UBSのトレーダーが無許可のトレードで1500億円の損失を出したというニュースが出ています。

このトレーダーはUBSのデルタ・ワン自己売買部門に所属しています。

そこでデルタ・ワンという商品分野を説明します。

先ずデルタ(delta δ)とはトレーディングの世界では次のように定義されます:

原資産が1動いたとき、そのトレード対象がどれだけうごくか?


いま「デルタが1だ」と言った場合、原資産の動きとそのトレード対象の動きが限りなく同一に近いことを示します。

一例で示せばSPDR S&P500 ETF(ティッカー:SPY)はその元になっているS&P500指数と限りなく似た値動きをするのでデルタ・ワン関連商品だと位置づけることが出来るでしょう。

このようにETFやエクイティー・スワップが普通、投資銀行のデルタ・ワン自己売買部門でトレードされる商品となります。

最近、投資銀行の業績は世界的に落ち込んでいますが、その一因はサブプライム問題が発覚後、債券のビジネスが大苦戦しているからです。

ロンドンのヘッドハンターで有名なTwitterのユーザーでもあるマダム・ブッチャー(「屠殺夫人」)は人材市場の面から:

「FICC(債券、通貨、商品)は死んだ」


と宣言しています。資産担保証券の発行市場が機能不全に陥っている事は下のグラフからもわかります。
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そこで:

「エクイティー・デリバティブだけが唯一の希望となっている」

わけです。

エクイティー・デリバティブの中でもETFや新興国エクイティー・デリバティブなどのデルタ・ワン自己売買部門は最も期待される分野です。


通常、デルタ・ワン自己売買部門は原資産とETFとの乖離のアービトラージ取引などを主業務にしています。

ETFは毎日、ポートフォリオ・コンポジション・ファイル(PCF)と呼ばれる保有資産リストを公表します。

そして「指定参加者(Authorized Participant=AP)」と呼ばれる業者がこのPCFにぴったり一致する資産のバスケットをDTCC=Depository Trust and Clearing Corporationを通じてカストディアンにデリバーし、新株(Creation Unit)の発行を受けます。

或るETFが人気になって原資産よりプレミアムが付けば指定参加者はそのETFを構成している個々の銘柄を拾ってバスケットにし、上の方法で新株を貰えば鞘が抜けるわけです。

逆に或るETFが売り叩かれて原資産よりディスカウントになれば指定参加者は割安になっているETFを場で拾うと同時にそのETFを構成している個々の銘柄をショートします。そしてETFをカストディアンに持ち込むと同時にリデンプション・ユニット(Redemption Unit)と呼ばれる個々の現物銘柄のバスケットを受け取るわけです。

この説明が難しすぎるならば、普通の投信で新しく投資家からのお金が入金した場合と解約が出た場合を考えて下さい。

通常、投信会社はニューマネーが入るとそれで自分で証券会社に注文を発注し、無駄なキャッシュが遊んでいないようにします。逆に解約が出るとポートフォリオの一部を売ってキャッシュを作り、それを受益者に返すわけです。

ETFの場合、この買い足したり、売ったりする作業を「外部化」し、指定参加者に任せていると考えれば良いわけです。若し市場原理が効率的に働くのであれば、このように外部者に調整を委ねていても滞りなく乖離の解消が出来る筈です。

このようなアービトラージ取引の性格から考えてデルタ・ワン自己売買部門がETFを巡って行う自己取引は一般に低リスクです。

だからこそデルタ・ワンのETFデスクで大きな損失が出たというのは意外な事件だったと言えます。