ゲストブロガー:沢利之

sawa金融そして時々山」というサイトを運営。 "@sawanoshijin"
山登りを中心とするアウトドアライフを愛する元銀行役員。先入観にとらわれずに、金融・経済の地下水脈を探って行きたいと考えています。


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元記事 公開日時:2010年8月24日 17:41

本日(8月24日)日経平均は1年4ヶ月ぶりに9千円を割り込んだ。4月5日の高値から2割以上下落したので気の早い筋(英語版ブルンバーグ)は日本株はベア相場入りと書き出していた。日本株下落の要因は米国の景気悪化懸念と急速な円高だ。

円高については昨日の菅総理・日銀白川総裁の電話会議で具体的な対策がでなかったことで市場は円高持続を見透かしたということだろう。

また今の政局の混迷を見ると日本が有効なデフレ対策を打てないという判断が日本株の続落を加速している。

デフレといえば米国でもデフレを回避できるかどうかが大きな話題になっていることは周知のとおりだが、今日のニューヨーク・タイムズも数名の経済学者のコメントを紹介していた。

その中の興味深いコメントを一つ紹介しよう。

MITのサイモン・ジョンソン教授は「デフレは過度の懸念で3つの理由から米国はデフレに陥らない」と述べる。第一の理由は連銀は何故物価の下落が危険であるかを理解する哲学とそれを食い止める手段を有している。同教授は「物価とは名目的な問題で経済の中を流通する貨幣量により直接的に決定される」「通貨の流れは大恐慌のような銀行システムの崩壊時には起きるが現在は預金保険システムがしっかりしているので起きない。」と述べる。

第二は日本の90年代のデフレでは「ゾンビ企業」の存在が中心的な問題だったが、米国ではゾンビ企業は存在しない。企業はレイオフを実施し、最高の利益水準を達成しているので、日本のように賃金と商品価格の引き下げの兆候はない。企業のバランスシートはしっかりしているが、消費者のバランスシートは弱い。2割の家計はネガティブエクイティの状態である。しかしこれ以上住宅の投売りがでる兆候はない。

第三に人口が年間1%増加する米国の経済は反発力と成長を続ける傾向がある。リセッションと失業率の高さから今年の経済成長は期待外れのものだが、第4四半期対比でみると2.5%程度の成長率にはなるだろう。

加えて中国の賃金上昇とドルの下落が物価に上昇圧力を加えるだろうと教授は結んでいる。

ジョンソン教授の見方は少し楽観的過ぎるかもしれない。本当に住宅の投売りはもう出ないのかなど疑問は残る。

だがサイモン教授のコメントの中には日本がデフレ対策として考えなければならないヒントが幾つかあるだろう。

まず通貨供給量と物価水準の問題である。通貨供給量と物価水準の間には次の関係がある。

物価水準×国内総生産量=ベースマネー×通貨流通速度

つまりベースマネーの量を増やすと物価水準が上昇するという関係があるが、これは通貨流通速度が一定であるということを前提とする。金融システムが破綻していると通貨流通がないのでベースマネーを増やしても、物価は上昇しない。

またデフレの罠にはまっていると購買意欲がないので、お金は貯蓄にまわり、物価を押し上げる効果がない。

従って今日本で通貨の供給量を増やす政策を単独で実施しても物価を押し上げる効果は乏しいだろう。

むしろサイモン教授のコメントで参考にするべきは今なお存在するゾンビ企業の問題だろう。過当競争からくる過度の価格引下げをとめるには、敗者を是認する仕組みを作らなければならない(しかし鳩山政権が行ったことは逆であった)。

またそこで失う雇用を吸収するには福祉や農業などで雇用を増やして対応しなければならない。

菅首相と白川総裁が直接会うことを避けたことに失望の声もあるようだが、私は電話会談でよかったと思っている。もし直接会って何も具体的な方針を出せなければ失望は更に大きいからだ。

私は今日銀の金融政策に過大な期待を持つというのは、政治の怠慢ではないかと思っている。国のあり方についてグランドデザインを書いてそれと整合する金融政策を求めるというのが本筋ではないだろうか?