要約
ネットの「囲い込み」が進んでいる
「囲い込み」は必ずしも悪い事ではない
課金の途が確立したら、プレミアム・コンテンツが堰を切ったように出てくる



米国の雑誌『ワイアード』が「The Web is dead.」という特集を組んで話題になっています。

その標題だけを聞くと「えっ?インターネットは本当に死んだの?」と思わずムキになりますが、ここは相手の誘いにまんまと乗ってはいけません。

まず『ワイアード』の言う「The Web is dead.」のThe Webとは厳密にはWorld Wide Webのことを指しています。つまり狭義のWebを指しているわけです。

World Wide Webとインターネットは同義のように思っている人も多いでしょうが、実は違います。

World Wide Webはインターネットの中で行われているサービスのひとつです。つまり図で示すと下のようになります。
Inernet1

その意味ではFacebookやiPhoneやiPadもインターネットを通じて提供されるサービスです。このサービスを別の言葉に置き換えればアプリ(apps)になります。

すると『ワイアード』が「The Web is dead.」と宣言したのはもう少し言葉を尽くして言えばWorld Wide Webというサービスが上のような各種の新しいサービスによって圧迫を受けているということに他なりません。
Internet2

それではWorld Wide Webというサービスは一体、何でしょう?


それは簡単にいえばユーザーがブラウザーに自らURLをタイプして辿りつけるホームページと言い直せるでしょう。

インターネットはその初期においてはある程度コンピュータのことに詳しい人でないとなかなか使いこなせませんでした。これは何もインターネットに限った事では無く、あらゆるテクノロジーにはそのような性格が大なり小なりあります。

たとえば自動車ひとつ例にとっても初期の自動車のオーナーになるということは一通りのエンジニアリングの知識を必要としました。それだけ故障が多かったし、自動車の動作のメカニズムがわからないと乗りこなせなかったからです。
1910Ford-T

(出典:ウィキペディア)
でもその後、自動車はどんどんユーザー・フレンドリーになり、特に機械工の人でなくても広く一般に普及するようになりました。

昔のWorld Wide Webはいろいろなところをほっつき歩いて、情報の宝の山を自ら探し回ることが楽しみの大きな部分を占めていました。

でも万人がそういう楽しみ方をするか?と言えば、それはそうとは限りません。

既に自分が利用したいサービスが予め決まっている人の方がたぶん多いに違いありません。

アップルはiPhoneやiPadを通じて、そういう「閉じた世界」を構築しはじめています。

Facebookもその意味では「閉じた世界」です。

NBCユニバーサルやFOXテレビが主宰するHuluも予め番組が用意されている「閉じた世界」です。

それらはグーグルがクローリングできない世界であり、また消費者がそもそもグーグルを必要としない世界でもあるのです。

アップルやFacebookなどのサービスの提供者とグーグルとのせめぎ合いは、見方を変えればこの「囲い込み」の運動とそれに抗するグーグルという構図で捉える事も出来るのです。

なぜグーグルがアンドロイドなどを通じてスマートフォンにビジネスに参入しなければいけないかはこれで説明がつくでしょう。

それでは「囲い込み」はいけないことなのでしょうか?

アップルやFacebookが「閉じた世界」を作る理由は、アドセンスやバンナー以外の方法でいろいろ課金できるモデルが登場しはじめていることとも関係しています。サブスクリプションなどはその一例です。つまり利益追求の一環として「囲い込み」がおきているのです。

しっかりした課金の途があるからこそ、プレミアム・コンテンツを惜しみなく出してもコンテンツのクリエーターが「タダ働き」する心配をしなくて良いわけです。

一方、World Wide Webは広く薄く網を張っていますがなかなか閲覧者からお金を取れません。

利用者からお金を取れない世界ではアドセンスによる収入が「足切り」基準になります。すると最近IPOの申請をしたデマンド・メディアのように「アドセンスで得られる収入より安上がりにコンテンツを作る」ことで利益を出そうとするしか活路は無くなるわけです。これでは質の高いコンテンツができる保証はありません。

まとめるとアップルやFacebookが行っている「閉じた世界」の構築は必ずしも悪いことではありません。それはネット上でのサービス(あるいはアプリと言い換えても良いですが)の提供者に様々な課金方法を可能にし、ひいてはより良質のコンテンツをネットにどんどん出してくるひとつのキッカケなのです。

だからいま、堰を切ったようにプレミアム・コンテンツがネットに溢れようとしているのです。

能動的なネットではなく受動的なネット、プロダクティビティー(生産性)ツールとしてのウェブではなくエンターテイメント・ツール(=例:iPad)としてのウェブ、、、これらは全て同じ巨大なうねりの一環として捉えるべきでしょう。



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