要約
実力なき通貨高は極めて危険
通貨高はデフレを助長する
通貨高は不景気を一層深刻にする


よく「自国通貨高でおちぶれた国は無い」という俗説を主張する人が居ます。そういう人は実際に身銭を切って海外に投資した経験の無い人でしょうね。

実際には自国通貨が高すぎて経済がボロボロになった例はいくらでもあるし、自国通貨が高いままに放置することの恐ろしさは強調しても強調しきれません。

自国通貨が高すぎて経済が破綻した最近の例は10年前のアルゼンチンです。


アルゼンチンは1990年代にはラテンアメリカの優等生でした。ドミンゴ・カヴァロというハーバード大学を出た経済相が「アルゼンチン経済の安定は、まず通貨の安定から」と考え、1ドル=1万オストラーレスという固定交換比率を決めました。

この交換比率を維持するためにアルゼンチン政府は兌換法(Ley de Convertibilidad)という法律を定め、国内で流通する通貨(ペソ)と外貨準備額を一致させることに決めました。こうすれば庶民がペソをドルに替えたいと希望すれば、全員、必ずドルに両替できるわけです。

この兌換法は最初は上手くいきました。

自国通貨が高いので慢性的なインフレに悩まされてきたアルゼンチンでは輸入品の価格が下がることでインフレ鎮静化が見られました。ペソの購買力が増したため、庶民の暮らしは楽になりました。内需は旺盛になりました。

しかし自国の通貨が強すぎると輸出セクターは苦しみました。実力以上にペソの購買力が強いということは「しっかり稼いでもいないのに、消費態度だけは一人前」という身の丈以上の内需を創出し、アルゼンチンの国際収支は悪化しました。

アルゼンチンの国際収支が悪化すると「いつまでもこの楽な暮らしは続かない」ということを察知した、経済の仕組みに明るいビジネスマンなどを中心にペソ高を利用して海外にお金を逃避させる、所謂、資本逃避が起こりました

(なお、こうして資本逃避をちゃんと行った人だけが「逃げ切り勝ち」に成功したことを付記しておきます。)

アルゼンチンは兌換法によってそういう外貨への両替のリクエストには全部、応じてきたわけですが、国庫から外貨が無くなってしまうと固定相場は維持できないし、固定相場を維持できなければ、ペソは一度に急落して減価するという不安が出始めました。

するとペソ自体を銀行口座から引き出し、モノに換えた方が良いという生活防衛のための資金引き出しも起こり始めたのです。

これがアッと言う間に取り付け騒ぎに発展しそうになり、アルゼンチン政府はそれまで堅持してきた兌換法を放棄します。それまで1:1だったペソ:ドルの交換比率は2002年には4:1になりました。

これはテレビや自動車などの外国製品の値段が4倍に跳ね上がることを意味します。このためアルゼンチンは狂乱インフレに悩まされたのです。

結局、ペソは80%のデバリュエーションを経験し、アルゼンチンの「中流」階層は壊滅的な打撃を受けました。

人口の中に占める貧困層は2001年の35%から2003年には55%にまで増え、同じ時期に所謂、極貧層は12%から28%へと激増したのです。

なお、「実力なき通貨高」がいかに弊害をもたらすかの例はアルゼンチンだけではありません。最近で言えばギリシャ問題はその典型です。

ギリシャはユーロに参加したとこで弱いドラクマから強いユーロへと衣替えしました。これは内需を刺激し、一旦は景気が良くなったわけです。でも自国通貨が強くなることはその国の輸出産業に長期的なダメージを与えます。それがどういう悪影響を及ぼしたかは最近のギリシャ問題をフォローしている読者の方々にはよくわかっていることと思います。

まとめると「実力なき通貨高」は百害あって一利なしです。だから皆さんも今の円高は本当に日本の景気が良く、実力があるからそうなっているのか、それとも別の理由で起きているのかしっかり考えて欲しいということです。