ストラトフォアは日本では無名だと思うけど、新しいタイプの地政学コンサルタントです。

同社は主に公開情報を徹底的に蒐集し、それを分析することから世界の地政学リスクを分析しています。

またサブスクリプション・モデルを採用しており、一般の企業や個人の読者からの購読料で成り立っています。

その読者の大半はヘッジファンドだと思います。

ストラトフォアの予測は当たる時もあるけど、外れる時もあります。

でも他のアメリカのシンクタンクのように特定の世界観(たとえば保守とか宗教とか)に偏った見地から色眼鏡で世界で見ることはしません。

あくまでも「当たってナンボ」というシビアな商売なのです。

だからカクチョーは高くないけれど、次々に状況を判断してゆかなければいけないときは、一定のメリットがあります。

以下は『バロンズ』の記事の抄訳:

『バロンズ』:中東で反政府デモが荒れ狂っているが?

フリードマン:皆が騒いでいるような大きな含蓄は無い。例えばヨルダンだがアブドラ国王は2年毎に内閣を入れ替えている。だから今回の入れ替えだって特別な事ではない。チュニジアはマイナーな国だしアルジェリアのデモも小さかった。イエメンのデモはなんとか収拾している。

『バロンズ』:でもエジプトは大きい気がするが?

フリードマン:エジプトについては、「様子見」というところだね。ひょっとするとエジプトの政府や政策も結局余り変わらないというシナリオだってある。

3つの可能性がある:

1.ムバラクが辞任する(これが可能性としては最大)
2.ナセル大統領が1956年に打ち立てた、世俗的、国粋的な政体が崩れる
3.ムスリム同胞団が実権をにぎる

いま反政府デモをしている人々が要求しているのは1.だけだ。
デモをしている人たちは明らかにエジプト軍を支持している。

ストラトフォアが今回のエジプト革命が起きる以前に掴んでいた情報としては、エジプト軍が「そろそろムバラクには隠居願おう」と考え、画策していたということだ。だからある意味でエジプト軍は群衆と同じキモチなのだ。

『バロンズ』:でもムバラクはもともと軍の出身だ。なぜエジプト軍はムバラクに不満を持っているのか?

フリードマン:結局、彼の治世が長すぎたということだね。ムバラクは病気持ちだし、どのみち長くない。エジプト軍の幹部はムバラクが死ぬ前に新しいリーダーを据えたいと考えていた。突然ムバラクが死んでエジプトが混乱するといけないからね。今回の反政府デモでハッキリしたことは国民はムバラクの息子、ガマルが大統領になることは歓迎していないということだ。エジプト軍はエジプト社会の屋台骨であり、「ならずもの集団」ではない。つまり私が言いたいのはエジプトの蜂起は東欧革命の時のような政治システム全体を揺るがす危機ではないということだ。

『バロンズ』:欧米ではムスリム同胞団の勢力が伸長する可能性を危惧する声があるが?

フリードマン:その危険性はある。しかし群衆はムスリム同胞団を据えたくてデモをやっているのではない。ところでムスリム同胞団に関しては私には考えていることがある。長い歴史の中でムスリム同胞団はとても用心深い態度を取るようになった。また組織も分裂している。これはムバラク政権によって長年締め付けられてきたことの結果だ。だからムスリム同胞団が昔のように急進的な存在なのかどうかはハッキリしない。いまの時点では若し今後選挙が実施された場合、ムスリム同胞団が選挙に勝てるかどうかすらもあやしいと思う。いまのエジプトの革命をイスラム革命だと思ってはいけない。もしイスラム革命なら軍隊は群衆を支持しないし、デモの参加者の中に自由民主的なリーダー達が混じっているのもおかしいからである。ムスリム同胞団は現在のエジプトを支えている三脚の足の中でいちばん脆弱な存在だ。


『バロンズ』:エジプトで今後イスラム勢力が力を得て、反米主義が強まる可能性は?

フリードマン:アル・ジャジーラはそのテーマをプッシュしようとしているね。その一方で西側メディアはそもそもカイロに十分な取材力を配備していなかったので事態をちゃんとフォローできていない。

『バロンズ』:エジプトが1979年のイラン革命のようになる可能性については?

