先日米国の連邦債務上限引き上げ法案が成立して以来、投資家の注目はスタンダード&プアーズ(S&P)がこれを受けて現在の米国の長期ソブリン格付けであるAAA(→トリプル・エーと読みます)を剥奪するかどうかに移っています。

既に他の2社は現在の格付けを維持する(但し見通しはネガティブ)ことを確認しています。

なぜS&Pの判断にとりわけ市場関係者が注目しているかといえば、同社だけが「今回の連邦債務上限引き上げ法案で少なくとも4兆ドルの財政赤字圧縮が盛り込まなければAAAはキープできない」ということを以前から主張してきたからです。

火曜日に成立した債務上限引き上げ法案では最大で2.4兆ドルの赤字圧縮が決まりましたので、S&Pの要求する4兆ドルには届かなかったわけです。

若しS&Pが「AAAを剥奪する!」と発表したら、その直後に相場が荒れるかもしれませんが、基本、そこがトレーディング的には株の買い場になると思います。

なぜなら上に述べたような事情はもう市場関係者なら重々承知していることであり、一度市場が織り込んだ材料(ダウ工業株価平均指数は8立会日連続安しました)をもう一度織り込み直すというのはおかしいからです。

「いや、相場が下がっている本当の理由はS&Pのレーティングではなくて世界経済の減速だ」

そういう声が聞こえてきそうです。

確かに世界のGDP成長予想が下がってきているのは困った問題です。なぜならGDP成長率が下がると政府の税収も下がってしまい、それはデット・サービス(借金の返済)能力の減退を招くからです。

実際、米国のGDP成長率が1%下がると7500億ドル程度の税収の減収になると主張するエコノミストもいます。



先週、債務上限引き上げ問題が議論されている真っ最中に米国の第1および第2四半期のGDPがそれぞれ+0.4%と+1.3%と発表されました。第1四半期の数字は+1.9%からの大幅下方修正であり、第2四半期のそれは市場予想の+1.8%を大幅に下回る数字だったのです。

つまり折角、今回2.4兆ドルの財政赤字削減に合意したものの、その法案が審議されている先からもう2.4兆ドルの削減は実現おぼつかなくなってしまっているのです。

同法案の成立直前・直後あたりから市場関係者のフォーカスがGDPに移ってしまい、「成長がない、成長がない」という大合唱がはじまったのにはそういう背景があります。

因みにイタリアの国債が急にフラフラしはじめたのも欧州各国の製造業購買担当者指数が予想を下回ったことが関係しています。

「経済成長のロードマップをどう描くか?」

この問題が米国でも欧州でも口角泡を飛ばして議論されているのです。

ただ僕の好みから言うと今の相場は市場関係者のフォーカスが弱いGDP成長に向けられ過ぎているという気がします。確かにここのところの経済統計の数字は弱いものばかりですが、だからといって上に紹介した第1四半期の0.4%や第2四半期の+1.3%が当面のランレートかといえば(もう少し高いんじゃないかな?)という気がしないでもありません。

なぜか?

その一例は米国の鉄道会社のフレート・ボリューム(積荷輸送量)です。各社の第2四半期決算から数字を拾うと2%から3%成長になっているところが多いです。貨物列車の活動状況から判断すると米国での物流アクティビティがそれほど落ち込んでいる様子はありません。

これはウォーレン・バフェットも指摘しています。彼は傘下に鉄道会社も持っており、自ら「鉄道ヲタ」として知られており、詳細な運行データをちょうど高校生が『PLAYBOY』のグラビアを眺めるように「ハアハア」と重い息をしながら丹念に鑑賞しているにちがいないのです。

そのバフェットは「心配せんでええ。景気は上向く」と言っているわけで、僕としてはそこらへんのマーケットのコメンテーターより詳細かつ独自のデータに基づいて喋っているバフェット爺さんの意見の方が傾聴に値すると感じるわけです。

まとめます。

「相場は知ったら、しまい」という格言がありますが、皆が予期している悪いニュース(S&PによるAAA剥奪)は実際にテープに出た時が相場の転換点、だからその時点で株は買いになります。

今の市場関係者はたかだか2週間くらいの間にGDP予想を3%近くから1%程度にまで削るという荒っぽいエクスペクテーションの下方修正をしています。本当に米国経済は減速しているのかも知れないけれど、貨物の輸送量のデータのように「そうじゃない」というデータ・ポイントも無い事はないのです。

従って皆が下を心配しているときには僕は上を心配したいと思います。

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