リビアで内戦が勃発した際、サウジアラビアが「我々が増産するから、心配するな」という声明を出しました。

ジム・ロジャーズやマーク・ファーバーらはすぐに「増産するわけないし、増産できない」とこのサウジアラビアのリップサービスを一笑に付しました。

僕も彼らの意見に賛成です。

石油のビジネスで最も難しいのは如何に油田を傷めずに最も効率よく、長期的に見て最も安上がりに原油を汲み上げるか?という事です。

strawこれはちょうど氷が沢山入ったグラスのジュースを音を立てずに最後までストローで吸い上げるのと似ています。

油田は発見されて間もない間は地下に閉じ込められた原油がたっぷりあるし、圧力が高いので油井を挿しこむだけで「ぷしゅっ」と原油が噴き上がります。

しかし暫く生産を続けると油田自体の圧力は下がって来るのです。

普通、原油を採取して出来た隙間には地下水が流れ込むことでそれを埋め、言わば「1階部分が水、2階部分が原油」という二層が形成されるのです。(原油は上へ、上へと押しやられます)

従って自然に地下水が原油生産で出来てしまった地下の「気泡」を満たし、原油を押し上げてくれるのを気長に待てば、その油井がドライになる、つまり干上がってしまうことはありません。

しかし生産のペースを上げすぎると地下水の滲入が間に合わず、突然、「空回り」しはじめるリスクがあるのです。

これは喩えて言えば余り勢いよくジュースをストローで吸うと音を立ててしまうのと似ています。暫く氷が解けるのを待てば音を立てずにお行儀良く振る舞うことが出来ます。

実際の油田では原油が取れなくなってしまう前に汲み出した原油に占める水の割合(含水率=ウォーター・カットといいます)が高くなりはじめます。


含水率の上昇は危険シグナルです。

またそのようにくたびれてきた油田では汲み出し時に含まれる天然ガスの比率が上昇することもあります。

油田の圧力自体が低下しはじめると今度はもうひとつ別の縦抗を掘って、地上から地下に水を高い圧力で注入(=ウォーター・インジェクション)することで油田全体の圧力が低下しないようにするのです。

サウジアラビアにおけるウォーター・インジェクションはすでに1950年代から試み始められています。世界最大の油田であるガーワーでは1978年から海水をパイプラインで運んできて注入することが行われています。(=サウジアラビアは砂漠なので水が乏しいから)

さて、サウジアラビアの油田はもともとシェブロン(当時はソーカル)などのアメリカ資本によって所有、開発されてきました。時間を経るごとに油田の所有権がサウジアラビア政府へと移って行ったのです。最終的に100%国有化されたのは70年代です。

サウジ・アラムコ(=米国とサウジの石油JV)の関係者は「そろそろ油田が100%サウジ政府に接収されそうだ」と考え、そうなる前に自分の利益を最大化するために汲み上げるペースをUPしました。70年代初頭の事です。

この結果、サウジの油田がアメリカからサウジへと引き渡された時には油田が傷んでしまっており、油田の生産性が急降下したのです。(この意図的で破壊的な増産については1970年代のニューヨーク・タイムズの腕利き記者、シーモア・ハーシュが暴露記事を書いています。)

1973年にサウジアラビアを中心とするOPECがカルテルによる生産制限を発表したとき、ミルトン・フリードマンら経済学者は「カルテルは抜け駆けする奴が必ず出るから、成功しない」と主張して大恥をかきました。

でも一握りの米国の石油業界関係者はこのOPECの発表の意味するところをよく理解しました。なぜならアメリカがガーワーから去ってゆくときに「乱獲」した油田をゆっくり休める必要があるのでOPECのカルテルは単なる口先の脅しではないことを知っていたからです。

貴重な油田を傷めることなく生産のペースを上げるには、いちばん手堅い方法は未だ手つかずの油田にやぐらを立てることです。

そのような新プロジェクトは外部の人間でもよく注意して観察していればわかることです。

サウジが増産するかどうかは、新しい油田開発に着手しているかどうかで測るのが一番保守的な測定方法です。(最近では2008年の原油高の時、新しい油田開発への着手が発表されています。)

いずれにせよエアコンの温度調節の目盛を上げたり下げたりするような調子で石油が増産できないのは上の説明で或る程度わかって頂けたかと思います。