さて、前回は長期投資派のストラテジーが基本的にはアップワード・バイアスという仮定に甘えていることを説明しました。

アップワード・バイアスが存在する投資環境では「誰もが儲かる」のです。

この「誰もが儲かる」という言葉はとても誘惑的です。

なぜなら「それなら僕にでも出来るのか?」という希望を抱かせるからです。

実際、市場に強いアップワード・バイアスがかかっているときは誰もが儲かります。

「強気相場と自分の才覚を混同するな」というウォール街の格言がありますが、そのような状況下では誰もが(自分は相場の天才だ)と錯覚するのです。

しかしひとたび投資環境からアップワード・バイアスが消えてしまえばどうなるでしょうか?

こんどは「みんなが損する」煮ても焼いても喰えない相場が来てしまうのです。

このように「市場が上がるから、自分のポートフォリオも上がった」あるいは「市場が下がったから、自分のポートフォリオでも損が出た」という現象を難しい言葉では「ポートフォリオのβ(ベータ)」と言います。

つまり相場に勝った、負けたは自分の才覚によるのではなく、ただマーケットそのものが上がったり、下がったりしたからに他ならないという部分です。

これに対して「マーケット自体は下がったけど、自分の投資先はちゃんと上がっている」という場合も当然存在すると思います。このようにマーケット全体の動きでは説明できない投資結果の差のことをアルファ(α)と言います。

ヘッジファンドは相場環境が良い時でも悪い時でも利益を出さねばいけないという前提ですから、その意味では「ヘッジファンドとはアルファの追求である」という風に形容することが出来ると思います。このような自分の才覚で勝つことをスキル・ベースト・ストラテジー(=投資スキルに依拠する投資戦略)と呼ぶ場合もあります。

そう言うとヘッジファンドは何か素晴らしいもののように感じる読者もいるかも知れませんが、要するに下げ相場でもヤラレにならないように保険をかける(=ショートする)わけだから、絵にかいたような上昇相場の場合、多くのヘッジファンドはその保険分だけパフォーマンスが悪くなるのです。

強烈な上昇相場で大半のヘッジファンドがマーケットに負けるのはそのためです。

さて、アップワード・バイアスのある世界では「みんながハッピーになれる」という、ある種、ユートピア的な環境であることは説明しました。

しかしアップワード・バイアスが無くなった瞬間に、「みんながヤラレる」、悪平等的な世界が到来するのです

この痛みを大半の市場関係者はタイムホライズン(=時間軸)という発想転換で和らげようとします。

つまり「今は下げ相場局面だけど、株は長期に持てば儲かる。だから今は辛抱しないといけない。それに周りを見てみろ、みんなヤラレているではないか?」

この「みんなが苦しんでいるのだから、自分が苦しむのは当然だ」という発想は素晴らしい鎮痛剤であり、この論法は金融サービス業に携わる者が最初にマスターするトリックです。

つまり市場のせいにするということです。

さて、投資の世界が全てこのようなベータの世界かと言えば、それはそうではありません。

いや、敢えて言えば最近は益々「ベータの世界では無くなっている」と言えます。

つまり絶対リターンという価値観が占める割合が増えているのです。

デイトレの世界はそのような絶対リターンの価値観のひとつです。


そこでは以前に説明したようにゼロサム・ゲームが展開されています。

ゼロサム・ゲームではごく一握りのサバイバー(残存者)が大半の利益を手中にします。

つまり不公平で不平等な世界なのです。

だからデイトレーダーを目指す人は多いけど、大半の人は落伍します。

その代わりデイトレで勝てるスキル(上での「スキル・ベースト・ストラテジー」の議論を思い出してください)さえ身につければ、強気相場が来ようが、弱気相場が来ようが、マーケット全体の方向性に関係なく利益が出せるのです。

まとめれば:

株式投資、投資信託=平等ないしは悪平等
デイトレ=不公平、不平等


ということになります。

これはどちらが良いとか悪いという問題ではなく、個人の好みの問題だと僕は思います。

さて、デイトレはゼロサム・ゲームの世界ですが、そこでは主にFX、CFD、先物の3種類のツールが利用されます。

なぜCFD、FX、先物が多用されるのでしょうか?

それはこれらのツールがいずれもレバレッジを利用しているからによります。

レバレッジとは「てこの原理」であり、小さい証拠金を元手にその何倍もの建て玉をたてさせてくれることを意味します。

このため少しの価格変動でも投資結果に大きな違いが出ます。

ほんの小さな利食いでもレバレッジが10倍ならその利益は10倍になるのです。

逆にほんの小さなヤラレでもレバレッジが10倍なら損害は10倍に広がります。

するとこの「勝ち」や「負け」の確率をどう管理するか?という技術の方が相場観より重要になってくるのです。

つまり勝ち負けを左右対称(シンメトリック)な世界からどうやって非対称(アシンメトリック)、つまり勝つときはなるべく多く勝てるようにし、負けるときはその負けをなるべく小さく食い止めるか?という技術です。

なるべく勝ちを多くするためには:

1. そもそも勝つような方向へ賭ける回数を増やす
2. 負けたときの処理を迅速にする

という2つのアプローチがあり、その両方とも重要です。

具体的には勝つような方向へ賭ける回数を増やすための準備としてトレード・プランを立てるということがよく言われます。ニュースを調べたり、チャートを見たりすることがそれに相当するわけですが、パイロットの飛行計画のようにその日一日のフライトプランを立てるわけです。

今日の指標発表には何があるか?指標の発表の前に出動するのか、それとも後にするか?という戦略を立てるわけです。さらに他の人はどう考えているかを考えてみることも大切でしょう。そのためにはコンセンサス予想がどこにあるのかを知る必要があります。

デイトレの世界では強気相場か弱気相場か?という問題は比較的重要ではありません。むしろ市場のボラティリティ(荒っぽさ)が大事です。

これはなぜかといえばボラティリティが少なすぎる環境では凪の状態でウインドサーフィンの帆を立てるのと同じになってしまうからです。その場合、取引コストの分だけ確実に損します。

また短期でのトレーディングではマーケットの自然な上下動のアヤに引っかかって、相場の方向性を当てるという面で自分が正しかったにもかかわらず、損切りの逆指値に引っかかってロスを出すということもしばしばあります。

すると自分の勝ち目(=オッズ)が60%だとすると、残りの40%の確率では負けるわけですから、その40%が先に来た場合、一挙に「退場」ということにならないように1回で賭ける金額を調整し、投資資金を温存するスキルも必要になります。

これらのことを見てくるとデイトレというのは偏差値に代表される数理的なゲームの面が強く、むしろ日頃から懐疑的かつ研究肌の人に向いている投資活動だということが理解いただけると思います。

ただエキサイティングさを求める人にはデイトレは向いていません。

射幸的な事が好きな人がデイトレをやるということはラスベガスに行くのと同じです。それは樹海への直行便です。

自分の過去の無駄なトレードをどれだけ減らし、次にどれだけタイミング良く入るか?そういう細かいカイゼンをこつこつと積み上げ、クールに振る舞えるエンジニア肌の人だけが成功するデイトレーダーになるのだと思います。