原油価格が高騰しています。

そこで増産云々が議論されています。

でもオイルサンドのあるカナダを除けば今の世界の産油国で大きな増産余力を持っているのはサウジアラビアだけです。

そのサウジアラビアにしても増産をするインセンティブはゼロに近いです。

増産するくらいなら、単なるトークアップ(口先介入)だけにとどめる方が遥かに良いと彼らは考えるはずです。

なぜか?

まず現場の声という問題があります。

油田からの生産は長期的な視点から最も効率よい方法ならびに汲み出しのペースをいろいろシュミレーションして、最適な方法で粛々と行われます。

だから市況やオーナーの気分ひとつで生産計画が変わったりはしないのです。

途中での生産計画の変更は油田に甚大なダメージを与えるリスクをもたらします。

これは喩えて言えば50階建てのビルを20階まで建てた途中で、70階建てのビルに設計変更するような行為であり、エンジニアはすごく嫌がります。

また世界がいま必要としている玉(ぎょく=油種)と、どの国がそれを供給できるか?という問題も無視できないと思います。

今回、供給の中断が懸念されているリビア(赤)の原油は世界の原油の中でも最もスウィート(=硫黄分が少ないこと)で、なおかつライト(=軽いこと→APIグラビティと呼ばれる、原油の「粘性」の数値が高いこと)です。
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するとリビアが空けた穴をサウジが「ホレキタ、ヨイショ!」とすぐに穴埋めできるかと言えば、これは出来ないのです。



サウジアラビア(緑)の石油は硫黄分含有率が高く、しかもAPIグラビティの数値は低いです。

いま仮にサウジアラビアの原油が特定の仕向け地(たとえばリビアの原油の最大の買い手はイタリア)に直接運び込まれるのであれば、そのサウジからもたらされる玉が消費地のインフラストラクチャの実情(サワーな原油を処理できるかなど)に合致している必要があります。

ちなみに国際標準は米国の場合、ウエスト・テキサス・インターメディエーツ(WTI)と呼ばれる指標銘柄であり、硫黄分含有量やAPIグラビティには厳格な標準(Standard)があります。

英国の場合、北海ブレントになるわけです。

それらはグラフ中、黒でしめしておきました。

サウジアラビアはつい最近、原油のスワップ市場でのプレゼンスを高めました。だから先日サウジが「リビアの空けた穴はウチで埋められる」と発言した真意はデリバティブ市場からシンセティック(合成的)に必要な玉をデリバー出来るという意味なのではないかと僕は理解しています。

米国の場合、カナダからたくさん輸入しています。
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カナダは豊富なオイルサンドをもっており、原油価格が85ドルを超えると急に採算性が改善するので供給がどんどん拡大する仕組みになっています。

米国の場合、中東・北アフリカへの依存度は18%とあまり高くありません。

今後電気自動車が普及するともっと下がることが予想されます。

米国では最近沢山天然ガスが発見されています。所謂、シェール・ガスとよばれる岩盤の下に閉じ込められた天然ガスを回り込んで取る方法が開発され、いままで食い散らかされていた取り残しの天然ガスが全部取れるようになったのです。

このため天然ガスの市況は急落しています。

アメリカの発電所は天然ガスと石炭で動いています。天然ガスがどんどん出るということは安く発電できることを意味し電気自動車の普及にとって良いことです。

つまりサウジアラビアがどんなに原油価格を低く抑えて消費者の「石油離れ」を食い止めようとしてもアメリカで起きているシェール・ガスのブームならびに電気自動車への移行は食い止められないということなのです。

さらに言えば「サウジの長期的な利害は原油価格を安定させることだ」という価値観はもともとサウジ・アラムコが考え出した長期ビジネス戦略であり、当時のサウジ・アラムコの大株主であるシェブロン他のアメリカ企業の利害を代弁したものでした。

いまサウジ・アラムコは完全なサウジの国営企業となっており、アメリカ資本は一掃されています。

だから「安定的に安い原油を供給して欲しい」というアメリカの都合をサウジ政府が遵守する必要は無いのです。