11月11日からソウルで始まるG20を前にグローバル・インバランス(不均衡)をめぐってドイツとアメリカの舌戦がエスカレートしています。

以前紹介したとおり、アメリカのティム・ガイトナー財務長官は経常収支数値目標の導入を提唱しています。

しかし先日のAPECでは各国から反発が出ました。

「世界一律の努力目標というのはムリかも知れない」とガイトナー財務長官もひるんでいます。

ただ、だからといって経常収支数値目標が死んだわけではなく、これはあくまでも交渉のひとつのステップにすぎないと思います。


数値目標の設定で一番困るドイツは今回のアメリカの提案にはとりわけ強く反発しています。

先週、ドイツがアメリカの追加的量的緩和政策をdisったのに対し、昨夜は訪印中のオバマ大統領が反撃しました。「FRBの使命は経済を成長させることだ。これは私に課せられた使命でもある。アメリカの経済が成長することはアメリカ人にとってのみ良い事ではない。その恩恵は世界全体が享受するのだ。」

G20がドイツとアメリカの間での泥仕合になればなるほど、今回の会合で実のある成果が生まれやすいです。

これはどうしてか?というとグローバル・インバランスの問題を「中国対アメリカ」という軸で解決しようとすると(これが従来のアプローチです)メンツを重んじる中国としてはアメリカの要求に屈したという印象を与えてしまうので、譲歩しにくいからです。

しかし今は9月に168億ユーロの貿易黒字を出したドイツ(因みに8月は90億ユーロでした)が批判の矢面に立っています。

だから「ドイツ、中国の黒字国に対するアメリカなど赤字国の対決」という構図にすると中国のメンツは保持されるわけです。

また経常収支数値目標が国際通貨基金(IMF)を通じて根回しされるというのも今までと違う展開です。なぜなら中国は先のG20財務相・中央銀行総裁会談でIMFでの影響力を伸長したばかりですから、「大人のふるまい」を印象付けたいところだからです。

いずれにせよ今回のG20に関してはビジネス・スクールなどで教えるネゴシエーションのSTEPが美しいまでに再現されています。

【ステップ1】BATNA (Best Alternative to No Agreement)

【ステップ2】Manipulating Alternatives

【ステップ3】Anchoring of Expectations

【ステップ4】Claiming Values

問題は本番でどれだけ多くの国が経常収支数値目標に賛同するかです。新興国の多くは経済成長の初期段階では外国から生産設備などの資本財を購入しなければいけないので赤字になりやすいです。

それらの先行投資を数値目標から除外するという合意ができれば、(つまり自分さえ例外扱いにしてもらえれば)中国以外の大半のアジア諸国はむしろ数値目標に賛成だと思います。

その理由は数値目標が設定されると中国は人民元を切り上げる他なくなり、人民元が切りあがれば周辺アジア諸国の輸出マージンは大幅に改善するからです。