米国の大手銀行の株価が急落しています。

市場参加者はこれを「マース・メルトダウン」と呼んでいます。
ここでいうマースは火星(Mars)ではありません。MERSと綴ります。

その原因になったのはマース(MERS)と呼ばれる住宅ローンの所有権を電子的に登記する企業です。

MERSに対し、加入メンバー企業(JPモルガンがその一例)が「もうこいつらには愛想が尽きた」と匙を投げたことが今回の危機の原因です。

アメリカでは銀行がマイホームを購入しようとする消費者に住宅ローンを組む(オリジネーション)と、そのローンをしばしば他社に転売します。

その理由は住宅ローンの融資は最初に融資をするオリジネーションのフィーがいちばんオイシイわけで、最初にフィーをせしめた後、いつまでもそのローンをバランスシートに抱えていてもうま味は少ないからです。

だから米銀は次から次へと住宅ローンを組んで、それをすぐに転売するということを繰り返したわけです。

そのように転売されたローンは束にされ、輪切りにされ、「つぎはぎだらけのフランケンシュタイン」のようなひとつの大きな債券としてトレードされたわけです。

さて、問題は小口の住宅ローンが束にされ、それがさらに輪切りにされる過程で、それらのひとつひとつのローンの所有権が二転三転するのを、だれかがちゃんと記録にとどめておかなければいけないという点です。

これはたいへん煩雑なペーパーワークになります。

そこで「手作業でやっていたのでは間に合わん!電子的にやろう」ということでMERSという電子的な登記所が発足したのです。その株主はファニーメイ、フレディマック、ウエルスファーゴ、バンク・オブ・アメリカなどの金融機関です。

マースの仕事は「誰が原本の書類をもっているか?」という所在をコンピュータに入力することです。でも原本そのものはマースには保管されていません。


さて、最近、銀行が支払いの遅滞しているマイホーム所有者の物件を差し押さしようとして、マイホームの所有者の弁護士から「おまえは原本を持ってないのに、なぜ物件の差し押さえをする権利があるのだ?」と法廷でツッコミを入れられました。

そこで銀行がマースに「原本は、どこにあるの?」と問い合わせたところ、マースが原本の所在をうまく突きとめることが出来ない事実が判明したのです。

マースの従業員はたんなるデータ入力のアルバイトのような社員ばかりで構成されており、住宅ローンの知識も無ければ、法律の知識もありません。最低賃金でこき使われているのでいい加減な処理とか入力ミスが続出しているそうです。

マースが原本をすぐにロケートできないことが判明するとマースの株主であり、顧客であり、親分である銀行はブチ切れました。

JPモルガンは「もうマースはつかわない」と公言しています。

でもマースは全米の住宅ローン原本の約半分を処理してきたわけですから、この電子データベースが「使い物にならない」とわかった以上、差し押さえはもう出来ないのです。

米国の住宅抵当証券市場に信頼感の崩壊(crisis of confidence)の危機が襲ったのはこれが原因です。

PS:なお手作業での登記も「ロボ・サイニング・スキャンダル」で立ち往生していることは先日のエントリーで紹介しました。マーケットハックの読者にはギョーカイの人も多いので金融業界の人たちにわかるようなたとえ方をすればマースはDTCのようなものです。一方、ロボ・サイニングが問題になっているのはフィジカル・セトルメントのような場面です。いまDTCが事実上停止状態になったため、受け渡しが混乱しているというわけ。