一株当り利益(EPS)だけを追っかけていると或る企業の経営が変質しはじめていることを見抜けない場合があります。

例えば下のグラフはブラジルの石油会社、ペトロブラス(ティッカー:PBR)の一株当り利益(EPS)と一株当りキャッシュフロー(CFPS)を示したものです。
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特に矢印の箇所に注目して頂きたいのですがEPSの方がCFPSより大きくなっています。

これは株式の投資家の立場からすれば赤信号が点滅し、警戒警報のサイレンが「ウーウー」と鳴り響いている状態です。

別に営業キャッシュフローより収益の方を多く報告したからといって、それは違法ではありません。

でも会計の保守性という観点からは余り感心しない行為です。


実際、ペトロブラスのキャッシュフローは薄い赤の破線に示したように漸減するトレンドであるのに、EPSだけを見ていると長期上昇トレンドがあたかも崩れていないかのような印象を与えているわけです。

いまCFPSとEPSの歴史的な差額の割合をグラフにし、「のりしろ」部分がどのように推移しているかを表すと次のようになります。
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つまり昔はたっぷり「のりしろ」が取ってあったのに、去年から急にギリギリ一杯まで利益として計上しはじめていることがわかります。

ペトロブラスはリオデジャネイロ沖にトゥピ(=いまはルラという名前に改名されました)という大深水油田を発見しました。

この深海油田の発見はペトロブラスにとっては場外ホームランをかっ飛ばしたのと同じ大殊勲です。

しかし欲を出したブラジル政府は既にテンダーに出していた同海域の他の鉱区の入札を全てキャンセルし、ペトロブラスに独占的に残りの鉱区を開発させることにしました。

このようにペトロブラスの独り占めを斡旋する一方でブラジル政府は国際水準よりかなり割高な採掘税を課すことを決めました。

ペトロブラスには独力で巨大なオフショアの油田開発をしなければいけないので先行投資負担が重くのしかかってきます。そこで同社は巨大な公募増資などにより資金調達することを決めました。

さらにブラジル政府自体も将来入って来るであろう採掘税から「前借り」する格好でペトロブラスの公募に参加し、政府の持ち株比率を引き上げるということをしました。

これは持って回った言い方ですが、ブラジル政府による一度は民営化されたペトロブラスの再テイクオーバー(=接収・国有化)に他ならないのです。

公募を成功させなければいけないプレッシャーからペトロブラスは利益を過大に計上するウインドウドレッシングに手を出し、ここに同社の会計の保守性は失われたと言って良いでしょう。

なお新しくブラジルの大統領になったジウマ・ロウセフは元ペトロブラスの会長であり、政府と企業との関係が余りに近すぎると一般の株主の利益を無視した権力の濫用が起こるというひとつの事例を今回の一件は示していると言えます。


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