昨日の東京マーケットの引け後、米国の格付け機関、スタンダード&プアーズが日本国債の格付けをAA(ダブルエー)からAA-(ダブルエー・マイナス)へダウングレードしました。

S&Pはダウングレードに際してのコメントで次のように述べています:

日本政府の負債比率は既に世界で最も高いのだが、今後も負債比率は上昇の一途をたどると思われる。これは世界金融危機の前に我社が予想していたシナリオよりもっと高い負債比率にまで上昇するということだ。日本の負債比率がピークを打つのは2020年代ということになるだろう。民主党政権には借金体質を改善するための首尾一貫した政策というものが無い。


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さて、今回のスタンダード&プアーズによる格下げは、その事実自体はサプライズでは無いと思います。

日本の中身が悪いことは今日に始まったことではありません。

ただ格下げが今日というタイミングで実施されたことはマーケットの意表を突いたと思います。

実際、為替市場は久しぶりにワイルドな展開を示し、思わぬ損を出した投資家も多かったと思います。

さて、ヘッジファンドの視点からすれば一番オイシイのはこのように膠着していたマーケットがちょっとしたきっかけでひとつの方向へ転がり始める瞬間です。

だからきっかけは何でも良いのです。

今回のダウングレードをきっかけとして、目先、勝つ者と負ける者が出てくる、、、

その傷を舐めている連中をぶっ叩いて、さらに自分が利益を得るチャンスがあるかどうか?、、、マーケットは主にそれを考えながら動くのです。

つまり投機筋のサド(S)の性癖がムックリと頭をもたげる瞬間がいま我々が置かれているような状況です。

するとこれまで均衡していたステータス・クウォーは崩れ、市場は次の自然なおさまりどころが見つかるまで走り始めます

早期の段階でそれを喰いとめる事が出来れば大事には至りません。だから僕が政策担当者なら、いますぐに投機の芽を摘むことに集中して取り組みます。

でも投機筋の増長を許したら、、、

後は天を仰いで祈る以外にありません。

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既に語り尽くされた事だけど、これからの我々の処世術を考える上で根本になる事なので、日本の置かれている状況を簡単に振り返っておきます。

まず政府の純負債は下のグラフのようなペースで伸びてきました。
政府の純負債

(出典:IMF)

日本は1980年代のバブルが弾けた後を境にして以降、ずっと政府の純負債が増えています。一方アメリカは2008年のリーマン・ショックの後に借金の増え方が加速しました。なおここでの純負債とは例えば日本政府の出した国債を国の年金ファンドが購入しているなどの売り手も買い手も政府である場合を相殺した、ネット・ベースの数字だと考えて下さい。

それではグロス・ベースではどうなっているかというのが次のグラフです。
政府負債グロスベース

(出典:IMF)

さっきのグラフでは日本の純負債は130%でしたがここでは230%に増えています。また米国は70%だったのがここでは100%へ増えています。

いま青は10年前の水準、赤は現在を示しています。

すると日本、イギリス、米国あたりの悪化のペースがひどいことがわかります。その反面、新興国は負債比率が上昇していないことが読み取れます。

ある国の経済が健全に成長しているときは税収も伸びます。すると国の借金の返済もしやすいわけです。このように内容からすれば新興国の方が良く、先進国は中身が悪いです。

ところがいま新興国の債券の利回りをみると軽く10%を超えるところもあります。日本の10年債の金利が1%余りであることを考えると為替のリスクを考慮しても新興国の債券の方が魅力があることがわかります。

これはいろいろなリスクをもたらします。まずブラジルなどの高金利国には先進国からお金が飛び込んでくるのでインフレを招く恐れがあります。

また通貨が強くなる可能性があるので輸出競争力が減退する可能性があります。

翻って日本などでは国債の買い手がソッポを向くことで国の借金の借り換えがはかどらないリスクがあるわけです。つまりすべては日本の投資家が今後も利回り面で魅力の無い国内債を買い続けてくれることにかかっているわけです。


さてそれではなぜこんなに内容が悪い日本の債券に対する投資家の信頼が崩れていないのか?という点ですが、これにはいくつかの説明ができると思います。

ここまでは国の借金をみてきたわけですけど、いま民間部門の負債を考えた場合、日本は突出して悪いというわけではありません。
民間部門負債

(出典:IMF)

いまアイルランドやスペインはこのグラフに見られるように民間銀行が不動産デベロッパーなどに貸し込み、その後で不動産バブルがはじけたので政府がその尻拭いをする必要が議論されています。

このように民間部門での信用市場の環境が激変したのが欧州周辺国での問題の一因になっているのです。その点、日本ではそのような急激な環境変化は起こっていません。

もうひとつの要因として日本の場合、債券を買っているのは大半が国内の投資家であり、移り気な外人投資家への依存度が低いことが指摘できます。
GDP規模と比較した債券市場

(出典:BIS)

この説明として日本では1990年頃まで資本規制があり、年金などの機関投資家などを除いては海外へ大きなお金を持ち出す際は日銀への届け出が必要だったり、いろいろ規制がありました。

その関係で日本の投資家は国際分散投資の歴史が浅いという特徴があります。

また資本取引が完全自由化された以降は日本が不景気で世界水準からみて債券利回りの面で魅力が無かったのでガイジンは日本の債券には見向きもしなかったということが指摘できます。

また円高基調だったことも日本の投資家の海外投資を躊躇させた理由になったと思います。

日本の高負債体質が維持できるかどうかは日本の国内金融機関が国債を買い続けることが出来るかにかかっています。

日本の金融機関が国債を買い続けられるかどうかは、「それに投資することで、損が出ない」ことが大前提となります。

その点、1980年以降、先進国の長期金利はずっと低下傾向にあったので債券は長期でみるとずっとラリーしてきたと言えます。つまり「国債買って、クビになった奴はいない」という事がわれわれの世代の「常識」になっているのです

今後もこの常識が通用するならば、大事には至らないと思います。

でも若しルールが変わるのなら、、、

サブプライム問題が起きた時、会社存亡の危機に瀕しなかった米国の大手金融機関はJPモルガンとゴールドマン・サックスだけでしたが、かれらに共通するのは「足抜き」する初動が素早かったという点です。

日本の金融機関はこの教訓を忘れてはいけません。