硬派の長期投資シリーズ企業が決算発表したとき、皆さんはニュースのどこを見ますか?

大部分の投資家は売上高が予想を上回っていたか、さらに収益が予想を上回っていたかどうかの2点に注目します。

売上高や収益の数字が投資家から注目されているということは、逆に企業の側からするとこのふたつの面では「なにがなんでも予想数字を達成したい」というインセンティブが働くことを意味します。

このような動機付けは往々にして無理して数字を作るプレッシャーを与えます。

昔、アメリカにディスクドライブの会社でミニスクライブという会社がありました。

ミニスクライブは1985年に業績が悪くなった際、ベンチャー・キャピタルであり、かつ投資銀行のハンブレクト&クィスト、略してH&Qから資本注入を受けました。

(なお、公正なディスクロージャーの為に断っておくと僕はH&Qに勤めていました。但し僕が勤めたのは事件の10年後、1996年から2002年までです。)

さて、スキャンダルの発端は当時経営が苦しくなっていたミニスクライブにH&Qが2000万ドルを出資し、同時にH&Qの役員だったQTワイルを送り込んだことから始まります。

QTワイルは所謂、企業リストラの専門家でそれまでに幾つもの企業の再生に成功し、ドクター・フィックス・イットという異名をとっていました。

彼のマネージメント・スタイルは容赦ない厳しいスタイルで部下からは「べトコン」という風に恐れられていました。

彼は即座にミニスクライブの従業員の5分の1を解雇し、無理な売り上げ目標を社員たちに課し始めます。

数字を出せない社員は他の社員の前で徹底的にこきおろされ、その場で解雇されてゆきました。これがいわば恐怖政治的なムードを作ってゆきました。

同社の社員は何とか四半期ごとの営業目標を達成しようともがくわけですけど、1980年代半ばのハイテク業界は景気が悪く、他社の業績もおしなべて悪かったです。

そういう苦しい環境の中でミニスクライブの社員たちはチャンネル・スタッフィングと呼ばれる営業成績ごまかしの常套手段を使い始めるのです。

例えば顧客が注文した数より多いディスクドライブをわざと出荷し、その数字を売り上げに計上してしまいます。

顧客は「あれ、注文していない分まで来たよ」という風に文句を言うと「どうもスミマセンでした。」と謝るわけです。

顧客が「それじゃ、余分なドライブは送り返すから」と言われると「あ、いいですよ、急がなくても」と返品が戻ってくるタイミングが四半期会計の〆の日をわざと跨いで、来期にかかるようにするわけです。

また、ハイテク機器の場合、不良品があれば当然それは送り返されるわけですけど、生産が間に合わない場合はその返品されたドライブをまた突き返されると知りながら出荷数字の辻褄を合わせるために再度出荷するということもやったわけです。

なお、ここで本来あるべき会計の姿を言えば企業はある程度返品があると思われる商品を作っている場合は返品に対して引当金を取るのが正しいし、そもそもそれ以前の問題として顧客がちゃんと製品を受領し、メーカーとしての責任を全うするまでは本来なら売り上げに計上すべきでないのです。

こうやって突き返された不良品を再び出荷し、それがまた突き返されるという漫才みたいなやりとりが何度も続いたわけです。

そして顧客の側でもう梱包を開けることすら面倒になったのを良いことにミニスクライブの社員は生産が間に合わなくなったあるときダンボールにレンガを詰めて出荷してしまうのです。

「どうせ梱包が解かれずにまた突き返されるだろう」という読みから、こういう不正をやったわけです。

ところが顧客がたまたま開けたダンボールからレンガが出てきて大騒ぎになります。

それまで現場の悲鳴を無視してムチャクチャな営業目標を課してきたQTワイルはまさか現場が苦し紛れにこんなことまでやっているとは露知らず、ショックの余りひきこもりになってしまいます。

また公認会計士事務所は訴えられました。

資本出資、役員派遣していたH&Qも株主代表訴訟で敗訴し、賠償金の支払いで倒産寸前の危機に追い込まれます。

これがストーリーのあらましですけど、そこで本題に入って、そもそもこのミニスクライブの問題で気が付く点を挙げてみるとキャッシュ、つまり現金の授受が無いままにミニスクライブ側では見切り発車で売上高を計上してしまっていた点に注目したいと思うのす。

或る会社が決算で売上高を計上したからといって、それじゃ実際にキャッシュが入金されているか?と言えば、それはそうとは限らないという事がこれでおわかりいただけるでしょう。

これはミニスクライブのキャッシュフロー・ステートメントです。1988年のものです。
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この中で上のネット・インカムと、下のキャッシュ・フロム・オペレーションズという二つの項目に注目してください。ネット・インカムは日本語で言えば純利益です。この純利益を発行済み株式数で割った数字がEPSになります。だから純利益の数字は投資家のみんなから注目されているわけです。一方、キャッシュ・フロム・オペレーションズは営業キャッシュフローと呼ばれます。まずこの2つの数字の大きさを見比べてください。どっちが大きいですか?

さて、ここで銘柄選択のノウハウの話をします。


皆さんは株式投資する際、PERがめちゃくちゃ割高な株は最初から除外しようとか、EPS成長が全然低い株は後回しにしようとか、皆さんなりにそれぞれ銘柄を選ぶ基準というものがあるかと思います。

その選別のことを英語ではスクリーニングと言います。

つまりスクリーニングとは或る銘柄に投資すべきかどうかを判断する際、最初にサッと足きりをする判断基準だと思ってください。この足きりの際に皆さんに是非使っていただきたいのが次ぎに述べる大原則です。

つまり営業キャッシュフローが純利益より多い会社を選んでください

ということです。

もうひとつ大事なルールがあります。それは:

毎年、着実に営業キャッシュフローが伸びている会社を買ってください

ということです。

この2つの大原則を今一度ミニスクライブの例に戻って考えてみましょう。

これは1986年から1988年にかけてのミニスクライブのネット・インカム、つまり純利益とオペレーティング・キャッシュフローつまり営業キャッシュフローを対比した表です。
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この見出しにクウォリティー・オブ・アーニングスという表題が出ています。クウォリティー・オブ・アーニングスとは、「収益の質」という風に日本語では訳せると思いますけど、同じ純利益で1000万円出ている会社同士でもその利益の中身を見ると余裕で1000万円稼いでいる会社とフーフー言いながら1000万円をひねりだしている会社があるということです。

一般論で言えば純利益より営業キャッシュフローが沢山出ている会社は余裕で利益を稼いでいる場合が多いです。

逆にキャッシュフローが少ないのに利益だけはなんとかアナリスト予想をクリアしているという会社はこの「収益の質」が悪いわけです。

もう一度ミニスクライブに戻るとそれぞれの年の純利益と営業キャッシュフローを比較してみてください。

営業キャッシュフローの方が純利益より小さいですよね?

なお一番下の%は営業キャッシュフローを純利益で割り算した%です。これが100%以上であればよいわけです。

でもミニスクライブの場合は全然駄目です。

これは前に書いた、営業キャッシュフローは純利益を上回っていなければいけないという大原則に反しています。

だからこれを見ただけでミニスクライブには何かおかしなことが起こっていると感付くわけです。

もう一回、同じ表に戻ります。

こんどは営業キャッシュフローを横での比較、つまり年々、増えているかどうかみてみましょう。すると87年から88年にかけては減っています。
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このように年々着実に営業キャッシュフローを増やせていない会社は何か駄目なことがあるとにらんで間違いありません。



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