よくサラリーマン向けの雑誌などで「自分の価値が幾らかを知ろう!」という記事がありますが、ウォール街に勤める人たちは常に自分の相場が幾らかを知っています。

これには2種類の意味があって、若し自分の貰っている報酬が世間相場より低ければ転職しようという事と、もうひとつは自分の報酬がその成果に比べて高すぎるというケースも当然あるわけです。

その場合、彼らは考えます、(これはヤバいぞ)と。

なぜなら自分がその働きに不相応な高報酬をもらっている場合には、遅かれ早かれその事実が暴かれ、足元をすくわれてしまうからです。

それを説明します。

1年に一回、マグラーゲンズという調査会社が各投資銀行の顧客別売上高に関するレポートを出します。

全ての投資銀行がこの調査に参加しているわけではないと思いますが、大半の投資銀行は経営管理の判断を下す際のひとつのツールとしてこの調査に参加します。

まず投資銀行は自社内に保存してある顧客別の売上高(委託手数料、引受け手数料など)データを調査会社へ供出します。

調査会社はそれを集計してそれぞれの顧客がウォール街全体にどれだけの手数料を落としているかを計算するとともに個々の投資銀行がその顧客からの売上高で第何位につけているかを克明に教えてくれるわけです。

或る機関投資家がウォール街に手数料を落とす場合、たいてい下の図のように右下がりのカーヴを描きます。
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つまり上位の特定の数社と極めて親密に付き合い、あとはどんぐりの背比べみたいになるということです。


このように付き合う相手をある程度限定するひとつの理由はそれによって「それ相応の」良いサービスを投資銀行から受けようという機関投資家側の意図があるからです。

結果として上位1位から3位くらいまでの投資銀行がアベイラブルなコミッション・ダラーの過半を獲得するということが起きるわけです。

大口の機関投資家を担当しているセールスマンでランキングの上位に入っている人は自ずと生産性が高いし、そうでない人は生産性が低いということが起こるわけです。

すると自分が担当している数十件の顧客のそれぞれで自分がどこにランクされているかによって総合的な成績に大きな差が出るわけです。

米国の機関投資家向けセールスマンは大体、担当地域ないしは顧客の運用スタイルによって客をあてがわれます。

地域ではイースタン・シーボード(東海岸)、サウス(南部)、ミッドウエスト(中西部)、ウエストコースト(西海岸)などです。

また顧客の運用スタイルではヘッジファンドを中心に担当させられるセールスマンや年金などのバリュー・マネージャーを中心に担当させられる場合もあります。

たとえばペンシルバニアなどはバリュー・コリドー(バリュー街道)と言ってとりわけバリュー投資のファンドマネージャーが多いことで知られています。このように担当地域と運用スタイルの2つの要素が連動する場合もあります。

さて、このように自分の縄張りがかなり明快に規定され、しかも冒頭に述べた調査などで全体の中の自分のランクがわかるということは、セールスマンが自分の「価値」を極めて正確に把握出来ることを意味します。

若し自分が「会社への貢献度に比べて相応の報酬を受けていない」と感じればやることはただひとつ。それはライバルの投資銀行の営業部長に電話することです。

「アンタのところのデンバー担当のセールスマンはランキングが9位で売上高はこれだけだ。僕はランキングが2位で去年はこれだけ売上げた。We need to talk.」

という具合です。

このように成績の悪いセールスマンは社内で営業部長の注意を惹かないようにコソコソやっていてもライバル会社の敵が自分の上司と結んで自分の追い落としにかかるわけです。

また営業部長の評価は売上高の極大化で決まるわけですから常に社内外のより優秀な人材とコンタクトし、「血を入れ替える」ことにより競争力を維持しなければいけません。その意味では営業部長も使い捨てなのです。

上の例では機関投資家向けセールスの分野で説明しましたが、事情はアナリストや法人マン(コーリング・オフィサー)でも大体同じです。彼らはアナリスト・ランキングやリーグテーブルによってつねに「まな板の上に乗っている」わけです。

ウォール街では次のようなことわざがあります:

The moment you think that you are irreplaceable, you are gone.
(自分は安泰だと思った瞬間におまえのクビは飛ぶ)