投資銀行業の極意は「市場が許容できる最大限の価格は幾らか?」を知ることに尽きます。

つまり「マーケット至上主義」です。

鮨屋の喩えで説明します。

鮨屋のカウンターに座って値札を見る、、、ところが自分が注文したいものが「時価」と書いてある。

このとき皆さんはどう感じますか?

(えーっ、何それ。恐ろし過ぎ!)

そう感じる人も多いでしょう。

(おもしろいじゃねぇか。この謎に包まれたところがまた興味をそそるな)

そう思う人も居るかもしれません。

投資銀行の世界は、つまり「時価主義」の世界なのです。

だからどんなに財務モデルが操れて、精緻な分析が出来るアナリストでも、市場が許容できる最大限の価格、つまり「通り相場」に対する嗅覚が養えない限り一生下働きで終わります。

一例としてM&Aの公開株式買付けの場面で市場から株式を買い集める場合、自分がどれだけ理詰めで妥当価格を計算したところで、株主の多くからソッポを向かれればそのディールは失敗します。

(一体、幾らの価格を提示すれば株主が株券とサヨナラしてくれるか?)

この機微が簡単にはわからないからこそ企業は商業銀行のバンカーに尋ねるのではなく、投資銀行マンをアドバイザーに立てるわけです。

そういうと(何となくマーケット至上主義って、胡散臭いよね)と感じる読者も多いでしょう。



しかしひとりのアナリストによる理詰めの妥当価格の計算と言ったところで現代の会計ではかならず主観(judgment)が入る余地がありますし、そもそもモノの価値に対する「正解」がひとつで固定していれば、株価が上下動を繰り返す事自体、オカシイわけです。

市場が許容できる最大限の価格という事を英語で言えばoptimal(最適値)ということです。換言すれば「折り合いどころ」でも良いでしょう。

鮨屋の板前さんが本当にお客さんに喜んでもらえるいいネタを仕入れるためには魚市場でフンパツしなければいけないかも知れません。そのときに定価が決まっていれば悪いネタで我慢しなければいけないかも知れないのです。

また先月と同じ品質のネタでも、たまたま他の買い手もどんどん競り上がってゆけば、いつもと同じ値段では材料が競り落とせないこともあります。

その場合、「このマグロの理論価格は幾らなんだから、市場が間違っている!」とひとりで叫んだところでネタを仕入れ損ねたらお店が開けられなくなります。

先日、就活SNSのLinkedIn(リンクトイン)がIPOしました。

高値が付いたので「この株価はクレイジーだ!」という声の大合唱になっています。

でもFacebookやGrouponや、その他およそ見込みのあるネット企業の経営者なら、誰もそんな子供じみた恨み事は言わない筈です。

なぜならリンクトインがあのバリュエーションで資本を市場から調達できるということは、それだけ有利な条件で軍資金が集められたわけですから、座視しているとその資本力を使ってどんな企業戦略を繰り出してくるかわからないからです。

すると防衛の意味でも他の企業は自社の資本政策を練り直さなければいけない、、、

それはつまりSNS企業の主戦場がこれまでのプライベート・マーケット(未公開市場)からパブリック・マーケット(公開市場)へ移ったことを意味します。

SNSゲームのジンガ(Zynga)が急遽予定を繰り上げてIPOへの最終準備に入ったのはそのなによりの証です。

このように経営者も頭を切り替えないといけないし、バンカーも頭を切り替えなければいけない、、、これがカンタンなようで実は難しいことなのです。