要約
バーゼルⅢは喩えて言えばFXのレバ規制のようなもの
メガバンクの経営者達はもうバーゼルⅢは避けられないと諦めている


この週末、スイス第3の都市、バーゼルに27ヶ国の関係者が集まり、銀行の行動規範に関する新しい合意を定めようと協議中です。

「バーゼルⅢ」は「バーゼル・スリー」と読みます。

バーゼルは上に書いたように都市の名前ですが、同時に国際金融の文脈ではバーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision、通称、バーゼル委員会)を指します。


この委員会は金融機関の監督や行動規範について世界標準となるような模範例を示そうとするもので、拘束力や強制力はありません。

なぜⅢ(スリー)かといえば今回の模範例の提示は3回目に相当するからです。(ちなみにバーゼルⅡは2004年に公表されました。)

今回のバーゼルⅢでは銀行の自己資本を示すティア・ワン・キャピタル・レシオ(Tier One Capital Ratio)で最低7%という線が議論されているようです。

ティア・ワン・キャピタル・レシオは銀行のコア資本を総資産で割り算した比率です。

コア資本の中核になるのは自己資本と「過去の利益の貯金(retained earnings)」です。これに優先株(non-redeemable, non-cumulative preferred stock)を含める場合があります。

一方、総資産は通常、リスク修正後(Risk-weighted)の資産額を指し、保有資産の内容によって「掛け目」が違います。

ティア・ワン・キャピタル・レシオで7%というガイドラインは100ドルの投資ないし融資をする場合、コア資本として7ドルを確保しておかなければいけないというルールです。

乱暴な言い方をすれば:

100 ÷ 7 = 14.28

ですから「レバレッジ比率で14.28倍程度を確保しましょう」というルールだと思えば良いのです。

現在のガイドラインはティア・ワン・キャピタル・レシオで4%ですからレバレッジ比率は25倍です。

つまりバーゼルⅢは喩えて言えば先のFXレバレッジ規制のような規制が世界の大銀行に適用されようとしているのだと理解できます。

レバ規制が入るとポジションを落とさないといけなくなります。このことから容易に想像できると思いますが、バーゼルⅢは:

1. 銀行の収益力に影響を与えるかもしれない
2. 銀行が投資しにくくなることからクレジット・クランチを招来するかもしれない

という可能性があります。

つまりこれまでハイレバで稼いでいたFXトレーダーがレバレッジ規制で稼げなくなるのと同じようなイメージです。

銀行の融資が焦げ付いたりして自己資本に穴が開くと、ティア・ワン・キャピタル・レシオを順守するために資産(=ポジション)を落とさないといけなくなります。これはちょうど景気が悪くなっている時に限って、銀行がカネを貸さなくなるという、所謂、プロ・シクリカル(pro-cyclical)な融資行動になってしまいます。

だから「厳格な自己資本規制は不景気助長要因になるのではないか?」という懸念も出るわけです。

しかし欧州や米国の銀行幹部は大多数の人々が(バーゼルⅢで規制が厳しくなるのは避けられないし、或る意味、好ましいな)と感じています。

なぜなら、結局のところリーマン・ショックのような事件を起こさないためにはレバを落とすことがいちばん有効であることをプロは良く知っているからです。

いろいろ変な規制でがんじがらめにされるより、バーゼルⅢのようなカタチで競争のルールをちゃんと決めてもらった方がずっとスッキリするというわけです。

その意味で、バーゼルⅢは善でもなければ悪でもありません。銀行業の味方でもなければ敵でもないのです。

なお現在の各社のティア・ワン・キャピタル・レシオは:

ゴールドマン・サックス 12.5%
シティグループ 9.7%
JPモルガン 9.6%
モルガン・スタンレー 9.2%
バンクオブアメリカ 8%

などとなっています。欧州の金融機関は米国に比べて自己資本比率が低いです。例えばドイツ銀行、アライド・アイリッシュ銀行などは増資や組織の分割などを検討中です。

世界の銀行がこの新しい基準を満たすまでにたぶん5年から8年くらいの猶予が与えられると思います。この猶予期間を巡っていろいろ希望的な報道をしたりする新聞があります。(その典型は日経新聞。)

そして「施行時期が伸びたので、ポジティブだ」という書き方をするわけです。

確かにそれは目先の銀行の増資をやらなくてよくなるという意味では株式市場の需給関係にとってはプラスかも知れません。

でも大きな方向性として(レバは落とした方がいいよね)というコンセンサスは欧米のメガバンクの経営者の間では出来あがっています。(このコンセンサスが既に出来ていることをちゃんと報道していない日本のメディアは情けないですね。)

リーマン・ショックのときに、それらの銀行の経営者は死地を彷徨ったのです。走馬灯のように子供の頃の記憶とかが目の前を流れる、、、そういう絶体絶命の状態を経験し、何とか一命を取りとめたのです。

だからバーゼルⅢでティア・ワン・キャピタル・レシオを7%程度にするという点についてはもうネゴシアブルではないと諦めています。

あとは個々の銀行の事情から「チョッと待ってくれ」という酌量をするのみです。