フリードマン:エジプトの状況は当時のイランの状況とは異なるだろう。ムバラク政権はムスリム同胞団を弱体化することにほぼ成功した。またムスリム同胞団の手下がサダト大統領を暗殺してからというもの、ムスリム同胞団の内部でも過激派と穏健派に分裂が起こった。イランのホメイニ師は庶民やビジネスマンから草の根の支持を得ていた。現在のムスリム同胞団にはホメイニ師に相当するようなリーダーは居ない。またエジプトの実業界はイスラムには余り興味がない。だからムスリム同胞団も余り支持を得ていない。エジプトで一番足腰がしっかりしている組織はエジプト軍だ。デモ隊はエジプト軍を尊敬している。だからエジプト軍出身の新副大統領、オマール・スレイマンが大統領になることにはそれほど抵抗は無いだろう。

『バロンズ』:モハメド・エルバラダイはどうだろう?

フリードマン:わからない。わからない理由はエジプト軍が誰を大統領に推すかがいまの時点では不明だからだ。エジプト軍は慣例として政治面での水面下の駆け引きでは極めて静かに物事を進める。次のリーダーを選ぶにあたって、エジプト軍が軍関係者を推さない理由は無い。それと強調しておきたいのは現在のエジプト軍はムバラク政権がエジプトをこんな状態にしてしまったことにとても腹を立てているということだ。エジプト軍はかなり前から「ムバラクは長く居座り過ぎだ」とこぼしていた。エジプト軍はムバラクがエジプトをシリアのような世襲政治にすることを大変嫌っていた。エジプト人は自分達のことをシリアとか(フセインの)イラクみたいな独裁国とは大違いで、政治的に洗練された国民だと自負している。カイロはイスラム圏では最も宗教の自由が保障された都市であり、長年、そういう自由闊達さを堅持してきた。だから1979年のテヘランとは大違いだ。

『バロンズ』:あなたはイランの核兵器保有能力に関しては懐疑的だったが?

フリードマン:なぜなら核兵器を完成されることは技術的にとても難しいことだからだ。イランはまだまだその域に達していない。イランは初歩的なウラン濃縮技術でも苦労しているのだから、ましてや核弾頭をミサイルに積んで発射するのは当分先になる。

『バロンズ』:それではイランは脅威ではないのか?

フリードマン:そういう意味ではない。イランは依然、我々に取って問題だ。なぜならイランは中東では最大の軍隊を持っているし、サウジアラビアをはじめとする産油国に大きな影響力を行使できる立場にあるからだ。アメリカがイラクから全部の兵力を引き揚げた時、イランの影響力は問題になる。イランの立場からすればエジプトがサウジアラビアと余り近くなると困るだろう。なぜならそれはイランのペルシャ湾支配の構想の実現が難しくなるからだ。

『バロンズ』:あなたは近著の中で米国とイランはお互いに嫌っているにもかかわらず国交を回復せざるを得ないだろうと予言しているが?

フリードマン:アメリカがイラクから兵力を引き揚げるとどうしてもイランの影響力は強くならざるを得ない。当面、アメリカはアフガニスタンやその他の地域に集中しないといけないのでイランと外交上うまくやる必要が出る。若しイランを空爆すればイランはホルムズ海峡を機雷封鎖するので世界の原油の45%は供給不能になる。そんなことになれば世界経済はおしまいだ。一方、イランの立場から物事を見れば、イランを挟み撃ちするカタチで米国軍がアフガニスタンとイラクの両方に展開するという構図は気持ちの良いものではない。

『バロンズ』:イスラエルの立場はどうなる?エジプト軍はキャンプ・デービッド合意を反故にしてシナイ半島に進軍するだろうか?

フリードマン:それは無いだろう。エジプト軍の装備は100%アメリカ製だ。だから自前でアメリカに頼らない装備にやりかえることは今となっては不可能だ。若しエジプト軍がシナイ半島で何かやらかしたら、イスラエルとアメリカは黙っていないだろう。