先日、シンガポールのSWF(ソブリン・ウエルス・ファンド)、テマセックが中国の四大銀行のうち2行(中国銀行、中国建設銀行)の株式を処分したと発表しました。

金額にして36億ドル相当です。

このニュースは欧米の機関投資家にチョッと驚きを持って迎えられました。

なぜならテマセックは所謂、戦略的投資家として長期に渡って中国の大手銀行と付き合ってゆくだろうというのが世間の理解だったからです。

そのテマセックが「まるで沈む船からねずみが逃げ出すように」慌てふためいて中国の銀行株を処分している理由はLGFVに対する懸念です。

LGFVとはLocal Government Financing Vehicleの略で中国の不動産開発の際に組成される特別目的会社(SIV)を指します。


早い話がペーパー会社です。

そのペーパー会社が名目上の融資先になるので中国の銀行は「直接、地方政府に融資してはならない」というルールを迂回できるわけです。

先日、ムーディーズは「LGFVを使ってアレンジされた貸付は5000億ドルくらいあると思われる。しかもその内容は悪化している」というコメントをしました。

ムーディーズがどうやってこの試算に到達したかに関してはいろいろ批判もあります。

しかし既にLGFVの債務残高が中国のGDPそのものを超えていることは金融関係者の多くが認めるところです。

それらのLGFVは保険会社などを通じて「確定利回り商品」のような感覚で一般投資家に販売されています。

それらの「財テク商品(WMP:Wealth Management Products)」が利払い困難に陥った場合、オフバランスシートに「飛ばし」てあるそれらの債務は銀行のバランスシートに押し戻される可能性があります。

実際、去年、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)はLGFVへの融資をちゃんとバランスシートへ戻すように指令を出しています。

問題はLGFVによってファイナンスされた不動産物件の多くはちゃんとキャッシュフローを生んでいない点です。

マンションのような「箱モノ」は入居者が無ければ金食い虫と同じです。

箱モノが次々に完成することを「経済成長」だと勘違いする投資家が多いですが、売れ残り物件は極めて資本破壊(destruction of capital)的な作用をもたらします。

中国経済は過去10年間に固定資産投資への依存度を高めました。それは平たく言えばマンション建設などが経済のけん引役を果たしてきたということです。その反面、消費が経済に果たす役割は逆に小さくなっています。
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下のグラフでは日中の比較をしています。左は中国で1987年の時点での固定資産投資への依存度(青)と2010年でのそれを示しています。一方、同じ時期日本は固定資産投資への依存度が下がっているわけです。
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つまり今後の流れとしては中国も固定資産投資への依存度が下がると考えるのが自然なのです。

いま中国のGDPが世界に占める割合は約15%です。
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しかし中国1国で世界のセメントの53%、鉄鉱石の48%、アルミの42%、銅の39%、ニッケルの36%を消費しています。これらはいずれも建設や固定資産投資により多く消費される素材です。だから固定資産投資が鈍化すればこれらの素材が受ける悪影響は大きいと考えられるわけです。

オーストラリアは上の表の中にある品目のいくつかを中国へ輸出することで好景気を享受してきました。

従ってLGFV問題が顕在化するとオージー・ダラーは軟調に推移すると予想されます。