「あれれ、この列車、後ずさりしてるんじゃないの?」

もう何年も前の話ですけどウチの子供たちが未だ小さかった頃、子供の友達の家族と合流してエミリーヴィル(サンフランシスコの対岸のバークレーの近く)からサクラメントまでアムトラックで旅行しました。

エミリーヴィルからサクラメントまでは2時間くらいで着いてしまう距離ですから旅行と呼ぶのは大袈裟かもしれません。但しそれはあくまでも列車がちゃんと走っていればの話です。

実際、この日の行程はダイヤの遅れで5時間くらいかかってしまいました。


上の息子の親友、アイザックのお父さんはもともとオーストリア出身のユダヤ人です。

迫害を避けるため幼少の頃を上海の租界で過ごし、ロスアンゼルスまで落ちのびてきた体験の持ち主です。彼は古書のディーラーでありロスアンゼルスのゲッティ美術館の古書のコレクションを監修した人でもあります。

さすがにヨーロッパの方だけあってトムさんのアメリカの鉄道に対する評価には厳しいものがあります。

トムさん:「Only in America, you know? 列車が後ずさりするなんて、アメリカならではだよね。」

僕:「なんで後ずさりしてるの?」

トムさん:「それはね、エタノールとか家畜とかを載せた貨物列車が通るからだよ。」

僕:「へー、人間より貨物の方が優先ってわけですか?」

トムさん:「もちろん。だって旅客列車は赤字だ。ぜんぜん儲からない。貨物は儲かる。こうやって貨物列車のために線路を空けるということは、つまり我々乗客は家畜以下だということさ。」

オバマ政権が打ち出した高速鉄道計画に米国の鉄道会社は猛反対しているのだそうです。

アメリカの鉄道網の9割を所有しているのは民間鉄道会社です。そしてその全ては貨物専用です。

ボストンからニューヨークを経てワシントンDCに至る路線など、ごく一部は所謂、コミューター(通勤)のための鉄道がありますが、これはアメリカ全体から見れば「例外中の例外」だと言えます。

ウォールストリート・ジャーナルによるとオバマ政権が高速鉄道計画を策定したとき、インフラ整備の時間を節約し、予算を安くあげるために既存の鉄道網に便乗するという想定で計画を立てました。

しかしこれに対してユニオン・パシフィックやノーフォーク・サザンなどの鉄道会社は大反対しています。

もともと貨物列車は貨車を数十台も連結し、超ノロノロ運転なのです。そこへスピードの速い旅客列車を相乗りさせたら、事故になりかねないというわけです。

カリフォルニアではサンフランシスコからロスアンゼルスを結ぶ高速鉄道の建設に際し、その行程の半分近くをユニオン・パシフィック鉄道の既存の路線に並走するかたちで線路を引きたいと申し入れたら、ユニオン・パシフィックは「うちの鉄道の敷地やその近くに鉄道を敷いたら、ただじゃおかないぞ!」と猛反発したそうです。

アメリカの政府はこれまで殆ど鉄道に公費を投入してきませんでした。ヴァンダービルトやハリマンの昔から、アメリカの鉄道は民間事業というのが常識だったのです。それらの鉄道王たちが抗争や合従連衡を繰り返しながら今日の鉄道グループが形成されてきたわけです。

したがってアムトラックなどを除けば政府はほぼビタ一文も鉄道インフラにお金を出していない一方で設備投資額は全て民間の鉄道会社が投入してきたのです。

アメリカの鉄道はもうこうやって100年以上も民間主導で維持・運営がなされてきたわけで、それをオバマ政権がちょっと思いつきから「こうすれば、エコにも役立つ」と言ったところで「ハイそうですか」と鉄道業界が折れるわけがありません。

オバマ政権の高速鉄道構想は必ず頓挫すると思います。