酷すぎたのではという疑念にどう答えるか?)
(無責任な行動に出た従業員を社会からの反感を買わずに罰するには?)

ちょっとでも対応を間違えれば、ネットでボコボコに叩かれかねない苦しい状況にジェットブルーが追い込まれたことは言うまでもありません。

ジェットブルーはヘッドライトに照らされた鹿のように一瞬、凍りついてしまいました。

しかし2日後にジェットブルーはブログで次のようなコメントをしました。


Perhaps you heard a little story about one of our flight attendants? While we can’t discuss the details of what is an ongoing investigation, plenty of others have already formed opinions on the matter, Like, the entire Internet.
読者のみなさんはわが社の客室乗務員のエピソードをたぶんもうお聞きだと思います。現在調査中の案件なのでこの段階でそれを議論することは出来ないのですが、世間では彼のやったことについて既に評価を下している人が沢山居るように見受けられます。つまり全てのインターネット・コミュニティがです。


ジェットブルーは上のようなコメントをすることで世間の人々が感じているキモチを認め(acknowledge)ました。

最後のlike, the entire Internet.という表現はとりわけ軽妙な表現で、遊び心が見え隠れします。それは(ジェットブルーはユーモアのセンスを失っていません)という示威行為でもあるのです

仕事をするということの、時として割に合わない状況に関する自虐を交えた後、ジェットブルーは従業員の献身をたたえてこのエントリーを締めくくっています。

ジェットブルーがこのような強気のメッセージを出すと決めた背景にはデジタル・マーケティング会社のリアルタイムの世評調査で事件直後に急落したジェットブルーへの支持が時間が経つにつれて戻ってきたということがあります。その好機を捉えて挽回のメッセージを発したのです。

ジェットブルーの場合、既に自社ブランドに対する顧客の忠誠心は高いです。これをニューヨーク・タイムズはsocial trust equity(世間からの信頼資本)と呼んでいます。

Social trust equityの高い企業としては、例えばスターバックス・コーヒーやアップルなどが考えられますが、トヨタもアメリカではsocial trust equityは高いです。しかし「異常加速事件」が起こったときはトヨタはこのsocial trust equityに対する配慮を全く欠いており、またそれを味方につけて世評をターンアラウンドすることもしませんでした。

つまりソーシャル・メディア戦略に関してはトヨタは目を覆いたくなるほど怠惰だったのです。

このへんの匙加減の大事さはヒューレット・パッカードのCEOの辞任問題を見ても明白です。追い出されたマーク・ハード元CEOは取締役会との関係がこじれるとすぐに「自分ブランド」の危機管理会社を雇い、イメージ挽回キャンペーンを展開しました。しかしヒューレットの取締役会は対応が遅れたため、株主からもハイテク・コミュニティからも糾弾されています。

テレビCMを流していれば企業イメージが維持出来る時代はとっくに終わっているのです。