Suits: A Woman on Wall StreetSuits: A Woman on Wall Street
著者:Nina Godiwalla
Atlas(2011-02-28)
販売元:Amazon.co.jp
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★★★★☆(評者)広瀬隆雄

著者、ニーナ・ガディワラは大学生のときJPモルガンのインターンとして生まれて初めてニューヨークに来ます。

ヒューストンを出るとき両親から「NYの地下鉄はこわいぞ」と言われていたのでミッドタウンからダウンタウンのJPモルガン本店まで歩いて出社しようとするのですが、、、

ハイヒールが排水孔に刺さって立ち往生してしまいます。

声の限り助けを求めると血だらけの包丁を持った魚屋さんが現れて、、、

■ ■ ■

ウォール街を描いた本ではマイケル・ルイスの自伝的な作品、『ライアーズ・ポーカー』が有名です。あの本が出たのは1989年ですからもう20年以上も昔になるわけです。

就活をする米国や日本の大学生に『ライアーズ・ポーカー』が与えた影響はとても大きかったのではないでしょうか?

本作は『ライアーズ・ポーカー』を彷彿とさせます。

『Suits』は大学を出たばかりの新入社員が投資銀行で悪戦苦闘するという点では共通のテーマを扱っています。

『ライアーズ・ポーカー』がトレーディング・フロアの、けだものの様なトレーダー達の生態を活写していたのに対し、『Suites』の方は新人がやらかしがちな恥ずかしい失敗や不安、トキメキ、新人同士の低次元な自慢し合いや醜いバトルなどウォール街に放り込まれた若者の誰もが経験するごく個人的なことがらを中心に扱っています。

その意味では『ライアーズ・ポーカー』に散見された、業界に関する洞察は『Suites』には見られません。

しかしニーナ・ガディワラの作風は極めて飾ったところがなく、自分のカッコ悪い瞬間を次々に告白していて全編を爽やかな笑いで包んでいるのです。

一歩まちがえば「チック・リット(若い女性向けの他愛のない小説)」と大差ない世界になってしまうのですが、現代の米国の投資銀行でマイノリティからマジョリティへとどんどん勢力を伸ばしているエスニック系プロフェッショナル(ニーナはイラン系インド人でゾロアスター教徒)達がウォール街でぶち当たるカルチャー・ショックという、ある意味でこの業界の最先端の問題を扱っているという事がかろうじて「甘さ控えめ」にしています。

世界でニューヨークだけが持つゴージャスな雰囲気、投資銀行の仕事場のドキドキするような高揚感、その競争の厳しさ、、、

そういう世界を垣間見たいという人には最適の一冊。