米国債を巡って今、三つの憂いがあります。

1.MMF(マネー・マーケット・ファンズ)からの資本逃避
2.長期ソブリン格付けがトリプルAを失うリスク
3.格付け機関に対する投資家の信頼が揺らいでいる事

これは似ているようで、それぞれ原因が異なります。整理します:

【MMFからの資本逃避】
昨日あたりから米国のMMFから一部の資金が抜け始めているそうです。80億ドル相当と聞いています。
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MMFから資金が抜けはじめているのは米国の短期国債(Tビル)のうち、8月第1週に償還を迎えるものへの支払いが滞るリスクがあるからです。その原因は8月2日前後に期限を迎える、米国の連邦債務上限引き上げ問題に対して議会のコンセンサスが得られなかった場合、米国債がテクニカル・デフォルトとなることが関係しています。

前回MMFの市場がギクシャクしたのはリーマン・ブラザーズが倒産したときです。MMFというのは最も安全で、最も流動性が高い「お金の置き場所」であると言われているので、それに対して不安が出るということは突発的なボラティリティの増加などの事態を招くリスクを孕んでいます。

【長期ソブリン格付けがトリプルAを失うリスク】
格付け機関、スタンダード&プアーズは米国の連邦債務上限引き上げに際して、「すくなくとも4兆ドル程度の赤字圧縮が無ければ、トリプルAをはく奪する」と意思表示しています。しかし現在まな板の上に乗っている法案は下院共和党案も、上院民主党案もこの4兆ドルのターゲットを大幅に下回る、その場しのぎの案となっています。従って仮に債務上限引き上げが期限までに成立したとしてもS&Pの要求は満たせないわけですから、トリプルAの喪失の可能性は高いわけです。

トリプルAを失った場合、米国債は売られるのか?

これについてはいろいろな複雑な議論があります。しかしそのインパクトに関しては市場関係者の意見も割れているといったところでしょう。



【格付け機関に対する投資家の信頼が揺らいでいる事】
水曜日に新発の商業不動産担保証券(CMBS)の値決めが土壇場でキャンセルになる事件がありました。

これは前代未聞の事です。

既に完売していたCMBSの売出しが頓挫した理由はスタンダード&プアーズが「この証券に対する格付けの意見発表を保留したい」と言った為です。このような証券の発行に当たっては通常、「仮のレーティング」でマーケティングを済ませた後、値決めに際して正式のレーティングを獲得するというステップを踏みます。しかし今回はS&Pが「いろいろ考慮しないといけない事があるので未だ格付けが決まらない」とコメントしたわけです。今回のディールの主幹事であるゴールドマン・サックスとシティグループは慌てて値決めを中止しました。

CMBS市場はサブプライム・バブルが弾けた後、機能不全に陥っています。今年に入って初めて少し息を吹き返したかのように見えましたが(下のグラフ参照)今回のS&Pのズッコケは証券化商品の生成過程に関して未だ投資コミュニティでは深い猜疑心がはびこっていることが浮き彫りになりました。
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もちろん複雑な「合成商品」であるCMBSとストレートな米国財務省証券に対する格付けの賦与は別個の問題です。しかし折角、立ち直りかけたCMBS市場に冷水を浴びせる今回のS&Pのチョンボは格付け機関という存在に対する投資家の信頼という面ではマイナス効果を与えたと考えてよいでしょう。