ユーロ圏共同債とはドイツやギリシャなどの単独の国ではなく、ユーロ加盟国全体が発行する債券のことを指します。

多くの国が集まって共同で債券を出せばひとつの国が債券を出す場合より信用力が高くなるし、投資家にも受け入れやすいだろうという考えがこの構想の背景にあります。

信用力が高く、流動性の面で投資家が買いやすい債券を作れば資金調達コストも自ずと低下するという読みもあります。

従ってユーロ圏共同債は現在揉めているギリシャをはじめとした欧州周辺国の支援の際の切り札になる可能性があります。

その反面、これを実現するためにはハードルもあります。

その最大のものは欧州各国が一国の財政、予算を自主的に決める権限を部分的ないしは完全に放棄しなければいけなくなるという点です。

欧州連合には財務省に相当する機関がありません。なぜなら財政を決めるのは各国の特権だと思われてきたからです。

しかしユーロ圏共同債を出すということになると自ずとそれを管理監督し、きちんと利払を行う機関が必要となり、その機関はゆくゆく欧州財務省と言う性格を帯びる可能性が高いです。

これは財政を決めるのは各国の特権だと考える人たちには受け入れがたい事です。

従ってユーロ圏共同債には根強い反対もあります。

中・長期的にはこれまで欧州中央銀行(ECB)が買い支えてきたギリシャ、イタリア、スペインなどの国債を欧州連合を中心とする各国政府が肩代わりする必要があります。

そのための受け皿が欧州金融安定ファシリティー(EFSF)と呼ばれるものです。

しかしEFSFは欧州連合がギリシャなどの国の国債を買うための、言わば投資信託のような仕組みであり、それ自体が特別目的会社で、存在期間の面で期限があります。

またそのような暫定的なファンドでありながら高い格付けを格付け機関から獲得できるようにファンドの一部の資金を温存し、何かのときのためにとっておくという設計になっています。

すると折角、各国がEFSFにお金を持ち寄っても、そのプールした資金の一部は国債購入に充当できないわけで、きわめて資金効率が悪いです

しかもEFSFはそのファンドの格付けがダウングレードされないようにするため、若しEUの中から破綻する国が出た場合、その破綻国は資金の出し手の座を降りることになっています。

するとパラドックスが起きます。

つまり破綻しそうな国が増えれば増えるほどEFSFの資金が必要になるわけだけど、そうした状況に限ってEFSFに資金を供出できる国の数は減ってゆくという宿命を負う訳です。

いま救済すべき国がギリシャ、ポルトガル、アイルランド程度なら余裕で面倒を見る事ができます。しかし例えばイタリアが救済する側から救済される側に回るとEFSFは突然、パワー不足になるわけです。

このためイタリアなどの大きな国が不安定になったときでも対応できる、もっと頑丈な仕組みを考える必要があるわけです。ユーロ圏共同債はその意味で、EFSFに代わるスキーム、あるいはEFSFよりもっと一歩踏み込んだスキームだと言えると思います。


ユーロ圏共同債のメリットは1.EFSFに比べて資本効率が良い事、2.市場の信頼を得やすい事、3.資金調達コストが安くなる事です。

反対にそのデメリットは1.財政主権の侵害、2.現行の法律では各国の憲法違反、3.欧州憲法にも抵触すると考えられるので法改正を行わなければいけないという点です。

このようにユーロ圏共同債を実現するには法律改正の複雑な法的手続きが必要になりますが今は利害関係者がいろいろな見解を示しており、意見の一致とは程遠い状況です。

たとえば欧州連合の中にヨーロピアン・カウンシル、つまり欧州連合理事会という組織があります。ここは重要な政策を決めてゆく機関ですが現在、ユーロ圏共同債の発行には消極的な立場をとっています。

これとは対照的にヨーロピアン・コミッション、つまり欧州委員会という組織があります。ここは実際に政策を執り行う、言わば行政に相当する機関ですが、こちらは早くユーロ圏共同債を発行しなさいと催促しています。

消極派の代表は欧州連合大統領のヘルマン・ファンロンパウです。かれはギリシャ支援第二枠が決まった際、将来、ユーロ圏共同債を出さなければいけない事態になった場合、それが迅速に行えるように今から各国の財政収支を改善させ、国家会計の明朗化に勤め、税の取り立ての透明性をカイゼンするための組織、ユーロ経済政府という機関をドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領が提唱した際、その議長に指名されました。

言葉を変えて言えばユーロ経済政府はユーロ圏共同債発行のための準備組織と言えます。

しかしファンロンパウ議長は「各国がちゃんと財政収支を改善させてからでないとユーロ圏共同債の発行は許さない」ときわめて慎重な立場をとっています

一方、ユーロ圏共同債に対する積極派としてはオリ・レーン欧州委員会経済通貨問題担当委員が居ます。

かれは現在の危機的な状況に鑑み、先ずユーロ圏共同債を発行し、その後で各国は財政収支の立て直しをすべきだと主張しています。

因みにこれは前例があります。

アメリカがイギリスと独立戦争を戦った時、アメリカの州政府は莫大な負債を抱えました。そこで州政府が破綻するリスクが高まりましたし、破産した国は連邦政府から脱退させるべきなのかという議論が出ました。今、欧州ではギリシャをユーロ圏から叩きだすべきかどうかの議論がなされていますが、それに酷似しているわけです。

アレキサンダー・ハミルトンは米国連邦債(=今日の米国財務省証券に相当)を出し、州政府の債務を連邦政府が全部面倒を見るという案を提案しました。
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結局、米国の連邦政府は州政府の財政立直しを待たずに見切り発車で米国連邦債を出し、州のデフォルトを回避します。これは今日の欧州の例に当てはめればファンロンパウ議長の主張する、各国が財政収支を改善させた後ではじめてユーロ圏共同債が発行できるという理論付けとは真っ向から対立する事例だと言えます。

ギリシャをユーロ圏から放り出して破綻させるというのは単純に考えればいちばんスッキリしたやり方です。

しかしそれが欧州の銀行システム全体にストレスを与えた場合、比較的自己資本が脆弱なドイツやフランスの銀行に不安が走るという可能性も忘れてはいけません。ギリシャだけでなくフランスの銀行でも取り付け騒ぎが起こる可能性もゼロではないのです。