ネットなどを見る限り未だこの可能性を論じているエコノミストや政府関係者は居ませんが、僕は最近、ユーロ版ブレディー・ボンドの可能性について思いを巡らせています。
ブレディー・ボンドとは債務危機に陥ったラテンアメリカ諸国の債務リストラクチャリングを促進するために1989年からイシューされた債券を指します。
ブレディー・ボンドの説明に入る前に簡単になぜラテンアメリカ諸国が債務危機に陥ったのかを復習したいと思います。
1970年代に2つのオイルショックを経て中東の産油国は莫大な富を蓄えました。産油国はそれをシティバンクやチェースバックなどに預金しました。
これらの大手銀行(当時はマネーセンター・バンクと呼ばれていました)は余資を貸付に回すため、折からのインフレで景気が良くなっていたラテンアメリカ諸国(=脱線しますが、今のブラジルの好景気とダブるものがあります)にどんどん貸付を行いました。
ブレディー・ボンドとは債務危機に陥ったラテンアメリカ諸国の債務リストラクチャリングを促進するために1989年からイシューされた債券を指します。
ブレディー・ボンドの説明に入る前に簡単になぜラテンアメリカ諸国が債務危機に陥ったのかを復習したいと思います。
1970年代に2つのオイルショックを経て中東の産油国は莫大な富を蓄えました。産油国はそれをシティバンクやチェースバックなどに預金しました。
これらの大手銀行(当時はマネーセンター・バンクと呼ばれていました)は余資を貸付に回すため、折からのインフレで景気が良くなっていたラテンアメリカ諸国(=脱線しますが、今のブラジルの好景気とダブるものがあります)にどんどん貸付を行いました。
シティバンクのウォルター・リストン頭取は「企業は倒産するけど、国家には倒産は無い」という有名な言葉を吐き、強気の融資を重ねたのです。
ところが1980年代になって原油価格が暴落するとラテンアメリカ諸国は借金の返済に困るようになりました。
そこで返せなくなった借金をリストラクチャリングする必要が出たのです。
アメリカが考えだしたプランは次のようなものです。
まず個々のマネーセンター・バンクがラテンアメリカの国々に対して実行した融資はそのままでは身動きが取れないので、債券としてリパッケージされました。
債券なら機関投資家間で売ったり、買ったりすることが容易にできるからです。
借り手はローンを返済可能な現実的金額にヘアカット(債務の減免)し、ブレディー・ボンドに置き換えました。
ブレディーというのは当時のアメリカの財務長官、ニコラス・ブレディーの名前からきています。
ブレディー・ボンドはドル建てとなりました。
これは米国の機関投資家から見れば為替リスクがなかったことを意味します。
さらに元本は米国政府のゼロクーポン債で保証されました。
IMFはラテンアメリカ各国がきめられた条件(=これをワシントン・コンセンサスといいます)に従って経済の立て直しをすることを指導・監督しました。
このようにしてブレディー・ボンドは米国のトレジャリー・ビルとラテンアメリカ各国のソブリンの資産によって担保された30年債のドル建てソブリン債の体裁を取ったのです。
これは機関投資家の立場からするとユニークな投資機会を提供していました。なぜなら債務国の返済能力だけに依存するのではなく、米国政府の後ろ盾があったからです。最悪の場合、投資家は米国トレジャリー・ビルのリターンを期待することが出来たわけです。
さて、今日の欧州のソブリン債の状況を見るとギリシャをはじめとした各国は未だデフォルトしたわけではありません。
でも今年5月の1兆ドルにのぼる救済策が発表されなければ、ギリシャなどは今頃どうなっていたかはわかりません。
こんにちの欧州周辺国と通貨危機を経験したラテンアメリカ諸国では置かれた状況がかなり異なります。
先ずラテンアメリカ各国は自国の通貨を切り下げる決断さえすればすぐに輸出競争力を取り戻すことができました。また通貨を切り下げればもはや通貨防衛をする意味はなくなりますので金利は下がります。自国通貨が切り下がると輸入品の価格が高騰し、瞬間的にはインフレ圧力が働きますが、庶民の購買力は激減するのでいずれ輸入品は全く売れなくなり、インフレは鎮静化します。
また新興国の場合、そもそも賃金水準が低いので為替さえ適正水準に調整されれば輸出競争力の問題は大きくありません。さらに人口動態的にも有利な力が働いているので長期で見た成長戦略にも苦心する必要はありません。
このような理由から新興国の通貨危機は比較的短期間に解決する場合が殆どです。
さて、今回のPIIGS危機はどうでしょう?
