The New Road to Serfdom: A Letter of Warning to America
The New Road to Serfdom: A Letter of Warning to America
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★★★★★(評者)広瀬隆雄


同書は直訳すれば『新しい隷属への道 米国に対する警告の書』となります。

このタイトルがFAハイエクの名著、『隷属への道』にあやかったものであることは一目瞭然です。そして同書にも当然のようにハイエクのリバタリアン的な精神が流れています。

しかし同書は所謂、経済書ではなく、政治学の本です。

さらに同書は単なる『隷属への道』の焼き直しではありません。(このタイトルで損をしていると思います。)

なぜなら同書はもっと同時代的で差し迫った問題を扱っているからです。

その問題の第一は欧州連合(EU)というものが民主主義的な表向きを装いながら、一皮剥けば大政翼賛的なブリュッセルへの権限集中によって出来た、民意を無視し、チェック・アンド・バランスに欠く政治組織であることです。

そして第二の問題としてオバマ政権がそのような欠点を持つ欧州的な政治システムにどんどん傾倒しているということです。

著者のダニエル・ハナンは欧州議会の議員に27歳の若さで選ばれた若い政治家で、オックスフォード大学の保守連盟の会長を務めた人でもあります。

オックスフォード大学の保守連盟会長のポストはマーガレット・サッチャーやウイリアム・ヘイグなど保守主義の政治家の登竜門として有名です。

同書は複雑で難解なテーマを扱っているのですが著者の思考の明晰さと圧倒的な筆力で、読みやすい、骨太な作品となっています。(ひょっとすると古典になるかもしれない手ごたえを感じる本です。)

著者の政治的な立場(保守ということ)から、当然、議論のバランスという意味ではかなり偏った記述となっています。

でもその欠点は同書の価値を少しも損なうものではありません。

いま欧州でメキメキ頭角を現している、YouTube世代の若手政治家の渾身の書。

今年僕が読んだ本の中ではベストでした。

というわけで最高点の星5つ。