要約
シリコンバレーでの起業のペースは加速しているように思われる
その一方で伝統的なベンチャー・キャピタルによるファンディングは低迷している


シリコンバレーのアントレプレナーやベンチャー・キャピタリストの間で最近よく話題になることは「どうやらここ1~2年の間にシリコンバレーでの起業は加速しているように感じる」ということです。

起業数は州の登記などを調べればすぐわかるのですが、リーマン・ショック以降は数字に大きなディスト―ション(歪曲)があると言われています。なぜなら大企業をレイオフされた失業者が自分でビジネスをはじめるケースが多いからです。

それがフリーランスに毛の生えたようなものなのか、それともれっきとしたベンチャーのスタートアップなのかは統計を見るだけでは判断できないし、実際のところ起業する本人たちにもその試みがどうなってゆくか?というハッキリした見通しがあってやっていることではないと思います。

そんなわけで、これが新しいうねりなのかどうかは、今の段階では判然としません。

でもベンチャー・キャピタリストや著名エンジェル投資家たちは何らかの蠢動を感じているのです

「ひょっとして、もの凄いスケールで起業ブームがもう起きているのでは?」

でも伝統的なデータ・ポイントで起業の活発度を測ろうとするとなかなか実態は掴めません。

たとえばベンチャー・キャピタルによるスタートアップへのファンディングは未だ低迷したままです。

下のグラフはプライベート・エクイティーの資産総額と投資実行額です。
プライベート・エクイティー

(出典:ザシティUK)
プライベート・エクイティーは大別してバイアウト・ファンドとベンチャー・キャピタルに2分できます。大体、比率的には6:4から7:3くらいでしょう。

つまりペンチャー・キャピタルの方がプライベート・エクイティー全体より遥かに小さいけど、運用資産のトレンドや投資実行額のトレンドは上のグラフを大体なぞっていると言えるのです。


言いなおせば、プライベート・エクイティーもベンチャー・キャピタルも最近、運用資産は小さくなっているということです。

それにも関わらずシリコンバレーでの起業のペースは加速しつつあるわけです。

先立つものが無いのに、なぜ起業のペースは加速しているのでしょうか?

最大の理由はクラウドなどの普及により起業コストが大幅に下がったためだと思われます

次に起業に必要となる初期コストが大幅に下がったことで、ミニ・エンジェル投資家でも十分にスタートアップのファンディングができるようになったということも挙げられます。

さらにY Combinatorに代表される、「簡易版VC」がファンディングのペースを加速していることも見逃せません。

アップルのアプストアなどの登場でカンタンに収益化出来る途が開かれたことも手軽な起業の原因です。

同様にアマゾンのキンドルは沢山の俄か著述家を生んでいます。

このためシリコンバレーでは履歴書を送って面接を受けるより、自分で小さなビジネスを始めて高値で売り付けた方が良いと考える才能のある若者が増えているのです。

もうひとつの特徴はネットがアップルやHuluなどにより「囲い込まれる」過程で、コンテンツの奪い合いが生じているということです。

これまではAT&T(電話会社)やコムキャスト(ケーブルTV)などが一度顧客を獲得すれば、その顧客はよほどの事が無い限り、離反しませんでした。

でも最近では携帯でもIP化が進んでいるため、ぼんやりしていると従来の電話料金ですら徴収できなくなる危険性が出てきているのです。コンテンツのひとつひとつが、こっそりと足抜きをしてお金が取れなくなるという、サービス・パッケージの「内側から崩れる」リスクがあるのです。

このことは逆に言えば上手く立ちまわればすごく初期段階からちゃんとしたキャッシュフローを生むスタートアップ企業が増えていることを意味します。

これは1990年代の第一次ドットコム・ブームとは大きな違いです。当時は「Burn Rate」という言葉が流行ったように、どんどん資本を燃焼してしまう、企業が大半でした。

でも業容を次のステージに拡大するには本格的なファンディングが必要だし、ビジネス・モデルの微調整の繰り返し(イタレーション)が必要になります。

つまり全く外部からのファンディング無しで上場企業にまでスケールアップ出来るような企業はさすがに殆ど無いということです

そこでグーグルなどの大企業に買われてゆくビジネスにまで育てるにはフォロー・オンのファンディングが必要になるのです。ベンチャー・キャピタルのお世話にならないといけなくなるのはその瞬間です。

またベンチャー・キャピタルにはエンジェル投資家が果たせない重要な役割があります。それはちゃんとした会社としての体裁を整えるための経営ノウハウ上のアドバイスやビジネス・プラクティス(例えば会計やコンプライアンス)の指導などです。

さらにエンジェル投資家は一般にIPOサイクルに代表される、ビジネス・サイクルに関する洞察に欠けています。