カタールは単なる「ラッキーな中東の産油国」ではありません。

カタールが今日の地位を築くまでには首長の大胆なビジョンが大きな役割を果たしているし、周到な計算やソフィスティケートされた世界観がその礎になっています。

2022年FIFAワールドカップの招致でアメリカや日本が負けたのは当然です。

なぜならカタールのワールドカップ招致プロポーザルには世界の人々の心の琴線に触れるようなメッセージがあったからです。

【どうやって宝石箱の鍵を開けるか?】
サウジアラビアやクウェートなど、湾岸諸国には石油が出る国が多くあります。カタールはそのアラビア湾に突き出た半島の国です。砂漠の他は真珠の養殖で細々と暮らす漁村がある程度でした。

カタールの沖合のアラビア湾には巨大なガス田があることはわかっていたのですが、天然ガスを運搬するためにはパイプラインか、さもなければLNG(液化天然ガス)船が必要です。それらはいずれも大掛かりな装置や先行投資を必要とします。

このため欧米のオイルメジャーは先ずサウジアラビアやクウェートの政府と組み、どんどん原油を掘り出しました。

カタールは近隣諸国がどんどん豊かになるのを見ながら歯ぎしりするほかなかったのです。

カタールの首長はハマド・ビン・カリファ・アルタニです。彼は英国の陸軍学校、ロイヤル・ミリタリー・アカデミー・サンドハースト(RMAS)に留学します。

RMASは今度、ケイト・ミドルトンと結婚することが決まったウイリアム王子の出身校でもありアメリカのウエストポイントなどに相当する名門校です。
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(出典:ウィキペディア)

ハマド・ビン・カリファはその後カタールの防衛大臣を務めますが国政の進め方に危機感を抱き、実父を無血クーデターで追い出して首長の座に就きます。

ハマド・ビン・カリファの基本的な考え方は「今はうちの国はお金がないので誰にも相手にされないけど、カタール沖には莫大な天然ガスが眠っているから、ボヤボヤしていると必ず外国が攻めてくる。また天然ガス開発には巨大な先行投資が必要だが欧米企業は国防がしっかりしていないと誰もリスクを取って投資してくれない」というものです。

つまり地中には膨大なお宝が眠っているのだけれど、お金が無いからそれを守る軍隊も編成できないし、それはとりもなおさず欧米企業の招致ができないことを意味するわけです。


【作れば、必ず来てくれる!】
そこでハマド・ビン・カリファは砂漠にC-17が着陸できる巨大な滑走路を作りました。
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(出典:ウィキペディア)

「滑走路を作れば、必ずアメリカ空軍が来てくれる!」

それをみて湾岸諸国の人々は「カタールの首長はアタマがくるくるぱあだ。砂漠に滑走路なんか作っても、アメリカ軍が来るわけないだろ?」とせせら笑いました。

しかしハマド・ビン・カリファの読みはバッチリ当たりました。

1990年にイラクのサダム・フセインがクウェートの石油を盗るために南下した際、サウジアラビアは「もしこの勢いでサダム・フセインがサウジの油田地帯まで攻めてきたら、どうしよう?」と恐れました。

それでサウジアラビアにあるサウジ・アラムコなどのアメリカの利権を守るため、アメリカはサウジをベースとして反撃のための勢力を増強し、ミナ・サウド(サウジとクウェートの国境地帯)からサダム・フセインの軍隊を押し戻したのです。

この反撃は大成功したのですがアメリカ軍が大勢サウジアラビアに駐留することに極めて保守的でイスラム的な価値観をなによりも大事にするサウジアラビアの庶民には駐留軍に対する反発が芽生えたのです。

サウジアラビア国内のアメリカ施設に対するテロなどの動きを見て、アメリカ政府はカタールの首長の誘いに乗り、アメリカ空軍をカタールに移します。

9・11以降のアメリカ軍の中東における作戦は、このカタールの基地がロジスティックスの中心になるわけですから、当然、そこにはアメリカの巨大な軍隊が駐留します。これはオイルメジャーなどのビッグ・ビジネスの立場からすれば「アメリカ軍が居るので、イランも手だし出来ないだろう」というソロバンになり、地政学リスクが大幅に下がることを意味するのです。


その2へつづく