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アップルのiCloudについては多くのことが書かれているので今更詳しくは書きません。ただハッキリしているのは「四人組」と呼ばれるグーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック間での顧客取り込み競争は一段と熾烈化する一方で、おのおのの会社は自分の得意分野を防御するのに一層必死になっているという事です。

アマゾンはクラウドに音楽を保管するサービスとして:

5000曲なら年間50ドル
2万曲なら年間200ドル

という料金体系を発表したばかりですが、その数日後にはアップルが:

2万5千曲までなら年間24.99ドル

という事を先日のWWDCで発表しています。

この場合、攻めているのはアマゾンであり、守っているのはアップルです。
いや、もっと踏み込んだ言い方をすれば「アマゾンに攻勢を仕掛けられたので、アップルはiCloudの価格設定で譲歩を余儀なくされた」のです。

同様の事は他のドメインでも起こりました。

例えばバーンズ&ノーブルが電子書籍リーダー、「ヌック」の値下げを発表したとたん、アマゾンも「キンドル」の値段を値下げしたなどです。

以前から言っていますが現在の消費者向けクラウド・サービスでは「四人組」の本丸にはハッキリとした棲み分けが存在します。

つまりアマゾンは書籍、アップルは音楽、グーグルはビデオ、フェイスブックはソーシャルに強く、それ以外はどれも抜きん出たサービスは無いということです。

だから各社ともライバルの本陣にときどき攻め込む素振りを見せて、相手の利益マージンをぶち壊すことに腐心しているのです。


これは「勝者なき戦い」です。不毛な消耗戦です。
もちろん、消費者にとってみればこれほどウレシイことはありません。

でも消費者にとって素晴らしいことと、それがその企業の増益につながるということはかならずしも同義ではないのです。

実際、アップルはこの戦いを遂行するために莫大なデータセンターへの投資を余儀なくされています。若しデータセンターにどんどんお金をつぎ込んでも、それが回収できなければ意味は無いのです。

先日のアップルのWWDCでいちばんスティーブ・ジョブスがウケを取っていた瞬間は自社のサービス、「MobileMe」を自虐したときです。

あれは自分で自分のサービスの価格設定を低くリセットした発表に他なりません。

よく先まで見通せる投資家なら「この映画の結末は悲惨だろうな」ということはWWDCを観ていればすぐわかること。

それからもうひとつ指摘しておきたいことですが、アマゾンやグーグルやフェイスブックはもともとウェブ会社ですのでデータセンターの運営はネイティブな本業の一環です。

しかしアップルにとってはデータセンターの運営はネイティブなビジネスではありません。すくなくともいままではそうでした。

だから自ずとアップルは「不利な戦い」を強いられるのです。

また結局のところ冒頭に掲げた、コンテンツごとの各社の割拠は暫くの間続くと予想されます。iCloudが「成功」するにはすべてのコンシュマー・コンテンツをアップルが囲い込むのが理想です。

でもそれは簡単ではないと思います。

なぜならミュージックという業界はインターネットの登場で真っ先に業界全体のビジネスモデルが崩壊した産業であり、アップルはそのドサクサに紛れて極めて有利に戦略を展開することが出来たからです。

しかしミュージック以外の分野ではアップルの交渉時のレバレッジはありません。

それはアップルがデータセンター戦略を読み間違えると「白い巨象」を建設してしまうリスクを常に孕んでいるということです。

だから僕にはiCloudを好感してアップルの株を買う人の気が知れない。

そんな事をするより、フェイスブックやアップルのデータセンターにフラッシュドライブを納品しているフュージョン・アイオー(=この2社で売上高の75%)のIPOを買った方がよっぽど良い気がします。