【アンダーライティング・フィー】
さて、引受け幹事団を構成する投資銀行には上場業務に際してアンダーライティング・フィーという手数料収入が入ります。

この手数料が幾らだったかはIPOの売出し目論見書(プロスぺクタス)を見ればわかります。

例えば最近のIPOであるジップカー(ティッカー:ZIP)の場合、プロスペクタスの表紙の中段に次のような記述があります:

IPO価格 18ドル 総額1.743億ドル
アンダーライティング・ディスカウント 1ドル26セント 金額1220万ドル
ジップカー受取金額(公開費用差引前) 16ドル74セント 金額1.116億ドル
売出し株主受取金額(公開費用差引前) 16ドル74セント 金額5051万ドル


つまり値決め価格そのものは18ドルだったけど、それを全額、会社側が受け取ったわけではないということです。

会社側が受け取ったのはそこから投資銀行へ支払うアンダーライティング・フィー(この場合1ドル26セント)を差し引いた、16ドル74セントという数字になるのです。

なおアンダーライティング・フィーの1ドル26セントをIPO価格の18ドルで割り算するとちょうど7%であることがわかります。



【崩れない因習】
この7%という手数料は投資銀行にとって極めて魅力のある高マージンのビジネスです。それがいかに有利な手数料であるかを確認するために具体例で比較してみましょう。

まず或るネット証券がごくありふれた株の売買を取り次いだ場合です。

仮にマイクロソフト(ティッカー:MSFT $25.92)を100株買い付けたとします。
このネット証券における米国株の手数料は一回の取引につき一律26.25ドル(但し1000株まで)なので計算は次のようになります:

$25.92 × 100 = $2592
$2592 + $26.25(手数料)= $2618.25 


すると投資家は約1%の手数料を支払った計算になります。

上の例ではたまたまマイクロソフトという単純株価($25.92)の比較的低い銘柄を最少のラウンドロット(=100株という切りの良い数字のこと)購入した例ですので、実例としてはかなり手数料が割高になるシナリオです。

IPOの引受手数料はその7倍もオイシイわけです。

しかし引受け手数料は一般投資家の目からすればタダのように映ります。なぜなら投資家がIPOを直接シンジケート団から買う場合、手数料はゼロだからです。(これはあくまでも値決めの際であって、上場後の通常取引ではありません。)

だから7%もの手数料を抜かれているということには一般投資家は気付かないのです。

それではその7%の手数料を一体、誰が払っているのか?ですが、これは株式公開する企業が公開に際して受け取る金額が7%分だけ少なくなるというカタチで負担するわけです。

でも株式を公開する企業の立場からすれば、この7%が6%に値切れようが値切れまいがそんな事は大きな関心事ではありません。

なぜならそもそもIPOそのものが失敗(需要が無く、公開が取りやめになるなど)するリスクやアフターマーケットでの株価が急落し、投資家の心証を悪くするなど、もっと差し迫った心配事の方が大事だからです。

だから「IPOのアンダーライティング・フィーは値切らない」というのがギョーカイの常識になっており、こんにちまでずっと7%という手数料率が堅持されているのです。

もちろんこれには例外もあります。

たとえば中国農業銀行やGMのIPOのように巨大な売出しやプライベタイゼーション(民営化)の場合などは手数料のディスカウントがなされる場合があります。

これは僕自身の経験から来る感想ですが、一般に引受け手数料をディスカウントしてある案件は投資家にとって儲からない場合が多いです。

それはa)そもそもディール・サイズが大きすぎて上場後市場が消化不良を起こす、b)引受け手数料にうるさい発行体企業は値決め価格についてもうるさく、投資家ではなく発行企業に有利(=つまり割高)な値段で初値設定をする場合が多い、などによります。

なおこれはクロウト的な視点になりますが投資銀行間の年間引受け手数料の平均料率を統計データとして出している場合があります。これは投資銀行の実力を測る上で貴重なデータです。

本当に引受けの強い投資銀行(例:モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス)はフィーを割引しません。

しかし引受けに弱い投資銀行(例:シティグループ、UBS)はすぐにフィーを割引しようとします。

だから1年間のIPO引受け手数料をIPO金額で割り算したレートが7%に限りなく近い投資銀行は競争力のある投資銀行であり、逆にこれが5%とかになっている投資銀行はムリして案件を取っているということになります。

なぜこのようなデータ・ポイントが重要になるかといえば、ムリしてディールを取っているかどうか?という点はそのIPOのアフターマーケットでのパフォーマンスに大きな差となって現れるという経験則があるからです。

一般に引受け手数料を値引きしない投資銀行の案件はアフターマーケットでのパフォーマンスも良いです。

でもムリしてディールを取っている投資銀行はどうしても値決めが発行体企業寄りになってしまうため、アフターマーケットでの株価も冴えません。

「そういうことを言われても、、、むずかしすぎてわからない」

と思う読者も居ると思うので、僕なりにIPO引受け業者をランク付け(ブランド力、ブックビルディング能力、初値設定の巧さ、アフターマーケットの買い支えなどを考慮)すると:

モルガン・スタンレー ★★★★★
ゴールドマン・サックス ★★★★★
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ ★★★☆☆
バークレイズ ★★★☆☆
JPモルガン ★★★☆☆
クレディスイス ★★★☆☆
UBS ★★☆☆☆
シティグループ ★☆☆☆☆
パイパー・ジェフリー ★☆☆☆☆


という感じです。



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