3DOのIPO時に僕が感じた、ちょっとアタマがクラクラして吐き気を催すような体験を2回目にしたのはネットスケープのIPOの時です。1995年の夏だったと思います。

このときも会社の図書館のフロアにへたり込んで穴があくほどネットスケープの売出し目論見書を精読したのですが、ふたたび(ぜんぜんわからん)という焦りを感じました。

「Aさんから電話よ」

アシスタントのクリスティーンがトレーディング・ルームからわざわざ僕を捜しに来ました。

「あ、適当にあしらっておいて。いまとりこみ中だから、、、」

クリスティーンはロングアイランド出身の小柄なイタリア系アメリカ人です。グラマンの工場のすぐ裏で育ったというから、まあ典型的なワーキングクラス・ファミリーです。


彼女のデスクの上には自宅の裏庭でバーベキュー・パーティーをしているときに写した、水着姿のスナップ写真がスクォーク・ボックス(=スピーカーのこと)に貼ってあります。まるでボディビルダーのような筋肉質の肢体でガッツポーズを作ってふざけている写真です。この写真を見て(おおーっ)と叫ばない客は居ません。

彼女には営業の心得をしっかり仕込んであるので僕が居ない時は下ネタかなにかで客との話をつなぎます。「ねえねえ、きょう私のはいているパンティーの色、あててみて?」という具合です。

さて、ふたたびネットスケープの売出し目論見書に戻った僕はもうこのときまでに或る結論に達していました。(これは一家を挙げてカリフォルニアへ行くしかないな。)

そのときは未だ僕はネットスケープのブラウザーというものが何なのか見たことも無ければ、AOLなどのアカウントも持っていませんでした。でも何か大事なことがこれからシリコンバレーで起きるということだけはわかったのです。

「おまえが若し会社を変わるような機会があれば、HARMSに行くことだな。」

当時僕が担当していたジム・クレーマーは日頃から僕にそう言っていました。HARMSとは:

Hambrecht & Quist
Alex Brown
Robertson Stephens
Montgomery Securities

の4社の頭文字を取った略称です。to harmというのは「危害を与える」という意味ですから、さしずめ「ウォール街の愚連隊」というノリです。これらの小さい投資銀行はいずれもハイテク株の引受けを得意としていました。

なかでも僕がいちばん(ここに潜り込みたいな)と思った会社はハンブレクト&クイストです。その理由は営業マン一人当たりのIPO引受手数料が全米の全ての投資銀行の中で桁外れに多かったからです。

およそウォール街にフリー・ランチはありません。

若しフリー・ランチがあるとすれば、それに一番近いものはホットなIPOの株の割り当てを受けることです。

するとホットなIPOにいちばんありつける可能性の高い投資銀行が一番有利な職場ということになるのです。
(つづく)