ニューヨーク・タイムズのトーマス・フリードマンは例の『フラット化する世界』を書いたジャーナリストですが、彼の記者としての振り出しはレバノン内戦をリポートすることでした。

彼の考え方には賛成意見もあれば反対意見もあると思うけど、一般人に中東で何が起きているかを噛み砕いて説明させれば彼の右に出る者は居ません。

そのフリードマンは今回のチュニジア、エジプト、イエメン、ヨルダンと野火のように燃え広がっている反政府デモに関してはこれまでコメントがありませんでした。

「どうしちゃったんだ?フリードマンは」

そういう読者の声に応えるかのようにフリードマンの論説がラマラから寄せられました。

以下はその抄訳:

僕はテルアビブのホテルで退役したイスラエルの将軍とインタビュー中だ。
僕が着席するなり彼は開口一番こう言った。
「どんなもんだね?我々が30年間構想してきた中東に関する考え方は一瞬にしてパアだね。」
このひとことが現在のイスラエルの関係者の心情をすべて言い尽くしている。
それはつまり眩暈がするほどのショックであり、また驚愕である。

イスラエルとエジプトが結んだ和平協定は過去35年間続けてこられた中東の外交努力の全ての礎だったのであり、それがいま、プイッと消えてしまいそうになっているのだ。これは喩えて言えばアメリカ人がある朝起きてみるとメキシコとカナダの両方が革命の炎に包まれていたというのと同じくらいのショックだ。

テルアビブ大学のマーク・ヘラ―は「世界を繋ぎ止めていた全部の錨が切れてしまった。しかも中東が核武装化の波に晒されようとしているときにだ」と説明している。

イスラエルにとって正念場のときが来た。だから彼らの不安はわからないでもない。

しかしエジプトで起こったことを見て「だからパレスチナとも和平を結ぶのは無駄だ」と性急な結論に至るのは間違っているし、キケンだと私は思う。

イスラエルの味方をしたムバラク大統領が各方面から怨嗟を受けることはある意味当然だ。おおきくて困難な意思決定を下すベストのタイミングは自分の影響力が最大限に強いときだ。
なぜならそういうときは自分の考えがスッキリまとまりやすいし、敢然と動くことが出来るからだ。でも過去20年ほどはムバラク大統領にはエジプト経済を改革し、ムスリム同胞団と自分の子飼いの抑圧的な勢力の間を行く中道の政治勢力を育てるチャンスがありながらその努力を怠った。

ムバラクはわざとこの「中間地帯の真空」を維持したのだ。

その狙いは「アンタはオレを選ぶか、さもなくばムスリム同胞団をえらぶかの、どっちかだ」と言えるようにしておきたかったからに他ならない。

いまムバラクが慌てて政治改革をしようとしてもぜんぜん空回りしているし、既に手遅れだ。

イスラエルのナヤニエフ首相も今回の和平の話し合いの過程で「ムバラク化」する恐れがある。
なぜならイスラエルはパレスチナ人との交渉においていままで一度たりとも本当の交渉力を持ち得なかったからだ。しかしナタニエフはああだこうだと言い訳を繕っては実のある和平計画を提案することを避けてきた。アメリカはそれをよく知っている。そしてアル・ジャジーラが最近パレスチナ人の裏交渉の詳細を暴露したお陰で道のりがどれほど遠いかは皆にバレてしまった。

いまのパレスチナのリーダー達がイスラエルとなんらかの合意に至るだけのチカラを持っているかといえば、私には疑問だ。ただ、これだけは言える。イスラエルは今のパレスチナのリーダー達とどこまで話し合いを進められるか駄目モトで試してみる価値はぜったいにあるということだ。

それはなぜか?


エジプトやヨルダンのリーダーが反政府デモの火消しでかかりきりになっているということは、この2つの国になにが起ころうともイスラエルの数少ない友人であるこれらの国の穏健派のチカラは弱まるということだ。問題はムスリム同胞団などの勢力がどれだけ伸長するかにかかっている。

だから今後のエジプトの政府がどんなカタチになろうとも、エジプトはムバラク大統領がイスラエルに対して示したような寛容や忍耐は持ち合わせないだろう。それはヨルダンの新内閣も同様だ。

イスラエルとパレスチナの話し合いはエジプトやヨルダンでのデモとは無関係だ。だがそれらの国で起こっているデモはイスラエルとパレスチナの間での話し合いに影響を与えざるを得ない。

(中略)

私は前にナタニエフ内閣にはもう愛想を尽かしたので米国政府は交渉の場を離れるべきだと論じだ。だけどそれはBE、つまりエジプト革命が起こる前だ。いまは考えが変わった。

オバマ大統領はイスラエルとパレスチナを仲介する新しい和平プランをすぐに提示し、両者を交渉のテーブルに着かせるべきだ。

いまイスラエルという国を非正当化しようとするグローバルな機運が高まっている折、イスラエルは早くアラブ諸国で起きている反政府デモのストーリーから自分を切り離して独自に動き出さないといけない。

イスラエルよ、ものすごい暴風雨がせまっている。はやく避難することだ。