【バーナンキによるデフレの定義】
さきほどからデフレという言葉を使っていますが、それをちゃんと定義します。

現在のFRB議長であるベン・バーナンキが議長に任命される前、2002年にワシントンDCのナショナル・エコノミスト・クラブで有名なスピーチをしていて、そこで彼はデフレを定義しています。

デフレとは広範に渡って物価が下落する現象を指します

またデフレの原因は需要の減退にあるとバーナンキは主張しています。

同じスピーチの中でバーナンキはデフレを克服するにはどうすればよいか?ということを学者の立場から考察しました。

【バーナンキによるデフレ対抗策】
そこで彼のアドバイスとしてはまずゼロ金利を当分の間維持すると宣言することを推奨しています。

これは日銀もFRBも現在すでにやっています。

バーナンキはそれでも駄目なときは2年債などに関して明快な「利回りのターゲット」を提示すれば良いと主張しました。

また「利回りターゲット」を実現するためにはFRBが市場に無制限に介入すれば良いと言いました

このような「利回りターゲット」は実際に過去にアメリカが実施したケースがあります。

第二次大戦のときアメリカは戦費を調達するために国債を沢山出さなければいけなくなりました。

その時、安定的なコストで資金調達ができるようにFRBは「利回りターゲット」を実施し、金利のターゲットを明快に示し、それより市場価格が逸脱すると介入すると宣言したのです。

この宣言を市場は信用し、実際にはぜんぜん介入が無くてもFRBは「利回りターゲット」を維持することができました。

【QE2でバーナンキは自説を実行に移した】
今回のFRBの追加的量的緩和政策ではバーナンキのこのスピーチでの主張に少し手が加えられ、所謂QE2として発表されました。

具体的には:

2年債などに関して具体的な利回りターゲットを明示する

というところが

2011年6月までに6000億ドルの財務省証券を購入する

という、所謂QE2の発表に置き換わったわけです。


次にFRBはインフレの目標として2%を理想とすることをFOMCのステートメントなどを通じて市場にコミュニケートしています。

なお現在のインフレは1%強です。

なぜインフレの理想値を明言するかといえば今米国では不動産価格などが下がっており、デフレのリスクがあるのできちんとFRBがどのインフレ率の実現に向けて通貨の膨張を試みているのか市場と対話する必要があるからです

これが第二次大戦のときの「利回りターゲット」に置き換わっているわけです

逆の言い方をすれば6000億ドルの財務省証券を購入するといっても、それは向こう8カ月の間に実施するわけですから毎月の購入額は単純に計算すると750億ドルに過ぎないのです。

そして様子を見ながら財務省購入プログラムを継続してゆくわけです。

その場合、「様子を見ながら」とは何をさすか?といえば、インフレ率が2%になったら途中でもQE2をやめますよと言っているわけです。

つまりFRBは現在1%強であるアメリカのインフレ率を2%へ持って行きたいと言っているわけです。これはそんなに実現不可能な話では無いと思います。

なぜなら先ほど説明したように高橋是清の仕掛けた通貨戦争では1931年から日銀券流通残高、つまり紙幣が市中に出回る量が増え始めたと同時に卸売物価が上昇、つまりインフレを実現することができたからです。

ベン・バーナンキFRB議長は昔大学教授だったのですが、彼の専門は1930年代の世界経済です。そして大恐慌時代の通貨戦争の勝ち組は日本だったのです。

だからバーナンキは高橋是清の経済運営をつぶさに研究し尽くしています。

若し、バーナンキ議長が是清がやったのと同じ効果を生み出すことができるのであれば、いま我々が立っている場所は最初に示したグラフでいえば1931年のところに他ならないわけです。



【QE2が諸外国へ与えるインパクト】
さて、1930年代は日本が率先して通貨安戦略をとり、今回は米国が率先して通貨安政策をとっていることを説明しましたが、他の国はどのようにしているのでしょうか?先ず日本は既にデフレに陥っています。
通貨戦争4

デフレとは物価が広範に下がる現象を指します。

日本のインフレ率はマイナス0.9%です。

一方、日本の政策金利はほぼゼロパーセントです。

これはなにを意味するかというと銀行にお金を預けておくと金利がぜんぜんつかない。それでもモノに変えるよりも銀行預金のままのほうが得だということです。

それはとりもなおさず、日本の金利はきつめだということを意味します。

これに比べて米国をみればインフレ率の方が政策金利より高くなっています。これは銀行におかねを預けておくと損だということを意味します。

英国や欧州も同じです。

つまりこれらの国では不動産価格が下落するリスクがあり、中央銀行はデフレを恐れているわけです。だからわざとインフレ率より政策金利を低くし、インフレを助長しようとしているわけです。

一方、右端のブラジルを見るとインフレ率に比べて政策金利が凄く高くなっています。

これは政府がすごくきつめに金利を誘導していることを意味します。

ブラジルは10年くらい前まではすごくインフレになりやすい体質でした。それで中央銀行は先手先手を打つことで知られています。

問題はインドと中国です。インドはインフレ率に対して政策金利が低いので後手に回っています。

また中国の場合、ここに示した5.56%は貸付金利なのですが、預金金利は2.5%ですからインフレ率の3.6%より小さくなってしまっています。

言葉を換えて言えば中国では銀行にお金を預けておくより、株やモノに変えた方が得なのです。

この各国の中で中国経済が一番成長率が高いです。ということは中国の金利は本来であればもっと高くなければいけない。

しかしそれが余り高く無いのはあまり金利を魅力的にしてしまうと外国から人民元預金がどっと集まってしまい、人民元の管理相場を維持できなくなるからです。

中国経済にはアキレス腱があります。

それはインフレです。

米国はインフレを起こそうとしているわけですから、ぼんやりしていると中国はインフレに見舞われる危険があるのです。

だからバーナンキFRB議長が打ち出した追加的量的緩和政策は間接的に中国の人民元安政策の放棄を早める効果を持ちます。