欧州周辺国は共通通貨ユーロを使っている関係で、自国通貨の切り下げという常套手段は使えません。
すると競争力を取り戻すためにはインターナル・デバリュエーション(内国的切り下げ)の方法に頼らざるを得ないのです。
具体的なインターナル・デバリュエーションの方法は賃金や年金のカットになります。
また政府は借金の返済能力を向上させるために公務員、教員、公共工事などを大幅に削減する必要が出ます。
するとインターナル・デバリュエーションと政府の緊縮財政という組み合わせは国内景気という視点からするとたいへん不景気を招きやすい組み合わせになるのです。
国内経済が不景気になると税収も落ち込みます。
すると折角、借金の返済能力を向上させようと努力しても税収の落ち込みで努力が水の泡になるリスクもあるわけです。
2011年の欧州の経済成長はこれらのことを考えあわせるとネガティブ・サプライズが出るリスクが大きいです。
その場合、個々の国では通貨を切り下げられないので、せめて出来る事はユーロを思いっきりユーロ安に導くことです。
もしその心の準備が欧州各国政府に無いのならば、ソブリン債や銀行の社債のヘアカットを真剣に検討する必要があります。なぜならヘアカットをしなければ返済能力の帳尻合わせは首切りや年金のカットでしか出来ないからです。
若しヘアカットする際は1)債務の額面は変更せず、返済期限を延ばすとともに金利を引き下げる、若しくは2)額面より少ない金額で償還する、のどちらかになります。
その場合、いざヘアカットということになると投資家は大いに動揺します。だから新しい条件の下では利払いや元本の償還が完全に保証されないといけないのです。
その場合、現在の2013年までの時限措置であるEFSF(欧州金融安定化取極)では投資家を納得させることは難しいと思います。
若し先に紹介したような「ユーロ共同債」などのアレンジができないのであれば、次善の策としてはドイツのブンズにより保証されたユーロ版ブレディー・ボンドを導入し、各国のソブリン債をこれに転換する際にヘアカットするという方法なのかも知れません。
ところが1980年代になって原油価格が暴落するとラテンアメリカ諸国は借金の返済に困るようになりました。
そこで返せなくなった借金をリストラクチャリングする必要が出たのです。
アメリカが考えだしたプランは次のようなものです。
まず個々のマネーセンター・バンクがラテンアメリカの国々に対して実行した融資はそのままでは身動きが取れないので、債券としてリパッケージされました。
債券なら機関投資家間で売ったり、買ったりすることが容易にできるからです。
借り手はローンを返済可能な現実的金額にヘアカット(債務の減免)し、ブレディー・ボンドに置き換えました。
ブレディーというのは当時のアメリカの財務長官、ニコラス・ブレディーの名前からきています。
ブレディー・ボンドはドル建てとなりました。
これは米国の機関投資家から見れば為替リスクがなかったことを意味します。
さらに元本は米国政府のゼロクーポン債で保証されました。
IMFはラテンアメリカ各国がきめられた条件(=これをワシントン・コンセンサスといいます)に従って経済の立て直しをすることを指導・監督しました。
このようにしてブレディー・ボンドは米国のトレジャリー・ビルとラテンアメリカ各国のソブリンの資産によって担保された30年債のドル建てソブリン債の体裁を取ったのです。
これは機関投資家の立場からするとユニークな投資機会を提供していました。なぜなら債務国の返済能力だけに依存するのではなく、米国政府の後ろ盾があったからです。最悪の場合、投資家は米国トレジャリー・ビルのリターンを期待することが出来たわけです。
さて、今日の欧州のソブリン債の状況を見るとギリシャをはじめとした各国は未だデフォルトしたわけではありません。
でも今年5月の1兆ドルにのぼる救済策が発表されなければ、ギリシャなどは今頃どうなっていたかはわかりません。
こんにちの欧州周辺国と通貨危機を経験したラテンアメリカ諸国では置かれた状況がかなり異なります。
先ずラテンアメリカ各国は自国の通貨を切り下げる決断さえすればすぐに輸出競争力を取り戻すことができました。また通貨を切り下げればもはや通貨防衛をする意味はなくなりますので金利は下がります。自国通貨が切り下がると輸入品の価格が高騰し、瞬間的にはインフレ圧力が働きますが、庶民の購買力は激減するのでいずれ輸入品は全く売れなくなり、インフレは鎮静化します。
また新興国の場合、そもそも賃金水準が低いので為替さえ適正水準に調整されれば輸出競争力の問題は大きくありません。さらに人口動態的にも有利な力が働いているので長期で見た成長戦略にも苦心する必要はありません。
このような理由から新興国の通貨危機は比較的短期間に解決する場合が殆どです。
さて、今回のPIIGS危機はどうでしょう?
欧州周辺国は共通通貨ユーロを使っている関係で、自国通貨の切り下げという常套手段は使えません。
すると競争力を取り戻すためにはインターナル・デバリュエーション(内国的切り下げ)の方法に頼らざるを得ないのです。
具体的なインターナル・デバリュエーションの方法は賃金や年金のカットになります。
また政府は借金の返済能力を向上させるために公務員、教員、公共工事などを大幅に削減する必要が出ます。
するとインターナル・デバリュエーションと政府の緊縮財政という組み合わせは国内景気という視点からするとたいへん不景気を招きやすい組み合わせになるのです。
国内経済が不景気になると税収も落ち込みます。
すると折角、借金の返済能力を向上させようと努力しても税収の落ち込みで努力が水の泡になるリスクもあるわけです。
2011年の欧州の経済成長はこれらのことを考えあわせるとネガティブ・サプライズが出るリスクが大きいです。
その場合、個々の国では通貨を切り下げられないので、せめて出来る事はユーロを思いっきりユーロ安に導くことです。
もしその心の準備が欧州各国政府に無いのならば、ソブリン債や銀行の社債のヘアカットを真剣に検討する必要があります。なぜならヘアカットをしなければ返済能力の帳尻合わせは首切りや年金のカットでしか出来ないからです。
若しヘアカットする際は1)債務の額面は変更せず、返済期限を延ばすとともに金利を引き下げる、若しくは2)額面より少ない金額で償還する、のどちらかになります。
その場合、いざヘアカットということになると投資家は大いに動揺します。だから新しい条件の下では利払いや元本の償還が完全に保証されないといけないのです。
その場合、現在の2013年までの時限措置であるEFSF(欧州金融安定化取極)では投資家を納得させることは難しいと思います。
若し先に紹介したような「ユーロ共同債」などのアレンジができないのであれば、次善の策としてはドイツのブンズにより保証されたユーロ版ブレディー・ボンドを導入し、各国のソブリン債をこれに転換する際にヘアカットするという方法なのかも知れません。