【ユーロの優等生】
アイルランドはユーロ圏のメンバー諸国の中でも優等生でした。
同国のGDP成長率は今回の金融危機の前は常にEU諸国や米国のそれを上回っていました。
ireland gdp

GDPに占める政府の負債も危機前は健全でした。ただし、これは今から振り返ってみると健全なように見えただけで、実際はそれほど健全でも無かったのかも知れません。
政府負債

なぜならアイルランドは不動産に対する国民の執着がとても強い国で、「財テク」に関する関心が極めて高かったからです。

アイルランドの不動産はバブルを起こしたし、その不動産取引に税収がリンクされていたという点も「税収は好調」という印象を与える原因になっていたと思います。

不動産バブルがはじけるとアイルランド政府がいっぺんに歳入の問題に直面したのはこのためです。

なお、話を脱線させて恐縮ですが、日本の皆さんはアメリカのサブプライム・バブルについてはよくご存じかと思いますが、不動産価格の上昇率の大きさでは欧州の一部の国の方が遥かに大きなバブルを経験したことはちゃんとおさえておく必要があります。

欧州の場合、ドイツのようにぜんぜん不動産バブルが起きなかった国がある一方で、アイルランドやスペインなど周辺諸国の多くでは壮大なスケールでバブルが起こったのです。

従ってアイルランドの場合、国民が勤勉でないとかという批判はまるっきり当てはまりません。(労働人口一人当たりの生産性は日本よりアイルランドの方が遥かに高いです。)

むしろ国民全員が「金持ち父さん」を目指した結末が、今日の同国の苦境であると理解すべきでしょう。

それではなぜ不動産価格が高騰したのかですが、その一因は欧州中央銀行(ECB)はひとつの政策金利しか提示できないことに因ります。

欧州各国の経済成長のスピードや消費者物価の上昇率はそれぞれに異なります。

下は消費者物価指数を示したものですが、アイルランドのそれはドイツやフランスより恒常的に高かった点に注目して下さい。
アイルランドCPI

つまりアイルランドの立場からすれば、ECBの政策金利の設定は低すぎたのです。

これが不動産投機を煽る一因となったわけです。


【バブル崩壊への対応】
アイルランドはバブルが崩壊するといち早く緊縮財政を打ち出しました。その対応は勇敢だったし、機敏でした

この「模範的な」政府の対応を市場は評価して、一時はアイルランドのソブリン債は安定を取り戻したかに見えました。

しかし不動産セクターに貸し込んでいた商業銀行の経営がおかしくなった際、欧州中央銀行(ECB)がステップインし、デフォルトを回避した関係で、これまで「アイルランドの商業銀行とアイルランド国内の不良貸付先」という当事者関係が「アイルランド国民とブリュッセルのEU本部」という貸借関係に変容したのです。

なぜ欧州中央銀行はアイルランドの商業銀行への緊急融資を実行し、実質的にその資金繰りをアンダーライト(引き受け)したのかというと、アイルランドの商業銀行が倒産するとその社債をポートフォリオの中に入れていた欧州大陸の銀行にも信用不安が波及することを恐れたからです。